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ある日の地の精霊王様の村日記 番外編

これはアイナ様たちが聖域に来る前日のお話。

地の精霊王様が治める地にはたくさんの精霊、妖精、ドワーフなどが、みんな仲良く楽しく暮らしている。それから、地の精霊王の眷属であるケット・シーも。

『お~い!ニャーニャー!いるかー!』ドンドンドンドンドン!
今日も元気なドワーフの親方が耳がキーンとなる位の大声で呼んでいる。
ついでにドアはどんなノックにも耐えられるドワーフ特製品!

『親方!いつも言ってるにゃ!そんな大きな声を張り上げなくても聞こえてるにゃ!』ギギー
まったく!とブツブツいいがら地の精霊王の側近で実はケット・シーの族長であるニャーニャが精霊王の館から出てくる。

『ガーハッハ!わりぃわりぃ!つい、いつものクセでな!むさ苦しい連中の中にいるとなガサツになっていけねぇや!ガーハッハッ』
ドワーフは自分たちで掘り出した鉱石などを使って自ら鍛冶をし、技を競い合っている。常に大音量の中にいる彼らは皆、怒鳴りあってるんじゃないかと思うような声で会話し笑い合っている。ついでに仕事のあとの酒を何より楽しみにしている。もちろん酒も手作りだ!

『分かった分かったにゃ。それで親方どうしたにゃ?』
『おっ!そうだったそうだった!コイツだよ!』
そう言って親方が掲げたのは
『かご?なんにゃ?』
『ちげーよ!その中身だ中身!ほれ!』
親方が声とは大違いの、優しい手つきでカゴの中の布を捲ると一番新入りのケット・シーの赤んぼが気持ちよさそうに寝ていた。なんと、ふかふかの小さい布団まで敷かれている。

『またこの子かにゃ~』
『そうなんだよ。いつもみたいに機嫌よく俺たちにまとわりついて遊んでたと思ったらいきなりパッタリ倒れてなぁ。気づいたら寝てたんだよ』
この新しい子はどういう訳か元気にしてたと思ったら次の瞬間パタリと倒れてそのまま寝てしまうのにゃ。

『それは申し訳なかったにゃ。いつもありがとにゃ』
親方からそっとカゴを受け取るニャーニャ。ドワーフさんは優しい力持ちなのにゃ!

『いやいや。こいつは今までのケット・シーたちの中でも、とびきり人懐っこくて明るくて、俺たちの中でも人気なんだ。だから全く気にする必要はねぇよ!ただなぁ』
そうなのにゃ。この子は明るくてみんなに好かれている。だから、どこでも時も場所も選ばず倒れて眠ってしまうこの子をみんなが心配してくれているにゃ。

『ほんとにみんなに良くしてもらって感謝してるにゃ』
この村のみんな親切な人ばかりにゃ。

『気にすんな!みんなが好きでやってる事だ。そのカゴはな、うちのかみさんが作ったやつだ。まだあるからよかったら使ってくれや』
『そんにゃ!悪いにゃ!今お返しするにゃ!……んん?』
今何か気にしないといけない言葉が?

『親方、今、まだあるとか言ったにゃ?』
気のせいかにゃ?

『おう!言ったぞ!俺んとこだけじゃねえぞ?それこそ村中の女どもがな、競うようにそいつに似合う可愛いやつを!寝心地のいい布団を!カゴを!って作りまくってんだよ』

にゃ、にゃんと!
『いつの間にそんにゃことに…』
びっくりしすぎて言葉が続かないにゃ。この村の女衆はみんな器用でちょっとしたものなら簡単に作ってしまう。立派な職人なのにゃ。

『ガッハッハッ!だからな、いつどこで倒れて寝ちまっても気づいた誰かが競うようにカゴ持って駆けつけるからよ!安心しろや!ガッハッハッ』

なんと言うか
『みんな人が良すぎにゃ!今度みんなにお礼言わないといけないにゃね』
いつもみんなに助けられてしまうにゃ。

『何言ってんだ!それこそ気にすんな!みんな好きでやってんだからよ!そんなことよりよ…そいつ大丈夫なのか?』
みんなが病気なんじゃないかと心配してくれているのだが、原因が分からないのだ

『親方、ニャーニャどうかしましたか?』ギギギー
『ご主人』
『よお!精霊王様、邪魔してるぞ』
我らの主人である地の精霊王様が話し声に気づいて出てきたようだ。

『親方、ごきげんよう。今日はどうされましたか?あら?ニャーニャ、そのカゴはなんですの?』
ご主人が気がついて手元を覗いてきた。そこにはまだスヤスヤ眠るケット・シーの赤ちゃんが…

『まあ!またこの子ですのね?』
『実はにゃ~』
今までの経緯を説明した。聞き終えたご主人は

『それはそれは、皆さんありがとうございますですわ。こんなにお気遣いいただいて、この子は幸せものですわ』
ご主人は偉ぶったところの無い素晴らしいお人にゃ。だから、誰だろうと普通に話すし、お礼を言うし、謝罪もする。自慢のご主人にゃ。

『気にないでくれ!俺たちが勝手に好きでやってる事だ!それにみんな楽しんでやってるしな!それより精霊王様。こいつ、やっぱりどっか悪いのか?ちょっと普通じゃねえよな。この寝方は』
親方もやはり普通じゃないと心配してくれているにゃ。現に館の中にいたご主人が気づくほどの声で話しているのに、この子は眠ったままにゃ。

『ご心配いただきありがとうございますですわ。ですが、私にも分からないのです。申し訳ありませんわ。何かいい方法があるといいのですけれど……』
その時…

《私よぉ~げんきぃ?今ねぇ、聖域にいるのぉ。可愛~い、愛し子のサーヤたちにね、空の魔石が必要なのぉ。持ってきてぇ♪》

『はい?』
『にゃ?』
『んん?』
にゃんだか気の抜けるようにゃ、とんでもにゃく懐かしい声が……

『せ、精霊王様、ニャーニャ、今のは…』
『ご、ご主人、間違ってたらごめんにゃ、今の…』
『え、ええ。多分、私も同じことを思ってると思いますわ』
親方に聞こえたということは、村全体に聞こえたのだろうか?
そう思ったら、村のあちこちから精霊や妖精、ドワーフ達が出てきた。これは聞こえていたということかにゃ…

『今のとんでもなく軽い調子の…』
『とんでもにゃく、軽~く重大発言をしたのは』
『え、ええ。数百年ぶりの』

『『精霊樹の精様(にゃ)』』
『お母様ですわ』
やっぱり。にゃ、にゃんて軽い…にゃにゃ?

ふらぁ~バタン!

『ぎゃー!精霊王様しっかり!』
『ぎにゃ~!ご主人!!しっかりするにゃ~!』
『みゃ!?』
ご主人が倒れたにゃ。ついでにさすがにこの子も起きたにゃ。村のみんなも駆けつけてきたのにゃ。

それからはもう大変な騒ぎだったにゃ。ご主人が目覚めると、ここ数日に起こったことを説明し始めたにゃ。

『実は数日前、愛し子様のご帰還と同時に二人の守護精霊の誕生。聖域の誕生と、主神様の降臨を感じ取っていたのです』
みんな一様に驚いているにゃ。無理もにゃいにゃ…

『そ、それは盛りだくさんだなぁ』
親方がなんとか言葉を捻り出した。

『はい。そうなのですの。それでその事と、守護精霊を鍛える事になりましたので数日留守にするかもしれないことをどのように皆様にお伝えしようかと悩んでおりましたところ…』
『さっきの精霊樹の精様のお声にゃね…』
コクリと頷いてから再び崩れ落ちるご主人…

『私のこの数日の悩みと数百年分の心配とはいったい…酷いですわぁ』
『ご主人っ』
突っ伏して泣き出してしまったご主人に追い打ちをかけるように、また声が…

『おい。末っ子。お前がまず行ってこい。末っ子だしな』
『そうだな。空の魔石とか言ってたしな。石ならお前が適任だろ』
『『任せたぞ。末っ子。じゃあな』』
腹立たしいセリフを残していったのは空と水の精霊王様たちにゃ。ことある事に末っ子だからとご主人に命令するのにゃ。

『ご、ご主人しっかりするにゃ』
『そ、そうだぞ。俺たちにできることは言ってくれ』
他のみんなも自分たちも手伝うと言ってくれたにゃ。みんないい人にゃ。
妖精や精霊たちがご主人の周りを心配そうに飛び回ったり、撫でたりしてくれてるにゃ。もちろんケット・シーの仲間もにゃ。

『ニャーニャ、皆さん。ありがとうございますですわ。では、申し訳ありませんがお願いしてよろしいでしょうか?』
『もちろんだ!遠慮なく言ってくれ』
『ありがとうございますですわ。では…』
ご主人は兄たちに言われたこともあり明日出発することと、みんなが持っている空の魔石をいくつか分けて欲しいということを説明したにゃ。

『分かったよ。任せてくれ』
みんな快く引き受けてくれたにゃ。

『それから、この子を連れていこうかと思いますの。もしかしたら、何か分かるかも知れませんし』
『分かった。よろしく頼むよ』
『はい。かしこまりましたわ。では、皆様、よろしくお願い致しますわ。ニャーニャ、私たちも空の魔石を探しましょう。私が作ることも出来ますが、用心するに越したことはないでしょう』
『分かったにゃ』
そうして、翌日、聖域に旅立ったのにゃ。みんなの声援を受けて。
その後のことはご存知の通りにゃ…

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本日も番外編です。でも、多少本編に関係してるかな?
いつもお読みいただきありがとうございますm(*_ _)m
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