第24話 限界の近く※優Side※
第二、第三試合が終わって、着々と強い者のみが残り弱い者が淘汰される段階へ入ってきた。
俺たちも、あと3回勝てば優勝することができる。
この学園の一番手ペアとしてももちろん、一年という立場だからこそ何か奇跡を起こすのではないか、などといった類の期待を寄せられていることは、重々承知しておる。
小学校の頃から経験しているプレッシャーなので、そこまで精神的に辛くはないが、今回に関しては俺は別の緊張がある。
優勝したら、、、、、
こいつに、隼に、自分の想いを告げる。
出会って約五年。
ずっとテニスでペアだった。
小学校は違うといえども、1番長く隣にいた友人。
小学校時代、隼は人の想像を超えるような、かなり辛い経験をしているのだが、その時も1番に俺に相談してくれた。
寮生活だったこいつは毎日のように俺に電話をかけてきた。
だからテニスの練習がない日でも、話さない日はなかった。
中学に入って男女問わずに人気なこいつ。
それでもペアを続けることができ、同じクラスで毎日一緒にいることができ、当然小学校時代よりも近くにいることが多くなった。
いくら新しい友達ができても、女子から言い寄られても、俺がこいつの中で「友達として」1番であることには変わらないという自信はある。
かけがえのない親友であり、唯一無二のペア。
それだけで、満足できるはずだった。
この上ないくらい心地良いポジションのはずなのに。
下手に自分の気持ちを出して、この心地良い関係を終わらせたくなかったはずなのに。
俺はもう、限界を迎えていた。
自分のこの、どうしようもない気持ちの。
理解されにくくて、気持ち悪くて、幸せになれる人などほぼいないこの気持ちを、もうこれ以上閉まって置けそうになかった。
それは、中学に入って毎日近くにいるからなのか。
周りの奴らがみんな恋をしていて、それに触発されたのか。
競争率の高い相手を好きになっているということを中学に上がり実感しているから単純に焦っているのか。
五郎の揺さぶりが効いたのか。
きっとすべて当てはまっているだろう。
とにかく、俺は隠せないのだ。
純粋に笑うこいつに対しての、不純な想いを。
「優、なんか緊張してる?」
俺の顔を心配そうに覗きこむ隼。
こんなに近くにいるのに、、、、、
「当然だ。」
つい目を逸らしてしまう。
こんなに近くで見つめるな。
こいつは鈍感だから俺の想いに気づくはずはないと思いながらも、何となく表情に出てそうで。
「優、熱でもあるの?」
「っ、やめろっ!」
俺の額に伸びる隼の手。
こんなに近くで触れたら、、、、、
やめてくれ。
これまで我慢してきたものが、一気に溢れでてしまうだろう。
俺に触れるなど、そんなことしたら、俺の方が止まらなくなり、お前を傷つけるまで汚してしまうだろう。
きっとこいつの手に触れた俺の熱い額のような想いが、止まらなくなったら、、、
何度も何度も何度も何度も。
頭の中で、夢の中で、妄想の中で、抱いてきたこいつへの汚くて俗的な感情が。
「触れる」という行為を含むもっと激しい愛情のぶつけ方が。
本来男友達に抱くべきでない本能的な欲望が。
こんな時に溢れ出てきたら、止まらなくなったら、もう後戻りできなくなったら。
試合も友情も信頼も何もかも、捨ててしまうことになる。
それだけは、避けたい。
だから、、、
「もし集中できないようだったら、優が言おうとしてること、今言っちゃって。」
そんなことは、絶対にできない。
「優がそれで集中できるならいいよ」
いつもの柔らかな表情に戻る隼。
こいつの前では常に冷静を保ってきた俺がこいつに怒られるなんて、やはり限界を迎えているようだ。
一刻も早く伝えたいのに、伝えたらコントロールできなくなるだろうという恐れを感じるというこの矛盾。
早く解放されるために、絶対に優勝するしかないだろう。