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ウリナコンベの7号店本番 その3

 辺境都市ウリナコンベに出来上がったばかりのコンビニおもてなし7号店ですが、商品の陳列も無事に終了しました。

 レジの奥には本店ほどではありませんが簡易式の厨房もありますので弁当やホットデリカ類なら調理することが可能です。
 パン類だけは辺境都市ナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店東店の地下にありますパン工房で一手に作成していますので、そこから運んでもらうしか手がないのですが、この工房はすごく大規模にしてありますので一度にたくさん製造することが出来るんですよ。

 ちなみに、このパン工房は蝸牛人のテンテンコウ♂が管理してくれています。
 テンテンコウ♂は、パンの製造を本店でやっていた頃からずっとパン作りを担当してくれていまして、パンやサンドイッチの作成に関しては安心して任せることが可能なほどになっているんです。
 まぁ、テンテンコウ♂の場合、元々食堂を経営していたほどですので、料理の腕はかなりのものですからね、出来て当然と言えば当然です。

 パン工房では、現在5人の店員さんが働いてくれているのですが、今働いてくれているのは全員フク集落の子供達なんです。
 子供達といいましても、おもてなし商会ナカンコンベ店で働いているピラミより少し若いくらいの子供達ばかりなので、それなりにみんな大きい子ばかりなんです。

 フク集落って元々孤児ばかりが集まって出来た集落だったんですけど、今はおもてなし商会ナカンコンベ店を管理している世話焼きお姉さんことファラさんが、子供達と一緒に暮らしながらみんなの面倒を見てくれているんです。
 その一環といいますか、子供達が自発的に、
「ファラお姉ちゃん達と一緒に働きたい!」
 そう言い出したもんですから、ファラさんは
「タクラ店長、なんかいい仕事あるかしら?」
 そう僕に相談してきたんです。
 本当であればファラさんのおもてなし商会ナカンコンベ店で雇用したかったみたいなんですけど、あそこで働くとなるとかなり力が必要になるんですけど、ピラミ以外の子供達って、あまり力仕事が得意ではなかったんです。
 その代わり、みんな手先が器用だったものですから、試しにパン工房で働いてもらってみたところ、
「……店長さん、いけそうです」
 と、テンテンコウ♂が太鼓判を押してくれたので、こうしてここで雇用することになったんです。

 パン作りは結構重労働です。
 生地をこねたりのばしたり、結構ハードなんですよ。
 ですけど、みんなは
「ファラお姉ちゃんが見つけてくれたお仕事です」
「頑張る!」
 真剣そのものな表情で毎日頑張ってくれている次第なんですよね。

 で

 子供達の中にはパン工房でも働けない年少組の子供達もいるのですが、今回はその年少組の子供達にも頑張ってもらおうと思っています。

 コンビニおもてなし7号店で、試験販売を行う際に試食を配ってもらおうと思っているんです。

「コンビニおもてなしで試食と言えば、このウルムナギ又のエース、ルービアスにお任せですわ! この役目を他の人に譲るなんてもってのほかです!」

 僕の意見を聞くなり、声を荒げながらポーズを取っていくルービアス……これ、怒りのポーズってことなんですかね?
 で、そんなルービアスに僕はにっこり笑顔を向けました。

「うん、だからさ、子供達にあれこれ教えてあげてほしいんだよ、試食のプロのルービアスに」
「ま、まぁそうですね、他ならぬタクラ店長さんに底まで言われたら、さすがに断れませんしね、お任せくださいな!」
 
 僕の捕捉説明を受けて、ルービアスは満面笑顔で胸をドンと叩いてくれました。

 ……こういうのを、あれですよね、チョロインとか

「タクラ店長さん? 何か言いました?」
「いや、何も言ってないよ、何も、うん」

◇◇

 そんな訳で、翌日早速僕達はコンビニおもてなし7号店へ移動しました。
 
 前日、ウリナコンベ商店街を通して試験販売のお知らせをしてもらっていたおかげでしょうね、開店前のお店の前に、すでに数人のお客さんが並んでいました。

「さぁ、あとはお弁当が届くのを待つばかりだね」
「はい、そうですね!」

 今日の店内作業は、僕とパラナミオが担当します。
 4号店からここに転勤してくる予定のクローコさんとブロンディさんは明日から合流予定になっています。

 今日は、僕がここで試験販売をするため、本店で毎朝行っている弁当の調理作業は魔王ビナスさんと、急遽オトの街のラテスさんに手伝ってもらっています。

「……予定なら、そろそろハニワ馬のヴィヴィランテスが……」
 僕がそう行っていると、レジと厨房を結んでいる廊下の途中に設置してあるスア製の転移ドアが開きまして、その中からヴィヴィランテスが姿を現し……って、あれ?

 よく見ると……ヴィヴィランテスの後ろに何かが一緒についてきています。
 なんでしょう……まるでヴィヴィランテスを小型にしたような小さな馬が……あ、その馬は今のハニワ馬姿のヴィヴィランテスではなくてですね、ヴィヴィランテスの本来の姿であるクリスタルユニコーンを小型にしたような感じなんですが……ヴィヴィランテスと決定的に違うのがですね、背に真っ赤な羽根が生えていることなんです……まるでワイバーンのような羽根と言いますか……あれ、ワイバーンって確かおもてなし商会ティーケー海岸店のファニーさんがそうだったんじゃあ……

「さ、ファファラン、ここが最後の配達先よぉ」
「「ファファラン?」」

 その子馬をファファランと呼んだヴィヴィランテス。
 その言葉に、僕とパラナミオは同時に疑問の声をあげつつ首をかしげました。

 そんな僕達を見たヴィヴィランテス。

「何よ……ちょっと子供に頑張ってるパパの姿を見せてあげてるんじゃないの」
「あぁ、子供にね」

 その言葉に頷いた僕は、ヴィヴィランテスから、今日販売する弁当類が入っている魔法袋を受け取りました。
 で、ヴィヴィランテスは、

「さぁ、ファファラン、ファニーママのところに帰るわよぉ」

 その子馬、ファファランにそう言いました。
 で、そのまま転移ドアをくぐっていったのですが……

「……ファニーママ……って……ヴィヴィランテスと同棲しているファニーさんのこと?」
「えっと……ヴィヴィランテスさんとファニーさんに、子供が出来たのですか!?」

 そのことにようやく思い至った僕とパラナミオは目を見開きながら顔を見合わせました。
 ヴィヴィランテスの「ラン」と、ファニーさんの「ファ」をとってファファランってことなんですかね?

 ……いや、確かにあれだよね……亜人の子供は成長が早いし、まだ子馬だったところを見ると産まれて間がないみたいだけど……とにもかくにも一体いつの間に……

 今すぐにでもヴィヴィランテスを追いかけて事情を聞きたいところですが、お店の前のお客さんの数がどんどん増えていますので、

「と、とにかく今は試験営業の準備を急ごう」
「はいです!」

 僕とパラナミオは、魔法袋の中から弁当やパンを取り出しては陳列棚に並べていきました。

 ほどなくして、応接室で本番前の最後の打ち合わせをしていたルービアスとフク集落の子供達も合流して店内の準備を終えた僕達。

「よし、少し早いけど開店するとしようか」
「「「はい!」」」
 僕の声を合図に、みんな一斉に笑顔で返事を返してくれました。

 さぁ、新店舗コンビニおもてなし7号店の第一歩、開始です。

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