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第36話 腹黒メール※小春Side※


『今日のお昼、梨々から相談受けた?』


部活後、すかさず部室から隼くんにメールを送る。


昨日カフェで梨々のお話を聞いた。

その結果、私は梨々の気持ちを優くんから隼くんへ向け変えさせることにした。

その最初の段階として、隼くんに相談を持ちかけるよう梨々に提案した。


だから今日のお昼休み、私はわざと梨々と一緒に食べないようにした。


梨々がそのチャンスをしっかり使ったかは分からない。

けど、私の方から梨々にわざわざ隼くんに相談したかを聞くのは何となく違う気がしたから、隼くんに聞いてみることにした。


しかも、私は一刻も早く梨々の気持ちを隼くんに向けさせるようにしなければならないのだから、できるだけ隼くんと接触を持ちたかった。




『受けたよ。小春さんも何か知ってるの?』


5分と待たずに返信が来た。


『当然。全て知っていたけど、梨々には言わないようにしてたわ。梨々、落ち込んでいたでしょう?』

『凄く落ち込んでた、、、どう声かけたらいいんだろう?』



好きな子がショックを受けているのを見て、きっと心の底から悩んでいるのが文面から伝わって来る。


『優くんを諦めさせるか、頑張って想い続けさせるか。悩むところよね、、、隼くんはどうしたいの?』

『梨々さんの気持ち次第かな。梨々さんが優を諦めてもいい、って言うなら無理に想い続けろなんて言えないけど、諦めたくないなら最後まで応援はしたいよ。優がそれに応えられなくてもね。』

『お昼休みの梨々の様子的にはどうだったの?諦めたくない感じだった?』

『頑張ってみるとは言ってたけど、、多分まだ迷ってるかな、、、そもそもなんで優に恋したのか、ってことについて悩んでた』

『ドキドキの正体を探ってるのね』

『そう!まさにそんな感じ。でも俺も最終的に、諦めずに優本人の気持ちを自分で確かめよう、って言っちゃったからな、、、余計なこと言ったのかもしれない。』



梨々に気を遣いすぎてる隼くんが目に浮かんでくるわ。

可哀想に。

もっと、自分勝手でいいのに。




だけど、ここで五郎くんのように自由な行動を取るよう促しても、隼くんの場合は逆に頑なに自分の気持ちを抑えようとするに違いないわ。


だから、、、



『とにかく今は一緒にいっぱい悩んであげて。

きっと梨々が一番頼りにしてるのはあなたよ。

だから、少しでも梨々の様子に変化があったら声を掛けて、梨々が相談してきたら絶対に乗ってあげるの。

梨々はね、答えを完全に知ってる人よりも、一緒に悩んでくれる人の方が信頼するタイプだと思うの。』




私が思うに、隼くんのようなタイプは、とにかく自信をつけさせてあげる必要があるわ。

自分の心の赴くままに行動したりしないのは、根底にある自信のなさと、相手への思いやりからきているものだから。



『あとね、隼くん。

一つだけ言っておくわ。相手を思いやるあまり、自分の気持ちを押さえつけすぎない方がいいと思う。

もちろん状況によっては自制も必要なんだろうけど、


相手が誰かのせいで傷ついているときは、思い切って自分の優しさを与えて。

それは決して押し付けにはならないから。』


返信が来る前に、追送信した。


そして最後に。


『女の子は、案外、そういう強引に見えた優しさを求めていたりするものよ!』


と、送って完了よ。


これで隼くんの気持ちも少しは変わったんじゃないかしら。

少しずつ、背中を押してあげるのが私の役目。


早めに梨々に対して行動してもらわないと、五郎くんが瞬く間に梨々を掻っ攫って行っちゃうわ。


でも、梨々ってそういう男らしいタイプよりも、隼くんのような自信がないながらも一緒に留まって考えてくれるタイプ方が合ってると思うの。



まあ、ここまで言っちゃうのはもう少し後でいいわね。




返信に悩んだのか、今までのスパンよりも少し遅めでメールがきた。



『小春さんありがとう。俺は人の気持ちに鈍感だから、相手が何を求めているか咄嗟に分からないことが多いけど、梨々さんが本当はどうしてほしいと思ってるのかをちゃんと見極めてから行動するようにするよ。ありがとね』


真面目かっ!!!と思わず突っ込みたくなるような返信ね。


こっちはこんなにドロドロとした計算の元で動いてるのに、この人ったらほんとーに真面目で純粋なのね。

全く、つくづく梨々と似た者同士だわ。


『様子見ていけそうなときはいきなさいよ。考え過ぎると、梨々なんてすぐに誰かに取られちゃうんだから。』


まあ、強引にじゃなくて、梨々の気持ちに寄り添いながらも行動に移してほしいわ。

それがきっと、隼くんには合ってるしね。


『小春さんもやっぱり気づいてたんだ……』


思わずクスリ、と笑ってしまったわ。

まだ気づかれていないと思ってたのかしら。あんなに分かりやすいのに。本当に微笑ましいんだから。


『梨々だけは気づいてないのを吉とすることね。ココだけの話、私は隼くんを応援するわ。頑張って!』


敢えて梨々以外は気づいてることをほのめかす。


『ありがとう!頑張ります!』


メール越しでも焦ってるのが伝わってきた。

梨々以外に気づかれてることは、私の文面から察せたのかしら?



まあ、こんな素直なところが、きっとモテモテな理由なのよねー。

でもそれと同時に優しすぎるから、なかなか幸せを手に入れ難いタイプかもね。


なんて今日は散々勝手に人を分析したけど。

とりあえず隼くんと梨々を近づける第一歩にはなったかな、と思いながらメールを終わらせる。


さて。
これから隼くんが梨々のために、どう動いていくか、見物だわね。

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