バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

29. オフィーリアの剣 ~エピローグ~

 29. オフィーリアの剣 ~エピローグ~



 私たちは家に入る。そこにはベッドの上で静かに眠るオフィーリアさんと治癒魔法をかけ続けるミリーナ、そして泣いているエルメスさんの姿があった。私たちはベッドに近づきミリーナに話しかける。

「ミリーナ……もういいのよ」

 私がミリーナの名前を呼ぶと彼女は私を見る。その目は赤く腫れており、泣き続けた事がわかる。ミリーナは私たちを見て安心したように微笑むがすぐに顔を歪める。そして苦しそうにうめき声をあげる。私は慌てて彼女の体を支える。

「あたし……救えなかった……うぅっ……救えなかったよぉ……」

「よく頑張ったわ。あなたのせいじゃない。」

 私の言葉に首を横に振るミリーナ。彼女はきっと自分を責めているのだろう。私は彼女の手を握り、頭を撫でながら落ち着かせる。この小さな手で頑張ってきたのだ。彼女も限界だったんだろう。しばらくして落ち着いたのか、『もう大丈夫。ありがとう』と言って顔を上げた。その顔はとても悲しい表情だった。

 その後、村長や村の人々が集まり、村人総出で葬儀が行われた。そこには多くの花が添えられ、村の人々がどれだけオフィーリアさんの事を思っていたかがよくわかった。

 そしてあの最愛の人が眠るあの森のお墓の横に埋葬した。私はお墓にその折れた「剣」を供え手を合わせる。その時エルメスさんが私たちに話してくる。

「ありがとうございました。オフィーリアさんを救ってくれて。」

「いえ私たちは……」

 エルメスさんは首を横に振って、私の言葉を遮り続けて話す。

「あなたたちは間違いなく、オフィーリアさんを救ってくれました。あの時、最期にオフィーリアさんはこう言ってました。」


 ◇◇◇


 ミリーナはオフィーリアに治癒魔法をかけ続けている。その小さな身体で、最後まであきらめない。それがこの少女の覚悟。そう思い必死に治療を続けた。

 しかしいくら魔力を込めても一向に目を覚まさない。身体が重い。体力も魔力も限界なのかもしれない。少女は自分の無力さを感じ、涙が出そうになる。それでも……。

「ミリーナさん。もういいです。これ以上はあなたが……」

「ダメ。あたしは治癒魔法士だから、目の前に救える命があるなら最後までやる。それにあたしは『なんでも屋』だから。『なんでも屋』に出来ないことはないんだから。」

 そういうミリーナの顔は笑顔だが目から大粒の涙を流していた。それは自分のためではない。誰かのために流す涙なのだ。するとオフィーリアの瞼が開く。

「おばあちゃん!?あたしがわかる!?」

「ああ……終わったんだね……」

 そう呟くと窓の外を見る。そして少し笑みを浮かべ、ミリーナとエルメスの方に振り向き話す。

「ありがとう。優しい小さな治癒魔法士さん。あなたのおかげで苦しまずに眠ることができるわ。これからも頑張るんだよ」

「おばあちゃん……?」

「エルメスも今までこんな私の面倒を見てくれてありがとう。」

「いえ。私の方こそありがとう。」

 そしてオフィーリアさんは満面の笑みを浮かべ一言だけ呟く。

「ソル。私は幸せだったわ。今行くからね……」

 そう言って瞼を閉じ幸せそうな顔をして静かに眠った。


 ◇◇◇


 そうエルメスさんは話す。そうか最後は苦しまずに幸せを感じて逝けたのか。

「アイリーンさん、エイミーさんが魔物を倒して。ミリーナさんが最後まであきらめずに治癒魔法をかけてくれた。だからあの最後の言葉が聞けた。私も感謝しています。だからあなたたちは私の依頼を達成してくれたんです。」

 それを聞いてミリーナの目からはまた大粒の涙が流れる。でも今度は悲しみではなく嬉し涙だ。エイミーはこのしんみりした雰囲気を察したのか気を使っていつも通りの言葉をかけてくる。

「ほらほら!ミリーナもいつまでもしわしわのレタスになってないで!胸を張ってこれからも『なんでも屋』として頑張ろう!私についてきなさい!」

「エイミー……」

「そうね。ミリーナが悲しむとせっかくのオフィーリアさんの気持ちが台無しよ?」

「アイリーンちゃん…うん!そだよね!おばあちゃん、これからもあたし頑張るからね!」

 そういうミリーナの顔は笑顔だった。そして村に戻ることにする。私はふと振り返り2人のお墓を見る。物語でよくある「2人の姿が見える」なんてそんなことはありえない。でも、私の視界に映るのはあの時の物悲しい雰囲気とは違う。まるでこれからの私たちを祝福し見守ってくれるようなそんな感じがした。

 こうして、私たちはエルメスさんに別れを告げ、農村ピースフルに戻るため馬車を走らせていく。もちろん馬車の中は静まりかえっている。そんな時エイミーは話し始める。

「いやぁ。結構辛い依頼だったね!でも最後は私たちなりにできたからいいか!」

「あのさエイミー。あなたの気持ちは分かるから、無理に明るくしなくてもいいわよ」

 エイミーは『やっぱりバレたかー』と言いながら笑う。本人には言わないけど、私はエイミーのこういうところが尊敬できる。彼女は自分が辛い時でも周りに元気を与える。

 そう思うとエイミーは意外に周りをよく見ていると思う。そのおかげであの時私は救われたのだ。この子は皆を勇気づけられる存在なんだ。だからこれからもこの『なんでも屋』を続けようと思った。そして私自身もこの魔法で誰かに希望を与えられるような人間になりたいとも思ったのだった。

しおり