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既読スルーはよくない


 勝手にインストールされ、勝手に設定された俺のスマホアプリ。
 その名もL●NE。
 巷では既読スルーが横行していると聞く。
 ので、俺は10代だというのに、このアプリを使うことはなかった。
 というか、断っていたのだ。

 担当編集の白金も「ええ! L●NE使わないんですか?」と驚いてた。
 毎々新聞店長も「シフトとかあるからさ、L●NE使おうよ」と新手の詐欺のように、勧誘する始末。

 俺は人や時間に縛られるのが嫌いだ。
 だから、今まで使わずにすんでいたのに、この女装男子、アンナにしてやられたのだ。

 当の本人といえば、ニコニコ笑いながら、俺のスマホをタップしまくっている。
「はい☆ これでタッくんと繋がれたね☆」
 その繋がりってのがエロくも感じるが、ストーキングにも感じる。

「そ、そうか。で、なにを送るんだ、これ?」
「スタンプとか送るんだよ。あとで、アンナからタッくんに送るね☆」
 強制ですか?
「ならば、そろそろ帰ろう」
「うん☆」

 アンナを博多駅まで、紳士的に送り届けることにした。
 彼女はどうやら、俺が住んでいる真島(まじま)より遠くに住んでいるらしく、博多駅でお別れだそうだ。
 ま、そりゃ、そうだわな。ミハイルとアンナは、二人で一人。

「じゃあ、あとでね☆ タッくん!」
 笑顔で手をふるアンナ。
「おう、またな」
 博多口に一人彼女を残して、俺は改札口に向かった。

 駅のホームで次の列車を待つ。
「まったく、なにがしたいんだ? ミハイルのやつは」
 ひと段落ついたことで、何気なくスマホに目をやる。
 通知が偉い数になっている。
 その数、100件以上。
 なにこれ? 新種のウイルスにでも侵入されたんけ?

 8割はアンナ。

『今日は楽しかったね☆』
『アンナだよ?』
『(*´ω`*)』
『タッくん、いまなにしているの?』
『アンナはネッキーと一緒だから、帰りは心配しないでね☆』

 あったま、おかしーんじゃねぇの!?

 残りの2割は妹のかなでと母の琴音さん。

かなでから、
『ミーシャちゃんと会えましたの? おみやげは、男の娘でおなーしゃすですわ』
琴音から、
『かーさん、“かけ算”するのに材料が足りないの。帰りに本屋で新鮮なネタを買ってきてちょうだい』

 クソがっ!

 ともかく、俺のスマホが緊急事態宣言を発令しているので、後者の2人は捨て置いて。
 アンナに返信することにした。

『今日は楽しかったぞ。気をつけて帰るがよろし』
 
 すぐに既読のマークがつく。
 早すぎてこわっ!

「L●NE!」と通知音が鳴る。

『タッくん、プリクラ大切にしてね☆ また今度取材しよ☆』

「……」
 こ、こぇぇぇぇぇ! 

 プリクラを机やテーブルに貼ったら殺されそうだ。
 大切にしまっておこう。
 知らんけど。

 そうこうしているうちに、ホームに列車がつく。
 車内は夕方ということもあり、遊び帰りの若者、会社帰りのサラリーマンやOLで、座席は埋まってしまった。
 俺は電車のドアにもたれながら、今日のことを振り返っていた。
 
『タッくんなら……タクトくんさえ良ければ、アンナを使って!』

 あの夕暮れでの誓い。
 胸にすごく響いた。
 こんな俺を女装してまで、無理して、頑張って……。
 さぞ辛かったろう。
 
 もう彼女は、立派な取材対象だ。
 アンナというヒロインは、他にいないだろう。
 これでいこう。
 主人公はどうする?
 

 その時だった。
 スマホがブブブ……と音を立てる。
 画面に視線を落とせば、『ロリババア』
「チッ、白金かよ」
 人が余韻にひたっていたのに……。

「俺だ。なんか用か? 今電車のなかだ」
 ヒソヒソ声で喋るが、周囲の視線を感じる。
『あ、白金ちゃんです!』
「バイバーイ」
『ま、待ってください! ラブコメのプロットは、考えられましたか?』
 クッ! 今考えてたところだよ!

「ああ、取材の効果が出た。ヒロインは決まりそうだ」
『本当ですか!? 童貞のセンセイにモテ期が来たんですか!?」
「うるさい! とりあえず、切るぞ」
『わかりました。では、明日打ち合わせしましょう!』
「おまっ、まだプロットはできて……」
 ブツッと、耳障りな切られ方をしたので、スマホを床に叩き割ってやろうと思った。

「あ、俺……明日学校じゃん」
 
 そうアンナとのデートで、浮かれていた。
 明日が第二回目のスクーリングであることを、忘れていたのだ。

 嫌な予感が不可避。

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