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ウリナコンベの7号店本番 その7

 この日の朝。
 僕とスア、それにパラナミオの姿は辺境都市ウリナコンベにありますコンビニおもてなし7号店の屋上にありました。

 スア製の太陽光発電パネルがずらっと並んでいる、その横に立っている僕達。

「じゃあスア、お願い出来るかな?」
「…… (コクコク)」

 僕の言葉に頷くと、スアは手にしていた水晶樹の杖を空に向かってかざしました。
 すると、数秒後……

 ポン……ポンポン……

 青空に白煙とともに軽い破裂音が響いていきます。
 
 僕の世界とかでも、花火大会や運動会の開会を知らせるために昼間によく打ち上げられていた号砲花火とか打上花火爆雷とか呼ばれていた、あれをスアにお願いして再現してもらっているわけです。
 唯一違う点は、青空の下で白煙がうねうねと動いていきまして、

『コンビニおもてなし7号店本日正式開店』

 って文字を、コンビニおもてなし7号店の屋根の上にかたどっていることですかね。

 ……しかし、さすがはスアですね。
 僕が脳内で『確かこんな感じだったはず……』ってイメージしたものをスキャニングして、それをこんな形で再現できちゃっているのですから……

「スア、ありがとう。すごくいい感じだよ」

 僕が笑顔でお礼を言うと、スアはない胸を張って、

「……旦那様のためなら、これくらい楽勝、よ」

 そう言ってくれました。
 そんなスアの横では、パラナミオも

「うわぁ、すごいです! お空に文字が浮かんでいます!」

 そう言いながら目を輝かせています。
 ちなみに、我が家で保護した直後、養女に迎える前のパラナミオは文字を読んだり書いたりすることが出来ませんでした。
 それが今では読み書きに、計算までしっかり出来るようになっているのですから、辺境都市ガタコンベの教会の学校にはホント、感謝しないといけませんね。



 この花火を受けまして、コンビニおもてなし7号店はいよいよ正式開店することになりました。

 オープニングスタッフは、

 店長が僕
 副店長がクローコさんとブロンディさんの元コンビニおもてなし4号店コンビ
 店員として、パラナミオ
 これに加えて、試食担当者のルービアスと、フク集落の子供達

 以上の面々が務めることになっています。
 先日7号店の店員候補として採用したラミアのラコネイルさんと、ハーピーのパリピポナさんの2名は現在本店の店長代理を務めてくれている魔王ビナスさんの元で新人研修を行ってもらっているのですが、

「かなり筋がよろしいですので、予定よりもかなり早くに実戦投入出来そうですわ」

 と、昨夜話を聞いていますので、7号店が予定どおり6名態勢で回すことが出来るようになるのも、案外近いはなしかもしれませんね。

 さて……花火を受けてさっそく開店してコンビニおもてなし7号店ですが、

「おぉ、今日から開店なんですね」
「今日も弁当を買いに来たよ」
「スアビールはあるかい?」

 そんな言葉を口々に発しながらすごい数のお客さんが店内になだれ込んできました。
 辺境都市ナカンコンベで開店したときのコンビニおもてなし5号店東店や5号店西店の開店の時に比べたらかなり少ないとはいえ、この辺境都市ウリナコンベの人口を考えればかなりのものといっても過言ではないでしょう。


 そのお客さん達を、ルービアスを中心にしたフク集落の子供達が、

「はいはい試食やってますよぉ」
「これを食べて気に入ったら正式な商品もよろしくなのです」
「はい、こっちに並んでほしいのです」

 と、うまくお客さんを誘導しながら、同時に試食をお勧めしまくっています。

 これだけスムーズに誘導をこなしてくれていると、今後も各地のイベントに参加する際に、このチームに出動をお願いしてもいいかもしれませんね。

 ……ちなみに

 フク集落の子供達が頑張っているからでしょうね……レジの後方、厨房に向かう廊下の途中に設置されています転移ドアのところから、一人の女性がチラチラと、何度も何度も店内の様子を伺っているんですけど……

 まぁ、言わずとしれたおもてなし商会ナカンコンベ店のファラさんなわけです、はい。

 フク集落にいる子供達のことをすっかり気に入って、今では一緒に暮らしながらその面倒をみているファラさん。
 いろんな事情があって、辺境都市ナカンコンベに置き去りにされている子供達によって出来上がっているフク集落なのですが、そこで暮らしている子供達は、今ではファラさんのことを実の姉か母親のように慕っていまして、それを受けてファラさんもフク集落の子供達の事を実の弟や妹、子供の様に可愛がっているんです。

 ……で

 様子が心配なんでしょう……試験販売の時もその気配をよく感じていたのですが、今日はその気配を感じる事が半端じゃない、感じです。

 とはいえ、ファラさんの事ですからおもてなし商会の取引はしっかりこなした上で、こちらで働いているフク集落の子供達の様子を見に来ているのは間違いありません。
 そこら辺は、自分にもすごく厳しいファラさんですからね、信頼しているわけです、はい。

 そんなファラさんが見守っている中、フク集落の子供達は僕が思っていた以上にすごく頑張ってくれています。

 さらに、

「さぁ、レディ。荷物詰めを手伝わせていただきまぁす」
「ギャー!? ブロンディ、あんたもっと普通に出来ない!? みたいな!」

 と、まぁ、時折ありえない言葉を発しながら接客をしているクローコさん……さ、さすがにあの言葉遣いをお客さんの前でするのはあれなので、その都度僕が目で合図を送っているわけでして……で、それを受けてクローコさんも慌てて口を押さえてから、

「す、すいません~みたいな」
 
 と、謝罪してから接客作業を続けてくれています。

 まぁ、お客さんはといいますと……

「あの男性店員さん、渋くて素敵ねぇ」
「胸板がとっても逞しいわ」
「ワイルドで重低音なお声が最高!」

 といった具合で、主にブロンディさん目当てでそっちの列に並んでいる様子なもんですから、クローコさんのことはほとんど眼中にない感じでして……はてさて、これはいいことなのか、悪いことなのか……う~ん……

 ……一方

「はい、ありがとうございます!」
 我が家のパラナミオも、笑顔で接客を頑張っています。

 コンビニおもてなし本店のお手伝いをしてくれていた時からいつも一緒にやってきているだけに、その進歩ぶりをすごく体感している次第なんですよ。

 最初の頃は、手順がわからなくなって、あわあわしてしまう事が少なくなかったパラナミオなのですが、こちらコンビニおもてなし7号店で試験販売を行うころには、そんな様子は全く見られなくなりまして、正式オープンした店内では、もう、10年選手並の安定感で接客業務に、補充業務に、と、あれこれ忙しく頑張ってくれています。

 ……で

 よく見ると、転移ドアの方からですね……そんなパラナミオのことを心配してか、応援するためか……

 本店の地下にある冷蔵倉庫を交代で冷やしてくれているスアの使い魔、シオンガンタとユキメノームの2人が時折顔をのぞけているんです。
 サラマンダーのため、体内で炎が燃えているパラナミオは、2人がひんやりと冷やしている倉庫の中が特にお気に入りでして、そこによく遊びに行っていたものですから2人ともすっかり仲良しになっているんですよね。

 そんな保護者的な方々に見守られながら、コンビニおもてなし7号店の初日は及第点の売り上げを記録することが出来ました。

しおり