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第1話 入学式

(……優もう来てるかな?)

俺が教室に入ったとき、新しいクラスはすでに盛り上がっていた。

「おはよう。隼今年は宜しくな。」
「優!おはよう!」


教室の入り口で一番先に迎えてくれたのは、小学生の時にソフトテニスのクラブでペアを組んでいた、冷泉優(れいぜいゆう)だった。

優とは、小学校が違ったがかなり仲が良かった。

そんな優と同じ中学校に入っていきなり同じクラスになれるのは嬉しい。

「隼、お前、新入生代表の挨拶なんだろ?打ち合わせは済んだのか?」
「うん!後でリハーサルするからまた体育館に行かないといけないけどね」
「そうか・・・・それにしても、お前このクラスに知り合いはいるか?」
「う~ん・・・・・」

優に言われて初めて改めて教室内を見渡してみた。

・・・・・誰も知らない・・・・

「どうしよう優・・・俺の中学生活、もうすでに不安しかないんだけど・・・・・」


改めて俺の通っていた小学校はこの中学校に遠いことを実感した。

「優がいてくれて本当に良かったよ~」
「お前はどうせ俺がいなくてもすぐに友達ができただろ」 
「それでもいきなり一人は厳しいよ」


すでにグループが出来上がりつつあった。


「絶対大丈夫だから。お前は。すでにほら・・・・」


優が後ろを指差して言った。

振り向くと、数人の女子が近くにいた。

「初めてまして。あの、その、、」
「??」
「その、少しお話ししてもいいですか?」

一人の女の子がしどろもどろに言った。

「ほらな。ま、頑張れよ」

優が肩に手を置いてそう言ってどこかへ行ってしまった。

今この状況で1人にされても凄く困るんだけどー!!


「あのー・・・・・」

さっきの子が不審そうに言った。

「あ!はい!是非話しましょう!」

若干不自然になりながらも、応えることにした。

せっかく新しいクラスで新しい人とも出会えるんだ。
いつまでも優につきっきりじゃなくて、いろんな人と積極的に話していこう。


「あ~!私も話したい!」
「あたしもいいかな?」

そう思ってたら、さっきまで教室の至る所で固まっていた女子が次から次へとこちらへやってきた。

どうしよう、これはかなり嬉しい・・・
入学初日からこんなに沢山のクラスメイトと話しができるなんて。


「じゃあ君、自己紹介してよ!」

1人の女の子が言った。

「じっ・・・・自己紹介!?」
「そう。私も聞きたいなぁ~」
「私も!」
「・・・・わかった。じゃあ俺が最初にやるから、その後からみんな順番にね!」
「うん!」
「いいよ~」

いきなりこんな形で自己紹介をすることになるとは想わなかった。
だけど、みんなと少しでもお互いを知り合えるように俺は自分のことを思いつく限り言うことにした。


「えーっと、はじめまして。醍醐隼(だいご はやと)です。出身小学校は延喜宮(えんぎのみや)小学校です。」
「えーっ!延喜宮って、あのお受験小学校の?」
「そう。ここからはかなり離れた場所にあるけどね」
「そうなんだ~じゃあ、隼くんの家もお金持ちなんだよね?」
「うーん・・・・一応あそこに見えるあの家だけど・・・」


教室の窓の外を差した。

大きな桜の木の隙間から見える、真四角に近い白い建物が俺の家だ。


「えー!!マジで!?あれって、醍醐財閥の建物じゃん!」

「ていうことは、隼くんの家ってあの醍醐財閥なの!?」

「うん…まあ……」

「すっごーい!そんな超お坊ちゃんがこんなところにいるなんて!」

「やめてよ。普通だよ。今までも学校では普通に暮らしてきたから。そんなに気を構えなくてもいいよ!」

「いや、それでもやっぱりびっくりしたよ」

「そうだね。しかも隼くんって凄くかっこいいよね!」

「だよね!ジャニーズにいそう!」

「わかる!もうね、他の人とは輝きが違うよ」

「いやいや!いくらなんでも輝きって・・・大袈裟な……」

「そんなことないよ!だってほら、一緒にいたあの子もかっこいいよね」

「うん!あっちに行っちゃったけどね」

「優のこと?」

「優くんて言うの?」

「うん。あいつはこのクラスの俺の唯一の幼なじみだよ」

「家が近いとか?」

「ううん。家も遠いし、小学校も違うけど、テニスのクラブでペアだったんだ」

「えっ!?二人ともテニスやってたんだ!?」

「しかもペアって!イケメンコンビじゃん!」

「だよね~ていうか、私テニスやってたからもしかしてと思ってたけど、隼くんと優くんって全国大会で優勝しなかったっけ?」

「五年生の時一回だけね。六年生になってからは優勝はできなかったけど……」

「ちょっと、マジで!?優勝!?凄すぎるんですけど!」

「全国って・・・隼くんも優くんもかっこよすぎだよ!」

「あ、ありがとう……!」

優とは小さい頃から一緒だったから、兄弟みたいな感じになっている。

だから、優のことを誉められると少し嬉しい。


「はぁ~何か隼くんって話しが尽きない気がする」

「えっ?どういうこと?」

「私もそう思う!話してて楽しいし、驚かされてばっかりだもん」

「ね!結局私たち自己紹介してないけど、何かもう十分だよ」

「何それ?ひどくな~い?」

「でも、本当に隼くんって興味深い!」

「そ、それはありがとう……俺も、みんなと話せて楽しいよ。今日は俺ばっかり喋っちゃったけど明日からはみんなの話も聞かせてほしいな」

「うん!もちろん!」

「そろそろ入学式始まるから、後でメアド交換しようよ!」

「賛成!」

「あ!じゃあ俺行かなきゃ」

「どこ行くの?」

「代表の挨拶があって・・・リハーサルに行かなきゃいけないんだ」

「そうなんだ?頑張ってね!」

「うん!ありがとう!」


「・・・・ちょっと待って、今代表の挨拶って言ったよね?」

「うん・・・・」

「ということは・・・・まさかの首席入学?」

「だね・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「凄すぎるよ!隼くん!」

「顔良くてテニスも強くてお金持ちでしかも頭良いって一体なんなんだよ!?」

「ヤバい!隼くんマジでかっこいい!」


自分の出てきたクラスが盛り上がっている声を背中で聞きながら、俺は急いで体育館まで走った。


最初は不安しか感じなかったけど、あのクラスなら凄く楽しそうだ。

あんなに気さくに話しかけてくれる人が沢山いて、何より、女子の仲がとても良いということは、クラスの雰囲気が盛り上がることは間違いない。

今日は話せなかった男子も、見る限り少しずつグループが1つにまとまっていっていた。

俺も、明日話しかけてみよう。



そんなことを考えながら体育館の渡り廊下を走っていた時だった。

俺の中学生活の・・・・

いや、もっと大袈裟に言うと人生がガラリと変わった瞬間。

それは、まさにこの場面でやってきた。

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