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 ローゼフが然り気無く彼女の手をとると、少女の心は恋する乙女のように揺れた。

「さあ、美しいベアトリーチェ。一緒に私とワルツを踊ろう」

「ええ、ローゼフ様。喜んで…――!」

 バイオリンの奏でる優雅な演奏に舞踏会は一層、華やかな雰囲気に満ち溢れた。美しい彼の瞳には、目の前にいる彼女しか映っておらず。その吸い込まれそうな綺麗な青い瞳の奥に、ベアトリーチェは自分の頬を赤く染めた。そして、彼との一時のダンスに夢中になって踊った。

 彼女にとっては、まるで夢のような魔法がかかった素敵な時間だった。周囲は2人の華やかな踊りに目を奪われた。そして、誰もが2人の踊りに視線を向けたのだった。ローゼフを追いかけてる貴婦人達は、その場で悔しさをこみ上げながら彼女を睨んで嫉妬した。

「どうしたベアトリーチェ? 私とのダンスは楽しくないかい?」

「いえ、そんなことありませんわ……。ローゼフ様、皆が私達を見ています。なんだかわたくし…――」

 ベアトリーチェは周囲の視線を気にしている様子だった。だが、ローゼフは周りの視線なんか気にせずに彼女と堂々と踊り続けた。

「いいさ、見させておけばいい。それより、私と一緒に踊ろう。ダンスはどんな時でも楽しまなくてはいけない。そうだろ?」

 ローゼフはそう言って、彼女をもっと自分の近くに引き寄せた。そして、お互いの体と体温が伝わる距離まで近くに感じた。ベアトリーチェは彼を近くで意識すると周りの視線さえも忘れてしまいそうになった。

「はい、ローゼフ様……!」

 彼女は胸の鼓動を高鳴らすと目の前にいる彼に夢中になった。そして、夢のような時間があっという間にすぎると優雅なダンスの演奏は終わった。ローゼフはダンスを終えると彼女を優しく褒めた。

「素晴らしいダンスだったベアトリーチェ! どうもありがとう…――! 心から君に礼を言う。それでは私はここで失礼するよ」

「あ、ローゼフ様……!」

 ベアトリーチェは立ち去る彼に思わず声をかけた。するとローゼフは何かを思い出したように彼女のもとに慌てて戻ってきた。

「おっと忘れていた」

「え……?」

 彼は彼女に近づくと、そっとベアトリーチェの白い手に軽くキスをした。そして、美しい眼差しで彼女を見つめて話した。

「紳士たるもの、これも礼儀作法の一つだ。すっかり忘れるところだった。では、美しいベアトリーチェ。さよならご機嫌、また会う日まで――」

 優雅な物腰でお辞儀をすると、彼女の傍から離れてさっきいた場所に戻って行った。ローゼフは戻ると、長椅子に座った。 そこにお皿を持ったピノが現れた。彼を見るなり、自分のほっぺたを膨らませて不機嫌な顔を見せた。そして、無言で彼の隣に座るとお皿に乗っている料理をムシャムシャと食べ始めた。

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