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コンビニおもてなしのNEW その3

 王都近くにある商業都市ホープへの出店をドンタコスゥコから打診されたその日のうちに、今度は辺境都市ウリナコンベへの出店を、商店街組合のエレエから打診された僕なわけです。

「ちなみに、そのウリナコンベってのはどんな都市なんだい?」
「はいですです。昔、闇の嬌声という闇組織によって支配されていた都市なんですですけど、その支配から無事解放されましてですね、目下新しい都市として再編整備されている最中なんですです」

 ちなみに、エレエの捕捉説明によると、その闇の嬌声のやつらはこの都市の領主を裏で操って自分達のやりたい放題にやっていたそうなんだけど、その悪事が本格的にバレてしまい王都から討伐隊が派遣されると、腹いせのように街を破壊しまくって逃走したそうなんですよね。

 ……しかし、闇の嬌声ねぇ……

 その名前を聞いた僕は、思わず苦笑してしましました。

 いえね、闇の嬌声って、コンビニおもてなしとも少なからず因縁があるんですよね。
 この、王都全土の闇世界を支配していた組織ですけど……

 辺境都市ナカンコンベでことあるごとにコンビニおもてなしと衝突していたポルテントチーネをはじめ、4号店のツメバが騙されて借金を背負わされた闇の嬌声の下部組織、闇の嬌声の足の爪の女首領のジルル。
 現在ブリリアンと一緒にコンビニおもてなしの店舗検討部門で働いているメイデンなんかも、元は闇の嬌声の死人使いだったわけです、はい。

 ……そういえば、ポルテントチーネの裁判が行われる際には僕も証人として証言をしに行くことになっているんですけど、未だに声がかかっていないところを見ると、その取り調べに相当時間がかかっているのかもしれませんね。

「もしよかったらなのですですけど、この辺境都市ウリナコンベの復興にぜひぜひお力を貸してほしいのですです」
 エレエはそう言うと、何度も何度も頭を下げてから今日のところは帰っていった次第です。

◇◇

 そんな2つの申し出を受けた僕は、早速コンビニおもてなし店舗検討部門のブリリアンとメイデンの2人に来てもらいました。

「……というわけで、2箇所から同時に出店依頼が届いたわけなんだけど、2人はどう思う?」
 僕がそう尋ねると、ブリリアンは腕組みをして考え込んでいきました。
「……難しいところですね……商業都市ホープへの出店は、コンビニおもてなしとしても願ったりかなったりといいますか、非常に大きなチャンスといえるお話だと思います。ですが、この世界でも屈指の商店や商会が集結していると噂では聞いておりますので、相当苦労することになることも予想されます。
 もう一方の辺境都市ウリナコンベですが……こちらは別な意味で苦労しそうですね」
「と、言うと?」
「はい、こちらの都市は、タクラ店長もご存じかと思いますが、闇の嬌声がかつて根城としていた都市です。そのため周辺都市の商売人達からはいまだにいい印象を持っていない人も少なくないと聞いています。それに、闇の嬌声が逃走する際に、これでもかってくらい派手に破壊されたとも聞いておりますので、果たしてどこまで復興しているのやら……」

 メイデンから手渡されている資料に目を通しながらあれこれ説明をしてくれているブリリアン。
 その話を聞きながら僕も腕組みをしたまま考え込んでいました。

 とりあえず、どちらに出店するにしても王都近辺には初出店になるコンビニおもてなしなわけです。
 それだけに、まずはどちらかの都市に店舗を構えて、そこでしっかり営業基盤を固めてから次の出店を検討すべきかな、と、まぁ、そう考えるのがやはり妥当かなと思っている次第です。

「……どちらの話も、メリットもあればデメリットもありますので、最終決断は店長次第かと」

 最終的に、ブリリアンはそう僕に告げた次第です、はい。

◇◇

 その日の夜。

 みんなとのお風呂をすませた僕は、自室で机に向かっていました。
 そこには王都周辺の地図を広げているのですが……商業都市ホープの方が王都には圧倒的に近いです。
 その商業都市ホープには僕達が運行している定期魔道船とは別の定期魔道船が就航しているそうでして、王都へ駅馬車が直通もしているそうです。
 そういう利便性も考えると、圧倒的にこの商業都市ホープの方がいいお話に思えるわけです、はい。

 ですが……

 もう一方の、この辺境都市ウリナコンベの方も、どうにも色々思うところがあるといいますか……

 現在、復興の途上にある都市なわけです。
 そこに赴任することが決まったエレエが、コンビニおもてなしの出店をわざわざお願いに来たってことは、今現在のウリナコンベの復興が思うように進んでいないのかもしれません。
 そのため、復興の起爆剤としてコンビニおもてなしを誘致したいと思ってくれたのかも……

 無理をすれば一度に2店舗出すことも不可能ではありません。
 実際、辺境都市ナカンコンベで営業しています5号店東店と西店の売り上げが好調に推移していますし、他の店舗の売り上げも安定して増収増益を続けていますからね。
 営業基盤がしっかりしている今だからこそ、思い切った新規出店を行う、その好機と言えなくもないわけです。

 ……ただ

 そうやってどんどん新規出店を重ねていって、最終的にじり貧になってしまったのが、僕が元いた世界で営業していたコンビニおもてなしだったわけですからね。
 その最晩年の苦渋を知っている僕だけに、その二の轍は踏みたくないといいますか……どうしても大胆にはなりきれないんですよね……

「さてさて、どうしたもんか……」

 僕が腕組みをしながら考え込んでいると、そんな僕の横にスアがひょっこりと姿を現しました。

「……お店のこと?」
「うん、そうなんだ……新規出店の話が同時に2つ舞い込んできてね……どっちの話を受けるべきか、はたまた自重して辞めるべきか、それとも思い切って二店舗出店しちゃうか……と、色々考え込んじゃっててさ……」

 僕がそう言って苦笑すると、スアは僕の腕に抱きついてきました。

「……一人で悩まなくても、いい。他の店舗のみんなにも聞いてみた、ら?」
「……そうだね。ちょうど明日は店長会議もあるし……」

 スアの言葉で、そのことを思い出した僕。
 なんでしょう、そう考えると急に気持ちが軽くなったような気がしました。

 僕の悪い癖ですね。
 悩むと、なんとかして自分だけで解決しようとしてしまう……確かに、僕が元いた世界で営業していた頃のコンビニおもてなしには、僕以外に決断出来る人がいませんでした。

 ですが

 この世界で営業しているコンビニおもてなしは違います。
 支店が6店舗あり、関連施設もたくさんあります。
 それぞれの場所に、頼れる責任者のみんながいるわけですからね。

「ありがとうスア。早速明日、みんなの意見を聞いてみることにするよ」
 僕が笑顔を浮かべると、スアもにっこり微笑んでくれまして……

 って、

 あれ?……スアさん、どうしたのかな、魔法を使って僕をグイグイと自分の研究室の方に引っ張って……

「……もう少しすっきりしないと、ね」
「あの、スアさん……すっきりって、その……」
「……お嫌です、か?」
「い、いや……そんなわけじゃ……」

 と、まぁ、そんな感じで、僕とスアはいつものようにスアの研究室の中にある簡易ベッドで夫婦の営みを……おっと、ここからは黙秘させていただきますね。

◇◇

 そんなわけで、コンビニおもてなしの新規出店に関して、週に一度の責任者会議で、みんなの意見を聞いてみることにしたわけなんですけど……はてさて、どうなりますやら……

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