ウリナコンベの7号店 序の2
この日、コンビニおもてなし本店の営業を終えた僕は、スアとパラナミオの3人を連れて辺境都市ウリナコンベへ出向くことにしました。
商店街組合のエレエを、スアの転移魔法で送ってあげることになったので、そのついでに都市の様子を見にいくことにしたわけです。
まず、本店の店内と厨房をつないでいる長い廊下の壁に設置されています転移ドアを利用してオザリーナ村にありますコンビニおもてなし6号店へ移動。
オザリーナ村の温泉が、先日開催されたララコンベの温泉祭りの影響でかなりお客さんが増えていまして、そのお客さん達に対応するために6号店も営業時間を1時間ほど延長して対応しているんです。
そのため、僕達が出向くと店はまだ営業中でして、大勢のお客さんでごった返していました。
そんな状態なのですが、店内はそんなに混雑している印象がありません。
……と、いいますのも
「いらっしゃいませぇ」
「銀貨7枚と銅貨2枚になりま……っと危ない、また何もないところで転びかけた」
「へぁ!? せ、セーフでしたぁ……あ、2番目のお客様ぁ、こっちのレジへ~」
一部不穏な会話が混じってはいるものの、それを補ってあまりあるフットワークと手際の良さで、店員のみんながテキパキと対応してくれているからにほかなりません。
店長のチュパチャップをはじめ、副店長のアレーナ、新人店員のマキモとその妹2人
このみんなが、あうんの呼吸でお互いを補完し合いながら頑張ってくれているんです。
店員がみんな笑顔でテキパキ仕事をこなしているものですから、レジ待ちのお客さんもあまりイライラした様子がないんですよね。
……こういう時に、レジの店員が見るからにもたもたしているとお待ちくださっているお客さん達のイライラがどんどん募っていって店内の雰囲気まで悪くなってしまいますからね。
このあたりに関しては、僕が元いた世界も、こちらの異世界も共通なんです。
「新しく開店する7号店でも、こんな接客を心がけないとな」
僕は、店内を見つめながらそんなことを考えていました。
「はいパパ! パラナミオ頑張ります」
その声を聞いたパラナミオが、僕の横で気合いを入れた表情を浮かべながら両手でガッツポーズをしています。
なんといいますか……ホントに頼もしい長女です、はい。
◇◇
その後、みんなの邪魔にならないようにオザリーナ村の商店街組合へ移動。
「あ、店長さん、奥さん、パラナミオさん。今日はお世話になりますます」
そこでは、すでにエレエが荷造りを終えた状態で待っていました。
何度も頭を下げるエレエに、
「いやいや、これから一緒に頑張る仲間みたいなもんですしね。お気になさらずに」
そう返答しながら、エレエの荷物を魔法袋の中に詰めていきました。
この魔法袋ですけど……
コンビニおもてなしでは何不自由なく使用しているのですが、これ、王都にある高級魔法道具のお店でないと扱っていないような超高級品でして、お値段も1個で新築の家が建ってしまうほどなんですよ。
そんな高級品をいくらでも使用出来ているのは、全てスアのおかげなんです。
この魔法袋を作成出来るのは、上級以上の魔法使いの中でもごく一部の魔法使いにしか無理なのですが、スアはそのごく一部の頂点に君臨している魔法使いなわけなんです。
なので、
「スア、魔法袋をお願い出来るかな?」
そう、僕がお願いすると、
「……はい」
と、待つことおよそ10秒程度で魔法袋を作成してくれるんです、はい。
この魔法袋は、コンビニおもてなしでも販売しているのですが、新築の家が建つほどの魔法袋はそう簡単には売れないわけです。
そこで、能力を簡易方にして、中古車1台分くらいの値段に抑えた簡易魔法袋なんていうのをスアが開発してくれているんです。
これは、収納量が六畳間1部屋分くらいしかないんですよね。
通常版は、お城の宝物殿並の収納量をもっていますので、かなり少なめです。
ですが、これが結構好評でして、毎日コンビニおもてなしの本支店で売れているんですよ。
で、僕所有の魔法袋にエレエの荷物を詰め終わると、スアが魔法の絨毯を取り出しました。
通常なら、転移ドアで移動するところなのですが、今回出向く辺境都市ウリナコンベは出来てまだ間がない新興の辺境都市なんです。
そのため、スアもまだ一度も行ったことがないんですよ。
スアの転移魔法は、スアが一度行ったことがある場所へならいつでもどこからでも転移ドアを接続することが出来るんですけど、行ったことがない場所には無理なんです。
まぁ、この魔法の絨毯で移動してしまえば、帰りは転移ドアですぐに帰れるようになるんですけどね。
早速魔法の絨毯に乗り込んだ僕達は、
「……じゃあ、行くね」
スアの合図とともに舞い上がった魔法の絨毯で出発していきました。
「うわぁ、すごいですぃ」
パラナミオが、周囲を見回しながら歓声をあげています。
何しろ、この魔法の絨毯はとんでもない速さで飛行していますからね。
さっき『ドン!』衝撃音が聞こえてきたのですが、あれって間違いなく音速の壁を越えた音だと思うんですよ。
すごい速さで流れていく景色。
それをパラナミオが笑顔で見つめています。
「魔法の絨毯ははじめてですですけど、定期魔道船など目じゃないですですねぇ」
エレエも、目を丸くしながら周囲を見回しています。
スアはといいますと、魔法の絨毯の前側に座っている僕の膝の上にちょこんと座って、そこで水晶樹の杖を前方に向かって指し示しています。
この杖で、魔法の絨毯を操作しているわけです。
スアの脳内には、この世界の全ての地図がインプットされているそうでして、そのため辺境都市ウリナコンベも行ったことはないものの、その場所に関してはほぼ完璧に把握しているわけです、はい。
ちなみにですが……
スアは、こうして僕の膝の上にのっかって魔法の絨毯で移動するのが大好きなんですよ。
後ろから見ていると、スアの長い耳が嬉しそうに上下しているんです。
あまり大きくない動作ですけど、僕にははっきりわかるわけです、はい。
結婚して数年経ちますけど、相変わらずラブラブな夫婦ってことですね。
◇◇
定期魔道船を利用したとしても半日近くはかかる距離を、スアの魔法の絨毯はわずか30分ほどで飛行し終えてしまいました。
空中で静止した魔法の絨毯。
眼下には、城壁で囲まれた辺境都市の姿がありました。
石造りの真新しい城壁で覆われているその都市……これが、辺境都市ウリナコンベでした。
「……じゃあ、降りるね」
スアはそう言うと魔法の絨毯を都市内に着陸させました。
……すると
何やら、街の方から人が駆け寄ってきています。
この街の衛兵さんかな?
あ、ひょっとしたら、部外者がいきなり都市の中に降りたもんだから不審車と間違われたとか……まぁ、実際不審者みたいなもんなんですけど……
そんな事を思っていると、
「あ!」
パラナミオが、何やら嬉しそうな声をあげました。
そのまま、駆け寄ってくる人に向かって駆け出したんですが、
「サラさん! お久しぶりです!」
「やはりパラナミオか、気配からしてそうかと思ったんだ」
駆け寄ったパラナミオを抱き留めてくれたのは、サラさんではありませんか。
龍人さんで、パラナミオと同じサラマンダーの人なんです。
数少ないサラマンダー種族の方なもんですから、同じ種族のパラナミオのことをいつも気にかけてくださっていまして、時々様子見に来てくださっていた女性なんですよ。