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――舞踏会から数日後、ローゼフの屋敷に手紙が届いた。差出人はローザンヌ家のクルドア公爵だった。手紙には自分の愛娘、ベアトリーチェがローゼフに会いたがっている内容だった。彼女はローゼフのことが忘れられず、部屋にとじこもって会いたいと嘆いていてた。クルドア公爵はその娘の願いを叶える為にローゼフに手紙を書いたと書かれていた。クルドア公爵にとってベアトリーチェは、一人っ子の愛娘だった。可愛い娘の願いごとなら、なんでも叶えてあげたいという彼の気持ちは過剰であり、いきすぎた愛情だった。そうとは知らずクルドア公爵は彼のことはお構い無しに一方的に会いに来いという内容で終わっていた。ローゼフは彼の手紙を読むなり、頭を抱えてため息をついた。パーカスはティーカップに紅茶を注ぐと、それを彼がいるテーブルの上に置いた。

「クルドア公爵様には参りましたね。彼は自分の愛娘のベアトリーチェ様を溺愛しておりますから、手紙を断れば、あとあと面倒くさいことになりますよ?」

 パーカスはそう言って彼の方をチラリとみると、何も言わずに横に立って済ました表情で咳払いをした。ローゼフは不機嫌な顔で言い返した。

「フン、お前に言われなくてもそんなことわかっている。しかし、どうも気が進まない。私に会いたいと言うなら彼女が会いにくるべきだ……!」

 彼はそう話すと手紙を興味なさげにテーブルの上に置いた。

「貴方様のお気を察して申し訳ありませんが、ベアトリーチェ様はとてもお美しい方です。確かにクルドア公爵様の一方的な手紙には不愉快を感じますが、ベアトリーチェ様は魅力溢れるお方には間違いありません。それに会いたいと言っていますし、彼女に会いに行ってみては如何でしょうか?」

「何……?」

 ローゼフはパーカスのその話に目を細めると、眉間にシワを寄せて怒鳴った。

「よけいなお世話だパーカス、女なら自分でみつける……!」

 そう言って言い返すと紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせた。

「ゴホン……。いいですか、ローゼフ様? 貴方様は偉大なるシュタイン家の名を引き継ぐ、若き伯爵様であられます。貴方様も、もう17歳になられました。もう立派な紳士でございます。そろそろ"恋"の一つくらい、してみては如何かと存じ上げる次第です」

 彼のその言葉にローゼフは飲みかけの紅茶を吹き出すと突然、顔中が真っ赤になった。

「パ、パーカス……! 貴様は何をいきなり言ってるのだ!? そ、そんなことを貴様に一々言われなくても私は…――!」

 ローゼフはパーカスのその話にカッとなると、つい感情的になった。そして、テーブルの上にあったティーカップを地面に落として割ったのだった。

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