第31話 恋バナ@焼肉屋※瑠千亜Side※
焼肉食べ放題二時間コース。
全部員108名の席だから、ほぼ店は貸切状態。
少なくとも宴会室は埋めてしまって、一般客は小さなカウンターのみとなっている。
普段は上下関係がしっかりしていても、こういう時は学年関係なく楽しむのが決まりだそうで、敢えて席を学年ゴチャまぜにしている。
とは言っても、同じテーブルの先輩の飲み物を注いだりと、結局何かしら気は遣うんだけどな。
それでも後半になってくると、もうゾロゾロとみんなして席を移動しはじめるから、最早何がなんだか分からないくらいカオスな状態になる。
監督やコーチまで酒が入ってるかのようなテンションだし。
、、、って、ガチで入ってねーよな?笑
そんなガヤガヤした状況の中、俺はさっき店の前で五郎に言われたことを気にしていた。
「相手の幸せのみを願う恋愛なんて有り得ない、か、、、」
正直そこまで深く考えたことなんてねぇよ、と思いながら。
俺の想いが届かないなら、せめて小春の想いだけは届いて、俺と同じような想いはしてほしくないっていうのは、やっぱり自己愛なのかなーとか考えちまう。
丁度隣には隼がいる。
こいつも同じような思いしてるだろうから、聞いてみるか。
「なぁ隼。お前さ、好きな子を傷つけてまで手に入れたいって思うか?」
先輩の話を聞くのに一段落ついたようなところを見計らって聞いてみた。
「ええっ!?まさか!むしろ、傷つけたくないよ」
やっぱりな。
突然の質問、しかも中身もとんでもないものだったから、驚きながらも答えてくれた。
しかも、予想通りの答えが返ってきた。
「だよなー、、、
でももしさ、一旦傷つけた後に自分が幸せにできるって自信があるならどうする?
つまり、一旦傷つけないと、自分のものにはならない。でも、その傷つけた分は自分で慰める事ができて、さらにその子を自分のものにできる、って場合。」
「え?えーっと、、、ちょっとまってね、、、」
俺からの突然の訳のわからない質問攻撃に戸惑いながらも、きっも自分の状況に置き換えて考えてくれているのだろう。
「、、、うーん。それでもやっぱり、一旦傷つけるっていうのは辛いよ、、、いくら後でフォローできても、相手が傷ついた時間は確実に苦しむわけだし。しかもその時間は決して戻らないんだから、、、」
「なるほどね。
じゃあさ、その気持ち自体が自己愛だ!って言われたらどう思う?相手を傷つけたくない、幸せにしたい、って気持ちすらも、根源は自分が相手を好きだからだろ、って言われたらさ。」
「まあ、、それはそのとおりかもしれないけど、、、」
やはりこいつでもその意見はすんなり受け入れるという訳にはいかないようだ。
少し考えるような仕草をしてから慎重に答えた。
「好きな人には幸せになってほしい、っていうのが自己愛から来てる、ってのは程度の差こそあれど基本的にはその通りだと思うよ。
本当に純粋に相手のことだけを考えてるか、って言われると、相手が幸せそうにしているのを見て自分が安心したいだけだったり、傷つきたくないだけだったりするかもしれない、っていうことでしょう?
それは確かに、って思うけど、、、」
考えながら話しているようで、時折目をいろんな方向に動かしている。
「でも、
相手がどんな相手でも、、、
例えば、恋愛として好きな相手じゃなかったとしても、、、、誰かを意図的に傷つけることは俺はしたくないな。
気をつけてても意図しないで傷つけちゃうことはあるかもしれない。
だけど相手が傷つくって分かっててそれをやるのはいけないと思う。
すごい単純な理論だけど、自分だって意図的に傷つけられたら嫌じゃない?
しかも相手は意図的だったということを知ってしまったら……それこそまた傷つくし、信頼関係も崩れる可能性だってあるしね。」
実に隼らしい答えが返ってきたな。
こいつも、きっと俺と似たような気持ちでいるのだろう。
好きな人には好きな人がいる。
自分の想いが届かないなら、せめて好きな人の恋愛は成就してほしい。
でもそれは、自分の身勝手な願いでしかない、、、
そんな葛藤を、隼もしているからこそ、こいつの言うことが心に染みた。
まぁ確かにこいつの言う通り、確信犯で相手を傷付けるのは恋愛とか以前に人として、って問題になるしな。
それで自分に利があったとして、その利さえあれば他のことは気にならない人間なら迷わず相手を傷付けるんだろうけどさ。
相手を傷付けること自体が心苦しい人間にとっては、得られる利益よりも傷つけないで損する方が自分にとっていい、ってことになるもんな。
どっちにしろ自分の欲が絡んでると言われればそれまでだが。
要はどっちに価値を置くか、って問題なんだろうなぁ。
実用的、物理的、確実な利益を得るか。
それとも自分の良心や正義感を守るか。
まぁその良心や正義感自体が実態のない嘘くさいものなんだけどね。
だけどそれを大切にしてる人がいたっていいじゃない、ってこと。
だと俺は思うなあ。
恋愛に置き換えても、価値の置き方ややり方は人それぞれってことなのかなぁ。
「恋愛って本当に色々だよなー、、、」
自分で考えてたことがついポロリと口から出る。
「うん?さっきから急にどうしたの?瑠千亜」
「いや~?たまにはお前と深イイはなしでもすっかな~と思ってさ」
「俺は瑠千亜とたまには下らない話もしたいよ。だって瑠千亜、優とか五郎と話すときはふざけ合ってるのに、俺と話すときは真面目な話ばっかりだから。」
「オッ?なんだ?嫉妬か?あいつらに嫉妬してんのか?」
「ちょっとだけね」
「素直だなぁこいつ!なんかかわいい!」
「ちょっ!辞めてよ!」
つい勢いで隼を抱きしめてしまった。
フワッと爽やかな香りがした。そんで細く見えんのに意外と腕周りとかが硬くってびっくりした。
イケメンは匂いと筋肉までかっこいーんかい。
「なんだよ?男に抱きつかれるのは嫌かい?」
「、、、嫌じゃない……けど…」
「んー?なんだ急に深刻な顔になってー」
「いや……なんでも」
「嘘だね!!何かを思い出したような顔をしてた!
ってもしかして隼お前………男に抱きつかれたのは俺が初めてじゃねーのかい!?」
「え!そりゃーじゃれたりする流れで、とかはあったよ!?瑠千亜だってあるでしょ!?」
「あるけどよー。なんかお前の場合じゃれるというか……」
「え、なに?」
「なんかその……ガチな方向になりそう。」
「なにガチって笑」
「えっちぃ感じになりそーってこと!」
「なにそれ!そんなことなかったよ!」
「ほー?そーなのか」
てことは、結局優は特に何も動いてないのか?
あの後五郎と二人で飛び出してきたのに。
ったく、優もああ見えて案外臆病者だなあ。
「てか隼、お前さっき優と何話したん?」
「ん?男が男を好きなのはどう思うか、って」
「え、それだけ?」
「?うん、それだけだよ」
「なんて答えたの?」
「好きになるのに性別なんて関係ないと思うよ、って」
「そうかぁ!それは安心だなぁ!ところでそれ以外は恋愛の話はされなかったの?」
「されなかったよ?なんで?」
「いや、ほら、優勝したらなんたら、ってやつは?」
「それも結局話してないよ」
「まじかよーアイツ、、、」
「???」
「そうかぁ、、、
まぁいいや!ほら、くだらない話するんだろ!?じゃー下ネタでも話すか!」
「ええっ!?なんでそうなるの!?急すぎ……」
「いーからいーから!お前はおっぱい何カップ好き?俺はEくらいかな~」
「わ、わかんないよそんなの、、、」
「何照れてんだよーあ、そうだ!今度オレの部屋にある"本"貸そうか???」
「本?誰の?」
「誰ってオメー、それはそれは数多くの名も無き爆乳びじょ、、、いてっ!!!」
「瑠千亜、これ以上そういう話を続けるようなら金輪際隼の近くには寄らせないぞ、」
せっかくおっぱい談義で隼と盛り上がろうとしてたのに、突然優のデカイげんこつが頭に降りてきた。
「優!なんだよ~もう邪魔すんなし~、、、つーかゲンコツいてぇし、、、」
「お前が悪い。隼、大丈夫だったか?」
「なんだよその俺が襲ったみたいな言い方!」
「優、来てくれてよかった、、、ギリギリ?大丈夫」
「全く。瑠千亜といい五郎といい、少し目を離すとすぐこうだからな。」
「お前もそろそろ隼離れできないとヤバイぞ~?いつまでもこいつが純情でいられるとは限らないぜ~?」
「不適切発言。不適切発言1つにつき罰金制度でも設けるかな。」
「中学生が資金のやりくりしようとしてまーすダメなんだー」
何が資金やりくりだ、と再び優からゲンコツを受けた時、3つ隣の席の向い側で、恨めしそうにこっちを見ながらコップにガブガブとピッチャーの烏龍茶を注いでは飲んでを繰り返している男がいた。
「おのれ瑠千亜め、隼だけでなく優までも、、、、」
「五郎?アイツなにしてんの?」
「ああ、あいつさっきお前と口喧嘩したんだろ?それで気まずくてこっちに来れないんだとよ。」
「えっ!瑠千亜と五郎喧嘩したの?」
「ああもう!面倒くせぇ!いいからそんなとこでチビチビ烏龍茶飲んでねぇでこっち来い!ったく、、、さっきも緑茶飲んだばっかだろうが!トイレ止まんなくなるぞ!」
「なんだと貴様!このような食事の場でトイレ発言など!不衛生極まりない!」
「現在進行形でオメーも大声で言ってっから!そのワードダイレクトに言ってっから!」
「どっちもどっちだな、、、」
そんな優の呟きに俺と五郎が同時に食ってかかったのは言うまでもない。
試合に負けたこととか、小春に振られたこととか、五郎に言いくるめられたこととか、
今日は一日のうちに大きな挫折ポイント3つも経験してるのに。
こんな風にいつものようにしていられるのは、きっとこいつらのお陰かもしれない、と一瞬だけ、本当に一瞬だけ頭をよぎったのは内緒にしておこう。