コンビニおもてなし 春のフェア その2
コンビニおもてなし全店で「春のおもてなしフェア」がはじまりました。
各本支店ならびに出張所では、フェアのポスターを店頭に掲示しています。
で
それを見た、おもてなし商会ナカンコンベ店のファラさんですが、
「ちょ、ちょっと店長ってば、これ、最初の写真と違うじゃないの!」
って、僕に向かって詰め寄ってきました。
「いや……あのさ、こっちの方が素敵だなと思って……」
「そんなことを言ってるんじゃないわよ!」
「え?」
ここでファラさんは僕の耳元に口を寄せて
「……このポスター、個人的に30枚は欲しいんだけど?」
そうおっしゃいました。
どうやら、子供達に囲まれて幸せそうに微笑んでいる画像をファラさんもすごく喜んでくれたようです、はい。
んで、40枚ファラさんに個人的にお渡しした僕だったりします。
このポスターを受け取ったファラさんは、早速そのうちの1枚をおもてなし商会ナカンコンベ店の事務室の中に張られていました。
折りを見ては事務室に戻って、そのポスターを嬉しそうに見つめているファラさんの姿がしょっちゅう見かけられるようになりまして、
「ファラさん、あんなに笑うんだ……」
「クールなだけじゃなかったんだな……」
「うわ……可愛い……」
と、ご本人がまったく気付かないうちにファンを増やしていたのですが……肝心なご本人はそのことにまったく気付いていないご様子でして……なんか、もったいないなぁ……
◇◇
そんなポスターのおかげもあってで、春のフェアは好調な出足です。
特に、ちらし寿司の人気が格別です。
当初は、女性の方に人気になるんじゃないかな、と、予想していたこのちらし寿司なのですが、
「お、寿司があるじゃないか」
「これこれ、これ待ってたんだよ」
「この少し酸っぱいご飯がいいんだよね」
と、男性客の皆様にも大好評だったんです。
季節のフェアのたびに投入していた、このちらし寿司なんですけど着実にお客さんの間にも浸透していたってことですね。
「なんか、嬉しいですね、こういう声をお聞き出来るのって」
「えぇ、まったくですわ」
僕は、本店で接客作業を行いながら、副店長の魔王ビナスさんと一緒に思わず笑顔で頷きあいました。
そして、春のフェアのもう一本の柱であります、ヤルメキススイーツの方ですが……こちらも当然のように大盛況となっております。
事前に掲示した春のフェアの告知ポスターの下部に、春のフェアで販売される春のフェア限定新商品を掲載していたのですが、その前に女性客の皆様が大殺到。
「イルチーゴ大福!? これはぜひ食べてみないと!」
「イルチーゴクレープなんて、想像しただけでほっぺたが落ちちゃいそう」
「イルチーゴパフェもいいわぁ、これは外せない」
「イルチーゴプリン!? ただでさえ美味しいプリンに、イルチーゴ味が出るの!?」
「イルチーゴの入った杏仁豆腐も素敵ねぇ……想像しただけで涎が……」
そんな女性客の皆様の声が、ポスターの前から絶えることがありませんでした。
そして迎えた本日のフェア当日。
僕が勤務しているコンビニおもてなし本店では、開店前から入り口前に列が出来ていました。
これ、当然のようにヤルメキススイーツを求めて並ばれているお客様の列なんですよね。
ちなみに、後で確認してみたところ……コンビニおもてなし全店の前でヤルメキススイーツを求める皆様の列が開店前から出来ていたそうです、はい。
「ヤルメキススイーツも、コンビニおもてなしの人気商品としてすっかり定着したってことだね、ヤルメキス」
「お、お、お、恐れ多いでごじゃりまするけど……う、う、う、嬉しいことこの上ないでごじゃりまするぅ」
僕の横で、ヤルメキスは思わず感涙していた次第です。
思えば……この世界の飛ばされてきた僕が最初に出向いた季節のお奉りで、このヤルメキスと出会ったことが最初だったんですよね。
路地裏で、粗末な素材を使って一生懸命作ったカップケーキを販売していたヤルメキス。
あの出会いがあったからこそ、コンビニおもてなしの人気ベストスリーの1つであるヤルメキススイーツが出来上がったんですから、ホント何が幸いするかなんてわからないもんですね。
ちなみに
売り上げベストスリーの残り2つはと言いますと、お弁当とスアの魔法薬になります。
スアビールも大人気なのですが、売り上げ数では圧倒的にお弁当、売上高では単価の高いスアの魔法薬の売り上げが抜きん出ている状態です、はい。
開店と同時に、ヤルメキススイーツの棚の周囲は主に女性客の皆様でいっぱいになっていきました。
男性客の方もおられるのですが、女性客の皆様の勢いに押されてしまっている感じですね。
そんな中、新商品をひょいひょいとカゴに入れて、そそくさとレジにやってこられたのは……
誰あろう、オルモーリのおばちゃまでした。
このオルモーリのおばちゃまですが、ヤルメキスが結婚したパラランサくんのおばあちゃんでして、つまりヤルメキスにとっても義理のおばあちゃんにあたるんです。
2人が結婚する以前からヤルメキススイーツの大ファンだったオルモーリのおばちゃまでして、パラランサくんとヤルメキスが恋に落ちたのも、パラランサくんがオルモーリのおばちゃまのお使いでヤルメキススイーツを買って帰っていたのがきっかけですので、ホント何が幸いするかわかりません。
で
ヤルメキスが身内になったわけですから、その気になれば家でスイーツを作ってもらったり、こっそり持ち帰ってもらうことも可能なはずなのですが、
「ヤルちゃまがね、一生懸命お店で作った品物じゃない? おばちゃま、それを応援したいのよ、お客様達と一緒にね」
いつもそう言って笑ってくださるオルモーリのおばちゃま。
「そう言っていただけると、ヤルメキスも喜びます」
僕がお礼をいいながらレジ打ちをしていると、オルモーリのおばちゃまは、その目を細めながら嬉しそうに1品1品を眺めてくださっています。
その笑顔が本当に素敵なもんですから、お客さんも思わずその笑顔に魅入っておられる方も少なくなかったりするんですよね。
そんなオルモーリのおばちゃまを筆頭に、レジにはあっという間にヤルメキススイーツをカゴに満載したお客様の列が出来ていきました。
とはいえ、今のレジには僕と魔王ビナスさんがはいっていますので、少々の列ではビクともしません。
コンビニおもてなしの各支店ならびに出張所のみんなもレジ打ち作業にかなり慣れてきてはいるのですが、僕と魔王ビナスさんの処理速度に敵う店員さんは、まだ見当たらないのが現状です、はい。
そんなわけで、僕と魔王ビナスさんはレジ前に出来たお客さんの列をすごい速さでさばいていきます。
ただ早いだけではなく、
「ご一緒にスープはいかがですか?」
他の商品を紹介したり、綺麗に詰めていくことも忘れてはおりません。
早いだけで、乱雑に詰め込んでいっては、いくら早く作業をおこなっても不評をかってしまうのは、僕が元いた世界といっしょですからね。
そんな僕と魔王ビナスさんの作業を見ていた、臨時採用扱いでお店に出ているパラナミオが
「うわぁ……パパと魔王ビナスさん、本当にすごいです」
と、目を丸くしながら手際の良さを見ながら感嘆の声をあげていました。
「パラナミオも、一日も早くパパと魔王ビナスさんのように作業が出来るように頑張ります」
そう言って、決意を新たにするパラナミオ。
その横顔が凄く頼もしく見えた僕でした。