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16. 測定します

 16. 測定します




 農村ピースフルの朝は今日も平和そのものだ。私はお店の開店準備のために入り口の外のお掃除を始める。まぁサイラス先生以来お客さんなんて来たことないんだけど、それでも仕事は仕事だし。

「うーん……空気が美味しいわ。陽射しも気持ちいいし、ルーシーじゃないけどお昼寝日和かしらね」

 大きくあくびをしてから箒で地面を掃く。すると突然声をかけられる。

「アイリーンさん。おはようございます」

「ひゃ!?あっ……サイラス先生!?おはようございます!」

 すごく口を開けてたかしら……見られてないといいけど。

「確かにこういう日は昼寝でもしたくなりますよね、分かります」

 最悪。見られてた。私、もっと女性として恥じらいを持つべきよね!あまりにも平和すぎて気が緩んでるのかしら……。宮廷魔法士だった時の事を思い出して、気を引き締めないと!

「あはは……そうですね……」

 恥ずかしさから目を逸らすと、先生の手には見覚えのある物があった。あれは確か……

「あれ?それって……『魔力測定』を行うための魔力鉱石ですよね?」

「えぇ。実は子供たちの魔力を測定することになりまして、これを使って測定する事にしたんです」

「へぇ~そうなんですか。懐かしいです。私も15年くらい前……にやりました……。」

 はぁ……私も歳をとったわね。この世界では7~10歳くらいの時に『魔力測定』をする。これは大人になるにつれ、自然と増える魔力量を測り、どの属性に適してるかを調べるためだ。その適した属性で職業を決める親もいる。

 ちなみに産まれたときから全員が魔力をもっているが、私やミリーナみたいに魔法を使える人間は限られる。大半の人間は使えない。ロイドみたいに生活程度に魔力を使える人間もいるけど、それも少数。

 将来安泰なんて言われるけど、実際はそんなこともない。むしろ、魔法を使えないほうが、自分のやりたいことを出来るしね。それに、貴族なんかだと親の才能を引き継いでいる場合が多いから、その子達は苦労することも多いらしい。まぁ私は平民だから気楽だけどね。

「それでアイリーンさん……もしよかったらなんですが、一緒に子供たちの『魔力測定』をしてもらえませんか?」

「私ですか?」

「はい。これは、私から『なんでも屋』への依頼と言うことで、お願いします」

 ……ふむ。なるほど。そういうことなら仕方がない。引き受けようじゃないの!

「分かりました。どこに行けばよろしいですか?」

「村の広場でやる予定です。ありがとうございます。よろしくお願いします」

「いえいえ。ところで、何人の子供たちが来られる予定なんですか?」

「全部で12人です。朝の9時に集合するように伝えてあります」

 9時か。それならこのまま一緒に行ったほうがいいわね。そんなことを考えていると、裏の畑からエイミーがやってくる。

「あっアイリーン!サイラス!おはよう!あれデート中?」

「ちっ違うわよ!サイラス先生に失礼でしょ!全くもう……」

「はは。今日も元気ですねエイミーさん。」

「うん!だってこんなに天気が良いんだもん!私の可愛い野菜たちが喜んでたし!」

 本当にこの子はいつも元気ね……。でもそのおかげで毎日新鮮な食材で料理が出来るから助かるんだけどね。

「それで二人は何してたの?」

「依頼を受けてたのよ。子供たちの『魔力測定』をするのよ。それを手伝ってくれないかってサイラス先生から」

「『魔力測定』?私やってみたい!」

「え?エイミーやったことないの?」

「うん。初めてだよ。どんな感じなのかなって!」

 まぁこの農村ピースフルじゃ、そんな『魔力測定』なんかする必要もないしやったことないのも理解は出来るか。

「それじゃエイミーさんもお手伝いしてもらえますか?一緒に『魔力測定』もしましょう。」

「いいの?サイラスありがとう!それじゃ早く行こう!」

 そう言うとエイミーは私とサイラス先生の腕を掴み走り出す。

「ちょ!?ちょっと待ちなさいってば!!」

「ははは……元気ですね。それでは行きますか」

 こうして私たちは子供たちが集まる場所へと向かった。

「それじゃ、みんな集まったかな?」

「「「はーい!!!」」」

「それじゃ、今から魔力測定を行う。みんなこの魔力鉱石を握りしめて手を前に出して、魔力を集中させるようにしてくれ。そして、何か感じるものがあったら教えてほしい」

 サイラス先生の言葉に子供たちが素直に従う。みんな真面目ね。まぁこれが普通よね。

「うーん……ねぇアイリーン?何も感じないけど……?」

「集中しなさい、エイミー」

「うぅ……わかったよぉ……」

 そう言って再び魔力鉱石を握ると目を瞑る。すると、鉱石が反応したように見えた。

「え?これって……どうしたの?なんだか体がポカポカしてきたよ……」

「本当に?手を開いてみて」

「うん。あっ!色が変わってる!土に埋まってた取れたてのポテトみたい!」

「ああ。エイミーあなたは土属性の魔力適性があるみたいね。」

 さすがは野菜娘。期待を裏切らないわね。畑仕事はエイミーにとって天職なんじゃないかしらね。ちなみに、魔力鉱石は属性によって色が変わる。例えば火属性だと赤、水だと青、風だと緑のようにね。

 この後も子供たちの『魔力測定』を続けていく。子供たちは、それぞれの属性にあった色の魔力鉱石を持っていた。そして、いよいよ最後の一人の番になった。

「よし。これで最後か。それじゃ最後はキールだね。さぁ、この魔力鉱石を握ってみてくれ」

「……。」

 最後の一人はキールと呼ばれた男の子だった。年齢は10歳くらいかしら。キールが魔力測定を開始するが本人はあまりやりたくなさそうね?どうしたのかしら?

「はい。これでいい?」

「あぁ大丈夫だよ。それで、何かを感じたかい?」

「特に何も。もう終わりでいいの?」

 ずいぶんふてくされた子供ね?一体何を考えているのかしら?確かキールは最近、この農村ピースフルに来た子よね?お父様が事故か何かで亡くしているのよね。そんなことを考えていると、エイミーがキールに言う。

「こらこらキール。そんなパプリカみたいなことして!ちゃんとやらなきゃダメじゃんか~!サイラスとアイリーンが困ってるよ!」

「うるさいんだよ!野菜おさげ!」

「私、野菜おさげじゃないもん!エイミーお姉さんになんてこと言うの!許さないんだから!」

「やれるもんならやってみろ!」

 あらまぁ……。これは、なかなか強気ね。ふてくされた顔も可愛らしい少年だけど、一応エイミーも女の子だし、そんな態度を取るとはいただけないわね。そしてキールとエイミーは広場から出て東の森に行ってしまう。

「あっ!二人とも待ってください!森は危ないですよ!戻ってきてください!」

 サイラス先生が慌てて追いかけようとするが、私は先生を止める。

「サイラス先生。私が行きますよ。ほかの子供たちもいますし」

「え?ですが……」

「うちの野菜おさげも連れ戻さないといけないんで。待っててください」

 こうして、私は何故かふてくされた態度の少年キールと『なんでも屋』の代表の野菜おさげを連れ戻しに東の森に向かうことにしたのだった。

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