バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第12話 快楽

あれから俺と隼は、何度も互いに体を求め合った。


隼は乳首で3回ほど、自身で2回ほどイき、俺も最後に1発口で抜いてもらった。



何度出しても冷めない理性と止まらない欲情は、若さ故なのだろうか。

俺のこいつへの気持ちを考えれば当然なのだが、一方でこいつは何故こんなにも俺を求めてくれるのか……



「隼、やっぱり溜まってたんだろ?」


事後、二人で風呂に入った。

俺のマンションの部屋は一人で過ごすには無駄に広い。

それは風呂も例外ではなかった。

浴槽に隼と二人で入っても十分なスペースがある。

俺は隼を後ろから抱きしめる形で温かい湯に浸かっていた。



「うーん…否定はできないかな」


隼は俺の顔のすぐ近くではにかむように答える。

こいつは俺よりも少し背が低い。

ちょうど俺の口元がこいつの耳に当たる。

「やはりな。あれだけ乱れてたからな」

俺はあえて耳元でそう呟く。

こいつが耳が弱いのは今日分かったことだ。

案の定、今の俺の言葉にもビクッと体を反応させた。

「……っもう、耳元で話さないでっ」

「可愛い。」

「まだそうやって揶揄うの??」

「揶揄うもんか。本音だ」

「………もういいよ…」


一般的には本能のまま求め合ったあの時間から時が経てば経つほど、互いに冷静になりそうなものだ。
しかし不思議と、俺らは緩やかな温かい雰囲気を維持していた。

ほんのりとした、心地良い二人での入浴。

先程のような官能的な気分とはまた違う気持ちよさに2人は酔いしれていた。


「で、どうなんだ?溜まってたんだろ?」

「俺……優に最低なことしたかな…」

「最低なこと?何故」

「だって………いくら自分が梨々とできないからって…俺のことを本気で想ってくれてる優とそういうことをするなんて…体目的、性欲目的なのと変わらないんじゃないかなって思って」

梨々というのは、隼の彼女である雨宮の名前だ。


目の前の隼の表情は見えない。

が、罪悪感に潰されそうな生真面目な声は、本当に俺に対して申し訳ないと思っているのだろうということが伝わってきた。


「そんなこと気にするな。そもそもは俺が無理矢理始めたことじゃないか。」

「無理矢理じゃないよ…!俺だって同意してたし」

「じゃあ互いの同意の元だ。何の問題もなかろう」

「そういうことじゃなくて…!」


続きを言おうとしたが上手く言葉が見つからなかったのか、隼は言葉を途絶えさせた。


「……優は…俺のことを好きだからああいうことしてくれたのに……俺は…好きとかというより、ただ……気持ちよくてしちゃっただけだから……」



隼が少しうつむく。

声は消え入りそうなくらい小さく、俯いた先の水面に吸収されるようだった。



「…確かに俺は本気でお前は快楽目的だったかもしれない。だが、お前は快楽目的なら誰でもいいわけじゃないって言ってくれたじゃないか。俺だからしてみたいって。俺はそれだけで充分嬉しかった。それに、俺だってお前と付き合えるわけではないのにこういうことをしたいと頼んだんだ。俺にだって、お前としてみたいという性的な目的はあったんだぞ」


俺の言葉に隼はゆっくりと顔を上げた。

「……というか、お前さえ良ければ俺は何度でもお前としたいよ。雨宮とできるまで、お前も欲が溜まるだろうし」

「えっ」


俺の言葉に嘘はない。

あの快楽を知ってしまった俺らは、どのみち後戻りはできないだろうから。


「ほんとにいいの…?」

隼はゆっくりとこちらを振り返る。

「ああ。むしろ俺は本望だ。」

「そっか。でも……」

「その代わり、何があってもバレてはいけない。瑠千亜や五郎、清和、それに雨宮にさえも絶対に知られてはいけないぞ」

「それはそうだけど…」

「まあ、お前に任せるよ。また俺としたくなったら俺はいつでも待ち構えてる。なんなら俺のほうがお前としたいくらいだからな」



隼が決めあぐねているので、敢えてこう言ってはみた。

が、きっと隼は近いうちに再び俺を求めてくるだろう。


真面目で優しいこいつのことだから、きっと俺と体の関係だけになるのは気が引けているのだと思う。

雨宮という彼女もいる手前、俺を性欲処理の都合の良い奴として扱うことになる、と。


しかし、俺からしたらむしろ隼がこの話を受け入れてくれることこそが都合が良い。

隼と何度も、さっきのようなことができるなら……

隼の気持ちは雨宮にあるが、少なくともあの行為の最中は俺だけに向いている。
俺を求めてくれている。


それに、隼もきっと同じだと思う。

あの濃厚な行為を、性欲真っ盛りの男が辞められるはずがない。



俺は隼のことは手に取るように分かる。

だからきっとこの推測も間違うことはないはずだ。



「………わかった。よく考えてみる」


隼は深刻な顔をして前に向き直る。

よく考える暇もなく、こいつはきっと俺とまたしたがるはずだ……












数日後、俺のそんな予想は見事的中していたことがわかった。

テニスの遠征の最終日、俺と隼はホテルの二人部屋で、再び体を重ね合った。

しおり