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2話

レオナルドは着替えてから車に乗り込み動き出すと同時に電話を掛けた。

プルルルル……プルルルル……。カチャ。

電話がつながり相手が話しかけた。

「ハロー?レオナルド、連絡が遅いじゃないか。僕は君に何かあったのではないかと心配で心配で……。」

レオナルドは相手の会話を遮り続ける。

「変な茶番はよせ、思ってもねえこと言ってんじゃねえぞ。それより今帰っている3時間ほどで帰れると思う。帰ったら話があるんだが姫は?」

心配しているのはホントなんだけどな。と電話越しの男が嬉しそうに声を漏らす。

「まだ寝ているよ。睡眠不足は美容の大敵なんだって。まぁ、夜明け前のこの時間に起きている人のほうが少ないと思うけどね。そうだ帰り道は"ゆっくり"でいいのだけれど道すがら通りのメリッサの店で朝食用にベリーのクロスタータかってきてくれないかい?あぁ、ついでにトニーの店でエスプレッソに最適な豆と来客用の紅茶も頼むよ。アールグレイと、アッサムをお願い。あ、キャンディーもよろしくね。」

「なんで俺なんだよ、今からゆっくり向かっても店があくまでかなり時間があるじゃねえか。俺は疲れているんだ、早く帰ってベットで寝たいから拒否する。他の奴か自分で行きやがれ。」

一仕事終え汗と返り血まみれになり疲れているため早く帰って休みたいのは道理である。……だが悪態をついた後気づく。

「おい……。それは"俺"じゃないとだめなのか。」

「そうだね、"僕"……。でも良いのだけれど生憎僕は今ここから離れることができなくてね。頼むよ。」

そう言われてしまってはレオナルドに断ることは不可能だった。それはレオナルドではないといけないことを示唆していたからである。

「あぁぁぁぁ!!わかったよ行けばいいんだろ行けば!ただし返り血も落とさないまま俺を顎で使うんだそれ相応の見返りを要求する。まず俺が帰るころを狙って熱いふろを沸かしておけ、俺は眠いから風呂で寝る。ルイスお前がちゃんと綺麗にしてベットまで運べ、他の奴に俺の世話手伝わせでもしたらぶっ殺すからな。そんで急ぎの用以外で起きてくるまで起こすな。」

わかったな。と電話越しに命令したが、ルイスからするとそれは愛しい人が自分に甘えたいがために命令してまで甘やかせと言っているので堪らなく嬉しい事だった。ルイスは少し驚いたものの、ふふっと笑った。

「OK。良いよハニーの可愛いおねだりならいくらでも聞いてあげるとも。じゃあ、お疲れのところ悪いがお使い頼むよ。」

ルイスは少し甘い声でそう答え、『気を付けて』そう言って電話を切った。レオナルドは少し悲しそうな顔をした。

「電話終わりました?で、自分はどこ向かえばいいっすか。」

電話が終わるまで口をつぐんでいたレンが目的地を聞いた。電話の内容をすべて把握していなくてもレオナルドの受け答えを聞いてあらかた会話の内容の目星はつくのだろう。レオナルドが指示する前に目的地を問いかけた。レオナルドは瞬時に切り替え答えた。

「ん、取り敢えず進路はそのままだ。戻る前にメリッサの店へ向かってくれ、その後トニーの店に行ってくる。30分ほどで終わるからお前は車で待っててくれ。着くまで俺は寝るから絶対に6時になったら起こせ。」

レオナルドは返事を待たず横になった。

「了解っす。」

聞こえているのか聞こえていないのか分からないがレオナルドに向って返事をした。しかし何も返事がないということはどうやら寝てしまったようだ。

レオナルドを乗せた車は深夜の住宅街を静かに走る不規則に揺れる車はゆりかごに揺られているかのような心地よさがありレオナルドはすぐに深い眠りの中に落ちていった。

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「……ルドさん。レオナルドさん。」

レオナルドは誰かの呼ぶ声で目を覚ました。少し目を開けるとそこにはレンの姿がありドアが開いており明け方のまだ薄ら寒い風が流れ込んできた。

「寒い……。閉めろ。」

「もー朝っすよ。起きてくださいっす。」

レンはとりあえずドアを閉めて運転席に戻った。しばらくしてレオナルドが起き上がったが目は閉じられたままだった。そして、ピクリとも動かない。朝日照らされてに輝く金色の髪はとてもキラキラしていた。それはまるで人形の様でとても美しく美術品か見まごうほどだった。

レンが振り向きレオナルドに声をかける。

「レオナルドさん、時間っすよ。もう店の前に着いてるんですけど。」

レオナルドがゆっくり目を開けて時間を聞いた。

「今、何時(なんじ)だ。」

「あと5分ほどで6時です。」

そうか、と静かに答えたがまた動かなくなった。レンはレオナルドの寝起きの悪さを知っていた。それに加えて時間通りに起こさないと後で盛大に怒られるのも知っていた。しかも今回はかなり重要な要件らしく寝る前に『絶対に。』と念を押されていたので絶対時間までに起こさなければならない。

レンは何とかしてレオナルドを叩き起こしたがレオナルドに『うるさいぞ』と、一発頬に容赦ない拳が命中した。レオナルドが目を覚ましたのは6時になるほんの1分前だった。

「もう、いい加減にしてほしいんすけど。自分で時間指定したくせに俺に当たるのやめてくださいっす。レオナルドさん起こすと暴れるから痣できるんですけど!これを見た先輩みんなに笑われるんっすよ!!」

レンは頬をさすりながら涙目になり訴えた。

「そうかじゃもっと鍛えて俺が暴れても封じ込められるよう努力しろ。話はそこからだ、現にお前を笑うやつらは無傷で起こせるだろう。お前が貧弱なだけだ。」

「それはそうっすけど~。……レオナルドさんが冷たいっす。もう俺レオナルドさんのお世話係辞めたいっす。」

ワーンと泣き出してしまった。泣いている姿は見た目も相まって子どもの様だ。

レオナルドは溜息をつくとレンを呼び振り向かせた。そして頭をポンポンと子どもをあやす様に数回撫でた。

「そんなこと言うなって、俺はレンが世話係でよかったと思ってるぞ。こんなかっこ悪い姿なんか部下にそう簡単には見せらんねぇからな。お前が知ってる俺は一部の人しか知らないんだ。それだけレン達側近を信頼しているってことだぞ。それをちゃんと頭に叩き込んでおけよ。」

爽やかに笑いレオナルドはそれだけ言うとサッと車から降りてメリッサの店へ向かう。車の中から『そんなん反則っすよ!!』とレンは頬を赤らめながら叫んでいたがレオナルドは気にせず足早にメリッサの店を目指した。

カラン。カラン。

ドアベルが心地いい音を鳴らす。奥からワンピースを着てエプロンをつけた、甘いマスクの美人が顔を出した。

「やぁ、おはようメリッサ。久しぶりだね相変わらず綺麗だ。それにとても食欲がそそられる匂いだな。」

「あらやだ、レオじゃない!あんた何朝っぱらからそんな歯の浮くようなセリフ言ってんのよ。そんなこと言ったって一晩だけしか相手してあげないわよん。」

メリッサと呼ばれた人物の声は女性にしては、かなりハスキーだった。それに少し女性にしてはガタイがいいように感じる。メリッサはウィンクをしながらレオナルドに軽口で返す。

「お前地声出てるぞ、いいのか。」

呆れながらそう指摘した。メリッサはハッとして咳払いをすると今度は女性のような高い声にはなったが、しかし、女性に比べると低いようだ。

当然である、見た目は女性の成りをしているが”彼”は立派な男性である。俗に言うオネェ様というやつだ。

「やぁだ、もう来るなら言っておいてよー。今日はレオ一人?もしかして私に会いに来てくれたのかしら。ヤダそれなら困っちゃう。てゆうか待ちなさいよあんた、これほっぺについてるの血じゃないの!なんかアンタ頬っぺたの血の量に対して、かなり血生臭いけど他は怪我はしてないの?こんなハンサムの顔に血がついてるなんてもったいないわ。ある種興奮するけど……。じゃなかった、ちょっと待っててタオル持ってきてあげるから。」

メリッサはとても興奮している様子だった。久しぶりに顔を見せた相手というだけでも興奮するのに、そのうえ血をつけて現れたのだから感情がパニックになっていた。タオルを取りに行こうとするメリッサの腕をレオナルドがつかんだ。

「メリッサ落ち着いて、俺は大丈夫だし用事がすんだら帰るから。それに帰ったらルイスが俺の風呂とかの世話をする約束しているからあいつの仕事残しといてくれ。」

レオナルドは顔を赤らめて口早で言葉尻になるほど声が小さくなりながら告げた。その表情を見たメリッサは落ち着きを通り越して呆れた顔をしていた。

「あんた本当、いい趣味してるわ~。甘えたいから恋人に体をきれいに洗ってもらうなんて羨ましいわ~私もあんないい男に隅々まで洗ってもらいたーい。」

「いや、別にそういうわけでは……。甘えたいのは否定しないが俺とルイスは恋人ではない、俺が一方的に好きなだけだ。絶対にルイスに言うなよ、リオンにも。」

メリッサは呆れ顔でどう考えてもあんたたちは両想いよ。と言ってやりたくなったが後で面倒なことに巻き込まれるのは嫌なのでそっとしておいた。

「ところで坊や用事ってなぁに。」

ショーケースに頬杖をついて少し色っぽい声でメリッサが訪ねた。そこでやっと、本題にたどり着いたレオナルドは、ルイスから頼まれていたベリーのクロスタータと自分とルイス用にクロワッサン、レンへのお土産にアップルパイを頼んだ。

「リオンがお前のクロスタータが好きだからな、あいつのためだろう。そういえばリオンとは上手くいっているのか?あいつを泣かすようなことをしたら俺とルイスが黙ってないからな。」

レオナルドは低めに脅しをかける。その眼には光が宿っていなかった。それはただの脅しではなく本当に実行するという示唆でもあった。

そんな目に気付いたのかメリッサはレオナルドの頭を軽く小突いた。

「なーに言ってるのよ、お陰様で全然進展してないわよ。ほんといい趣味してるわ特にルイスよ、見た目に反して陰湿に嫌がらせをしてくるんだからほんと嫌んなちゃうわ。あんたたち応援する気あるわけ?ないわけ?」

メリッサが怒った様な笑みを張り付けレオナルドに問いかけた。

「フッ、愚問だな。あるわけないだろう。俺らの姫を取られてたまるか、だがあいつに嫌われるのはもっと嫌だから俺はリオンがメリッサのことが好きなら邪魔はしないがお前の片思いなら積極的に妨害をして恋路を潰してやろうと考えている。ルイスは知らん、あいつこそねちっこいからなお前らが付き合っていても妨害するだろうな勿論リオンには気づかれないように。」

苦虫を噛潰したような顔をし『最悪ね。』と漏らしながらレオナルドにクロスタータにクロワッサン、アップルパイの入った袋を手渡した。

「レオはともかくルイスのやつ何なの。幼馴染かなんだか知らないけど、もはや性格最悪な姑ね。レオは悪い男に娘はやらん!って娘思いの父親ってとこかしら。というかそんな男好きになるレオもレオで趣味悪いわよ、まぁ見た目だけはいい線行くのにあの性格だからねぇ。あの二重人格っぷりと腹黒い性格じゃなきゃほんといい男なのにねぇ。」

恋バナ(?)をしていたはずがメリッサは、レオナルドにルイスの愚痴をこぼし始めた。

「?……。良くわからないがルイスは腹黒でも二重人格でもないぞ、あんな格好良くて強くて優しい男はなかなか居ないからな。」

メリッサはそれは誰の話をしているんだという呆れた顔で頬杖を突きながら話を聞いていた。

「ちょっと仲間思いが過ぎてやりすぎる節はあるが基本的にファミリーや町の人にも優しいって評判だぞ?女、子どもには特に大人気だ。」

レオナルドはルイスが貶されていると思い必死にフォローした。

「あいつほんと外面だけはいいわね。いい?あんた達は騙されてるわ。ファミリーはルイスの部下以外のことでしょ、きっとルイスの側近には本性表してるはずよじゃないと仕事しずらいでしょ。レオやリオンには嫌われると思って隠しているのでしょうね。アタシがリオンに抱き着くと毎回殺伐とした目で見てくるのよ。別に何にもしないわよ。」

嫌んなちゃうわ。そう言いながらぷりぷり怒っていた。レオナルドは流石にメリッサが可哀想に思えてきた。レオナルドは抱き着いている時点で何かしているにはならないのだろうかとは思ったが触れないことにした。

「わかったよ。ルイスには俺からメリッサにもっと優しくするように言っとく。お詫びにリオンと今度映画にでも誘って遊びに行ってきてくれ、来週あたりなら時間が取れると思うからリオンにも俺から伝えとく。」

「ほんと!?嬉しいわ!レオナルドがお膳立てしてくれるなんて。」

メリッサは目を輝かせてとてもきれいな顔で笑った。が少し引っかかる言い方をした。

「おい、まて。お膳立てはしてない、ルイスがあまりにも邪魔をしている様だったからちょっとだけ手伝ってやるだけだ。それに最近忙しくてリオンも会いたがっていたしな。あくまでリオンがそう望んだからだ変な勘違いするなよ!!じゃあなまた来る。」

早口で捲し立てる様にそう言い放つとレオナルドは帰っていった。メリッサは余りの事に呆気に取られてしまいポカーンとしてしまったがレオナルドが出ていくときになったドアベルの音で我に返る。

「フフフ、ほんとかわいい子ね。ルイスが独り占めしたくなるのも分かるわ。」

誰もいない店内にメリッサの声だけが響いた。


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