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第37話 悩める男子※隼Side※


全国大会に向けた厳しい練習を20時に終えて、帰宅してから約一時間。


梨々が褒めてくれた調理人さんの夕食を食べた後、いけないこととは分かっていながらも部屋へ直行してベッドに飛び込む。

柔らかいシルクの白い布は、疲れた体を優しく包み込む。

お陰で体はすっぽりと布団に埋まってしまって全く動かさずに済むが、頭の方は休まる気配すらない。



今日の昼休みに梨々から聞いたこと、

そしてついさっき、小春さんからメールで言われたこと。


その2つはどちらも、俺が全力で梨々に協力しようと決めていた今までの決断を、揺るがせるものだった。




優の好きな人が梨々ではないこと。

五郎も梨々を好きかもしれないこと。

そして五郎は、梨々が優のことを好きだと知っていながら梨々に優の好きな人について教えたかもしれないこと。


これらは全部、梨々の話から分かったことだ。


そして小春さんとのメールでは、梨々の為を思うなら、今のままではなく、何かしら動いたほうが良いとも言われた。



俺は、どうしたらいいんだろう。


結局今日の部活の帰りも、練習メニューも終わる時間も違ったため、五郎と話すことはできなかった。


とはいえ五郎にメールや電話をして聞く勇気も出ない。

そもそも俺がこの話を知っているということを、梨々と小春さん以外に分かられてもいいものなのか。



今までの俺は、梨々が幸せになることばかり考えていた。

だから、優の気持ちや、俺以外にも梨々へ想いを寄せる人がいるということについては深く考えてこなかった。

この世で恋をしているのは、俺や梨々だけじゃないのに。

今まで、どれだけ周りに目を向けられていなかったかが、自分でもよく分かる。



でもきっと、五郎は色んな人に目を向けられていたんだろうな。

だから、優の気持ちや梨々の気持ち、そして俺の気持ちにも、もしかしたら気づいているかもしれない。

そして、五郎は色んなことを見ながら、自分の気持ちをどう整理するべきかを考えていたんだろう。


その結果の梨々への行動なのかもしれない。



これらの憶測を、はっきりさせることは今適切なのだろうか。


それは俺が勝手に知りたがっているだけなのではないか。


要するに、五郎に聞いて彼の梨々への想いを確かめたり、どうして優のことを梨々に教えたのかを問いただしても、それは俺が気持ちをすっきりさせるためでしかなくて、この状況をちっとも良くしないのではないか。

また、優に直接好きな人について確かめることも、誰のためにもならないのではないか。

確かに五郎の気持ちをハッキリ確かめることが出来たら、優の好きな人を知ることができたら、俺はスッキリするかもしれない。


でも、そんなことを聞かれて、五郎や優は決して気持ちよくはないだろう。

そして、そんなことをして、輪を掻き乱したりしたら協力どころか逆に梨々の邪魔をすることにもなるだろう。



梨々はまだ、迷っているのかな、、、

優への気持ちをどう整理するか。


それともまだ、事実を確認できていないから、混乱しているのかな、、、



これに関しては、梨々に直接聞いてもいいのかな。

、、、、いや。


自分が動いて、どうにかしようとすること自体が的はずれなのかもしれない。


俺が勝手に色々考えて、無理に行動を起こして、この状況を変えようとしている事自体、間違っているのかもしれない。

誰もそんなことを望んでいないとしたら余計にそうだろう。



今までだって、梨々の想いを成就させることばかり考えて突っ走って、優に無理矢理梨々の話をしたりしていた。

その時、他に好きな人がいる優は、どう思っていたのだろう。

俺の行動を見ていた五郎は、何を思っていたのだろう。


自分の行動のことばかり考えている俺は、見苦しかったと思う。

周りへの影響を考えずに自分本位で突っ走る俺に、振り回されていたと感じた人もいるかもしれない。


だったら、敢えて今は状況を冷静に見る時にした方がいいのかな。


何か無理に行動しようとしないで、客観的に色んな方向に目を向けることに専念したほうがよいのかもしれない。


勿論、そのなかで行動したほうが良いと言えるときには行動しよう。



今までの狭い視界を広げてみて、もっと周りをちゃんと見てみよう。

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