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バレンタインデー序曲 その2

 現在、バレンタインデーに向けての準備を進めているコンビニおもてなし。

 すでにチョコレートケーキの試作品などはばっちり出来上がっておりまして、商品の方の準備は万全です。
 あとは、これを告知して予約を開始するだけなのですが……

「……さて、今回のポスターはどうしたものか……」
 僕は腕組みしながら首をひねっていました。

 こちらの世界で、コンビニおもてなしがはじめたバレンタインデーなのですが、愛の告白的な側面よりもどちらかというと家族に愛情を伝える日として広まりつつある感じなんですよね。

 で

 それを表現するために、仲良し家族でチョコレートケーキを食べている……そんな構図のポスターを準備したいと思っているのですが……

 恋人同士ってことなら、最近仲良しなファニーとヴィヴィランテスとかクローコさんとブロンディさんって選択肢もあるんですけど……
 まぁ、ファニーとヴィヴィランテスなら、おそらくヴィヴィランテスが
『まったくもう、しょうがないわけねぇ』
 とか言いながら承諾してくれそうな気がするんですけど、クローコさんとブロンディさんだとクローコさんが
『無理無理無理無理無理無理無理ぃ』
 とか言いながら両手でバッテンマークを作る姿が容易に想像出来ますからねぇ……

 と、まぁ、そんなわけで……今年もファミリー路線のポスターで行くことにした僕は、デジカメ片手に辺境都市ナカンコンベへと移動していきました。

 向かったのは、シャルンエッセンスが店長を務めていますコンビニおもてなし5号店東店の奥にありますおもてなし商会ナカンコンベ店です。

「バレンタインデーのポスター……ですか?」
「そうなんですよ。ファラさんとピラミやフク集落のみんなで仲良くチョコレートケーキを囲んでいる感じでポスターにさせてもらえないかなと思っているんですけど……どうですか?」
 僕がそう言うと、ファラさんは少し顔を曇らせまして、
「……そうねぇ……せっかくだけど、ちょっと気乗りがしない……」
 って言い始めたのですが、ここで運搬作業を行っていたおもてなし商会の店員のピラミがですね、
「わ! ポスターコン!? ファラ様と一緒に写れるならすごく嬉しいコン! みんなもすごく喜ぶコン!」 
 って、笑顔を浮かべながら僕とファラさんの元へ駆けて来たんです。

 すると……

「……わけないでしょう! えぇ、受けますとも! 絶対に受けますからね! さぁ、どっからでも写すがいいわ!」
 って、ファラさん……さっきまでの気乗りしない様子から一変して、いきなり超乗り気な声で僕ににじり寄ってきた次第でして……

 やっぱり、なんのかんの言ってもピラミやフク集落の子供達のことを大事に思っているんですよね、ファラさんってば。

◇◇

 そんなわけで……

 今回のポスターは、チョコレートケーキを、ファラさんとピラミ達フク集落の子ども達が囲んでいる構図で撮影することになりました。

 数日後、フク集落へ出向いて撮影をさせてもらったんですけど……

 あ、ファラさんってば、今はここに引っ越しているんですよね。
「まぁ……ピラミ達がどうしてもっていうし、し、仕方なくよ、仕方なく!」
 って言いながらそっぽを向いたファラさんなのですが……

 いざ、撮影となりますと、

「ファラ様と一緒だぁ!」
「わーい、嬉しい!」
 
 って、子供達が満面の笑みを浮かべながらファラさんを取り囲んでいくんですけど、ファラさんってば、
「も、もう……しょうがない子ども達ねぇ」
 ファラさん、そう言いながらも、

 頬は真っ赤
 顔はデレデレ

 ドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコ達に見せる鬼の形相からは想像出来ないようなすごく素敵な笑顔を浮かべていたんです。

 そんなわけで、ファラさんの見たことのない激レアショットが、コンビニおもてなしバレンタインデーフェアのポスターを飾ることになりました。

 ちなみに、撮影に使用したチョコレートケーキは、ファラさんとピラミ達フク集落の子供達がみんなで美味しく頂いたのは言うまでもありません。

◇◇

 そんなわけで……

 いつものように、デジカメで撮影した画像をパソコンで加工した僕は、それをプリントアウトしました。
 で、それを魔女魔法出版のダンダリンダにお願いして百枚印刷してもらった次第です。

 デジカメやパソコン、プリンターが使用出来るのも、コンビニおもてなし本店の屋上に太陽光自家発電設備を導入していたおかげなんですよね。
 相当無理して導入したこの設備なんですけど……まさかここまで重宝することになろうとは夢にも思っていませんでした。

 今回も、30分もかからないうちに印刷を終えてポスターを納品してくれたダンダリンダ。

 僕は、受け取ったポスターを早速、コンビニおもてなしの関連店舗ならびに各地の商店街組合や、ルア工房・ドンタコスゥコ商会などの協力関係にあるお店なんかに配布していきました。

 で……

 そのポスターを見つめながらドンタコスゥコがですね……
「……あのですねぇ……こ、このポスターの真ん中で笑っている女性なんですがねぇ……き、気のせいでしょうかねぇ……すっごくファラさんに似ている気がしないでもないといいますかねぇ……いや、あの鬼のファラさんがこんなデレデレした笑顔を浮かべるはずが……」
 と、まぁ、そんな感じで困惑しきりだったといいますか、いつもの仕事時のファラさんを知っている人達はみんな目を丸くしながら、ドンタコスゥコと同じ反応をしていた次第でして……

 みなさんがこんな反応をしているわけです……ひょっとしたらファラさんも困惑するんじゃ……と、思いながらも、ファラさんから頼まれていたフク集落用のポスターをお届けにあがったところ……

「……ちょっと、これ……アタシこんなに情けない顔をしていたの? ちょっとこれは心外だわ。即刻すべてのポスターを焼却処分して……」
 ファラさんってば、そのポスターを見るなり眉間にシワをよせながらそんなことを言い出したのですが……

「わぁ! ポスター出来たの!」
「きゃあ! ファラ様素敵な笑顔です!」
「ファラ様かわいい!」

 駆け寄って来たフク集落の子供達が満面の笑みを浮かべながら、嬉しそうな声をあげるとですね、

「……なんてことを言うわけないじゃない! さすがはタクラ店長ね、最高のポスターよ!」
 って、先ほどまでの表情とは一変して、その顔に満面の笑みを浮かべながら、右手の親指をグッと突き立てたファラさん。

 このフク集落は、様々な事情で親がいない子供達が寄り添いながら細々とくらしていた集落です。
 ファラさんは、そんな子供達の親代わりとしてこの集落で生活しているんですよね。

 その子供達の笑顔には、泣く子も黙る龍人のファラさんも形無しといったところでした。

◇◇

 そんなわけで、今朝からコンビニおもてなし本支店並びに出張所でバレンタインデーの予約がはじまりました。

 今年はチョコレートケーキを筆頭に

 一口サイズのチョコ詰め合わせ
 板チョコ
 チョコ大福詰め合わせ

 などの商品を予約販売する予定にしていまして、予約票をそれに沿って作成しているのですが

「あ、バレンタインデーの予約がはじまってる!」
「早速申し込みを!」

 と、ポスターと予約票に気がついたお客さん達が一斉に予約をしてくださいまして……かなり好調な滑り出しな感じです、はい。

 年末を産休育休で休んでいたヤルメキスが
「さぁ、休んでいた分を取り戻すためにも、気合いをいれるでごじゃりまする」
 数量限定で事前販売しているチョコレートケーキの製作に気合いをいれている次第です。

 ちなみに……ポスターを気に入ったファラさんは、おもてなし商会の事務所の中にあります自分の机の前にポスターを貼っていました。
 ピラミによりますと、
「ファラ様、あのポスターを見つめながら嬉しそうですコン」
 とのことでして……

 うん、なんかいい選択をしたなって、我ながら思った次第です、はい。

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