春の卒業と、出版と
スアの使い魔の森から帰ってきた我が家一行と、ミンスちゃん。
あれから数日が経過しています。
ミンスちゃんは我が家の誰よりも小柄でして、我が家で一番小柄なスアよりも少し小さいくらいです。
人型の際は、そんなサイズのミンスちゃんですけど、その本来の姿はイルミンスールという世界樹の幼木ですので、本来の姿に戻ると、今僕達が住んでいる巨木の家の倍以上の大きさになるんですよね。
スアがバージョンアップさせたプラント魔法の成果なんですけど、スア信者のブリリアンや魔女魔法出版のスア専属担当~ついでに僕の担当~のダンダリンダもよく言っているのですが、
「スア様の場合、既存の魔法を研究してよりよい形に進化させるだけでなく、その方法を惜しげもなく公開するところが素晴らしいのでございます」
そう言いながら感動の涙を流しているブリリアンが手にしているのは、
『最新版 プラント魔法の解説』
という、スアが魔女魔法出版から発行した最新刊でした。
……ちなみにこれ、予約段階でベストセラーが確定していたそうです。
◇◇
ただ、このミンスちゃんに関しまして予想外の問題が起きてしまいました。
いえね、ミンスちゃんは世界樹の幼木なわけです。
僕達が、手狭になった巨木の家の代わりにするために、スアがプラント魔法をかけて人型に変化させてからこちらの世界に連れてきたわけなんですけど、
「ミンスちゃんと一緒にいたいです!」
「僕もそう思います」
「アルトもそう思っておりますわ」
「ムツキもにゃしぃ」
「アルカも、リョータ様や皆様と同じ気持ちアル」
と、我が家の子供達がみんな人型のミンスちゃんと一緒にいたいと言い出したんですよ。
ここ数日、一緒にお風呂に入ったり、一緒にご飯を食べたり、一緒に遊んだりと、四六時中一緒にいたもんですから、みんなしてその気持ちが高ぶってしまったようですね。
ただ、これに関しては僕もパラナミオ達と同じ気持ちでした。
人型になったばかりのためか、ほとんど言葉を発することがないミンスちゃんなんですけど、パラナミオ達と遊んでいるうちに笑い声を発するようになり、パラナミオの真似をしてか、僕に笑顔で抱きついてきたかと思うと、
「ぱーぱ……ちゅき」
と……破壊力満点の笑顔でこう言ってくるもんですから……
で、スアにそのことを相談してみたところ、
「……そうね……人型部分だけ切り離せないかどうか、少し魔法を改良してみる、わ」
と、言ってくれました。
これによりまして、ミンスちゃんを僕達の新しい家として使用するのはもう少し先になってしまいましたけど、パラナミオ達と一緒に楽しそうに過ごしているミンスちゃんの様子を見ていると、この決断でよかったと思っている次第です。
……ちなみに、スアが研究を開始すると同時に、スアの研究室の周囲を魔女魔法出版のダンダリンダがうろうろし始めておりまして……
「……ダンダリンダ、ひょっとしてスアの新しいプラント魔法の本の原稿を待ってるの?」
「えぇ、その通りでございますわ、スア様の旦那様」
僕の言葉に満面の笑顔で返答したダンダリンダ。
……なんといいますか、この熱心さはすごいなと、感心しきりな僕でした。
◇◇
そんな中……
今日はパラナミオの卒業式が行われました。
元々、一人で彷徨っていたところを山賊達に捕まっていたパラナミオ。
それを僕とスアが保護し、養女に迎えたわけですが……なんといいますか、感慨もひとしおです。
辺境都市ガタコンベにあります教会の学校では、パラナミオを含めて5人が卒業することになっています。
教会の礼拝堂で行われた卒業式。
壇上に立っているパラナミオの姿を見ていると、僕も思わずうるっときてしまいました。
そんな僕の横では……スアがすごい量の涙を流していました。
「……まさか、こんなに感動するなんて……」
スアも、自分が母親として面倒をみてきたパラナミオが学校を卒業するということで感無量の様子でした。
長命種族のエルフ族のスアですが、僕との結婚が初婚ですので、何もかもが初体験なわけです。
僕もですけど、お互いにいろんなことにぶち当たりながらこの日を迎えることが出来ただけに……うん、すごく嬉しいです、はい。
ちなみに、この教会の学校には、コンビニおもてなしも微力ながら協力させてもらっているんです。
給食として、コンビニおもてなしのお弁当を無料で提供させてもらっているんですよ。
と、いいますのも、ここ辺境都市ガタコンベはすごく田舎で、済んでいる人々のほとんどすべてが亜人種族の方々なんです。
亜人種族の方々は、自給自足をなさっておられる方々が多いものですから、子供さん達を学校に通わせるのも結構大変なんだそうです。
そこで、この給食費だけでも、コンビニおもてなしが無償提供することでみなさんの負担を少しでも減らすことが出来れば……そう考えてはじめたこの提供なのですが……
この提供は僕の想像以上に効果がすごかったようでして……
「コンビニおもてなし様がお弁当の無償提供をはじめてくださって以降、必要経費が軽減されたおかげで学校に通う子供達がすごく増えたんですよ」
そう言ってシスター兼先生のシングリランが僕の元に駆け寄ってきて何度も何度もお礼をいってくれました。
で、それを見た他の子供達の親御さん達まで、
「コンビニおもてなしさんのおかげで本当に助かってます」
「本当にありがとうございます」
と、口々に僕とスアに感謝の言葉をかけてくださったんですよ。
そんな僕達の様子を、壇上のパラナミオまでもがすごく嬉しそうにみていたもんですから、ちょっとだけ父親として誇らしくおもった次第です、はい。
ちなみに、この学校では基本的な読み・書き・そろばんの授業を教えてもらえるんです。
この学校を卒業し、辺境都市ブラコンベやナカンコンベにあります中高部のある学校へ進学することも可能だったのですが、
「パラナミオはこの学校を卒業したらすぐにパパのお店のお手伝いをしたいです」
という、パラナミオの強い要望を優先したんです。
ただ、これを受けてスアがですね、
「……私が、お勉強を教えてあげる、ね」
そう申し出まして、
「はい! よろしくお願いします!」
と、パラナミオも笑顔でこれを了承したんです。
それを受けまして、スアは早速パラナミオの勉強用の参考書を自分で作成していきました。
その参考書はすごくわかりやすくまとめらていまして、修学前のリョータ達までもが
「ママ、これすごくわかりやすいです!」
「私もほしいですわ」
「ムツキも、パラナミオお姉ちゃんと一緒に勉強を教えてほしいにゃしぃ」
「アルカも、リョータ様やみんなと一緒に勉強したいアル」
そう言い出した次第でして……
でも、子供達に笑顔で囲まれながら、スアもすごく嬉しそうでしたので、まぁ、よしってことですかね。
……ちなみに、
「スア様、そのテキストも我が魔女魔法出版から出版しませんこと?」
と、早速ダンダリンダが営業をかけていたのは言うまでもありません。