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春の準備あれこれそれどれ その1

 僕は、ジンボル雑貨店へと向かいました。
 ジンボル雑貨店は辺境都市ガタコンベの街中にあります。
 商店街にも古くから加盟している老舗の雑貨店だと聞いています。

 ジンボル雑貨店に行くと……

「あ、あれ?」

 僕は首をひねってしまいました。
 と、いいますのも、ジンボル雑貨店の前には何台もの荷馬車が止まっていまして、あれこれ荷物を詰め込んでいたんです。

「ジンボルさんこんにちは、あの……どうされたんです、これ?」

 荷馬車の近くであれこれ指示をしていた、狸人のジンボルさんを見つけた僕がそう声をかけたのですが、ジンボルさんは、

「あぁ、コンビニおもてなしのタクラ店長ポン。実はこの春から辺境都市ブラコンベに移転することにした
ポン」

 丸眼鏡を直しながらそう言いました。

 よくよくお話を聞いてみますと……

 最近、定期魔道船のおかげでお客さんが増えたここ、辺境都市ガタコンベ。
 そのおかげで、ジンボルさんの雑貨店もかなり売り上げがアップしていたんだそうです。
 そこで、更なる売り上げアップのためにガタコンベよりも都市の人口が多いブラコンベへと移転することにしたんだそうです。

「……そんなわけで、学校の鞄を納品するとなるとブラコンベで作成してここまで届けないといけなくなるポン。そうなると今までどおりの値段では対応出来ないんで、申し訳ないけどあの話になってしまったポン」

 ジンボルさんは、申し訳なさそうな表情で頭をかきながら僕に向かってそう言いました。

「じゃあ、鞄の件を引き継がせてもらってもよろしいですか?」
「あぁ、コンビニおもてなしさんなら問題ないポン。むしろよろしくお願いするポン」

 そう言って、お店に残っていた鞄の在庫まで提供してくれました。

 そういえば……

 この辺境都市ガタコンベですけど、周辺の小さい集落などから人々が集まって来ていて人口が増加してはいるのですが、ジンボルさんのように交通の便がよくなったのを利用して大都市に進出していく人達も少なくないんですよね。

 僕が元いた世界でも、田舎から都会へ出て行く人は少なくなかったですからね、こればっかりはどうにもなりません……

 とりあえずこれで鞄の件がまず一歩進みました。

◇◇

 ジンボルさんからもらった鞄のサンプルを持って、僕はテトテ集落へと移動していきました。
 コンビニおもてなし本店の中にあります転移ドアをくぐり、テトテ集落にあるコンビニおもてなしテトテ集落出張所兼おもてなし商会テトテ集落店へ出た僕なんですけど……

 僕は思わず目を丸くしました。

 いえね……お店の中はいつものようにリンボアさんが切り盛りしてくれていたのですが……びっくりしたのは窓の外なんですよ。

 ここテトテ集落では果樹園が運営されていまして、果樹狩りを楽しむ事が出来るようになっているんです。
 それを目当てに多くのお客さんが定期魔道船を利用してやってきてくださっているのですが、そのお客さん達を乗せて空を舞っている巨大なワイバーンの姿があったのです。

「……あれって、ひょっとしてファニーさん!?」

 えぇ……どうもそのワイバーンは、ファニーさんのようなんです。
 いつもはおもてなし商会ティーケー海岸店で働いていくれている龍人のファニーさんです。

 ……で
 
 さらによく見ると、果樹園の近くでは、

「ちょっと子供達、騒ぎすぎて落ちるんじゃないわよ!」

 背中に数人の子供達を乗せて歩いているハニワ馬のヴィヴィランテスの姿まであるではありませんか。

「……察するに、お店の営業が終了した後、2人で果樹園に遊びに来たところを子供達に捕まっていつものように乗馬体験をすることになって、ファニーさんもそのお手伝いをしているってことなのか?」

 そんなことを考えながら、僕はその光景をしばらく見つめていました。

 ……しかしまぁ……文句をあれこれいいながらも、何かと気を配ってくれるヴィヴィランテスはともかくとして、いつも

『ふぅ……めんどくさい』

 とか言いながら必要最低限のことしかしようとしなかったファニーさんが、こうして子供達を背にのせて飛行体験をさせてあげている姿を見ていると……なんといいますか、ヴィヴィランテスの影響を強く受けているんだろうなぁ、なんてことを思ってしまいます。

 2人とも正式には公表してはいませんが、ファニーさんの家で同居していますからね。
 

 そんな2人の姿に思わず顔をほころばせていると、僕がやってきたことを聞きつけたこの集落の長のネンドロさんがやって来てくださいました。
「これはこれは店長さん、またぞろこの集落に何かご用ですかにゃあ?」
「えぇ、実は繊維部門の皆さんにお願いしたいことがありまして……」

 僕はそう切り出すと、

「では、繊維部門の関係者も呼んでまいりますにゃあ」

 そう言って、数人の亜人種族の方々を呼んで来てくださいました。
 その中には、元魔法使い集落に住んでいたエルフの魔法使いの皆さんも多数含まれていました。
 魔法使い集落から、この集落へお嫁に来た皆さんです。

 ここテトテ集落はおじいさんおばあさんしか住んでいない集落なんですけどテトテ集落エルフの魔法使いさん達は長命ですので、集落のみなさんくらいの年齢ですと、
『若くて素敵』
 ってことになったわけでして……これが僕くらいの年齢になりますと、
『ショタ』
 扱いされてしまうそうなんですよね。

 ……スアってば魔法使いの皆さんの間ではそんな事を言われているのかも……

 思わす、そんな事を思い出していた僕なのですが……おっと、いけませんね、今日は別に大事な用件があります。

「……というわけで、この鞄を参考にして鞄を作ってもらいたいんだけど、どうかな?」

 僕はそう言って、サンプルとして持って来た鞄を2種類、皆さんの前に並べていました。

 1つは、さっきジンボル雑貨店でもらった鞄
 もう1つは、コンビニおもてなし本店の倉庫の中に残っていた鞄……正式には『ランドセル』です。

 ガタコンベにあります学校は、僕の世界で言うところの小学校程度の勉強を教えていますし、ならこれもありかな、と思って持って来てみたんです。

 ……しかし、爺ちゃんってば、ランドセルまでコンビニで販売しようとしてたなんて……ギリギリ農機具までは理解出来たけど、さすがにこれは……

 机の上に置いたランドセルを見つめながら僕は思わず苦笑していました。

 で

 ネンドロさんが連れてきてくださった繊維部門の皆さんは早速その見本をあれこれ確認してくださっていたのですが、

「そうね……これなら問題なく出来ると思うのです」
「そうだねぇ、うん、こっちのらんどせる?っていうのはちょっと複雑だけど」
「まぁ、なんとかなるでしょ」
「はい、魔法でこのあたりに細工を入れれば問題ないかと」

 皆さん、そんな感じの会話を交わしておられました。
 会話の内容からして、どうやらなんとかなりそうですね。

◇◇

 見本を確認してもらいはじめてからおよそ30分が経ちました。

「じゃあ、正式にこの鞄の製作をお受けいたしますわ」

 繊維部門の皆さんはそう言って頭を下げてくださいました。

「よかった、よろしくお願いいたします」

 僕も、笑顔で頭を下げ返しました。
 これでどうやら鞄の問題も解決出来そうです、はい。

 その後、しばらく雑談をしてから、僕は転移ドアをくぐって辺境都市ガタコンベへと戻っていったのですが……窓の外では、ファニーさんとヴィヴィランテスがまだ子供達をのせて飛行と乗馬の体験をさせてあげていました。

「……2人揃ってあれだけ子供好きだと……結婚よりも先に子供が出来てしまうかもな」

 なんてことを考えた僕なんですけど……そんな2人のことを意識したつもりはなかったのですが、この夜のスアとの夫婦の営みをいつも以上に頑張った僕だったりします。

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