ララコンベ温泉祭り その3
いよいよ開催が迫ってきたララコンベ温泉祭りですが、それに参加するコンビニおもてなし4号店は店長のクローコさんが若干落ち込み気味な点以外は特に問題なく準備が進んでいます。
……う~ん
その落ち込み気味なクローコさんですけど……いい人がいれば確かに紹介してあげたいのは山々なんですけどねぇ……
それに、コンビニおもてなしの中では、同族にあたるファニーさんに、ハニワ馬のヴィヴィランテスっていう彼氏というか同棲相手が出来たことで結構焦った感じになっちゃってるおもてなし商会ナカンコンベ店のファラさんって存在もあるわけですので……色々頭が痛いといいますか、こういうのってお互いの気持ちとかも大事になってきますので、簡単にはちょっと……ねぇ……
まぁ、その件に関してはあえておいておくとして……
そんなファラさんですが、最近はよくチウヤゲレンデに出向いているみたいです。
と、いうのも、
「アタシが面倒みてるフク集落の子供達がさ、あそこでの雪遊びというかソリ遊びをすっごく気に入っててねぇ……連れてけ、連れてけってうるさいのよ」
と、若干迷惑そうな口調で言ってるファラさん。
……ですが
その口調とは裏腹に、その話題を口にしている際のファラさんの顔にはすっごくいい笑顔が浮かんでいます。
なんのかんのいいながら、子供達が喜ぶのが嬉しくて仕方ないんでしょうね、ファラさんってば。
おもてなし商会ナカンコンベ店を訪れていた僕が、ファラさんとそんな話をしていると……そのファラさんが僕の元から離れていったのを見計らって、ピラミがトトトと駆け寄って来ました。
狐人のピラミは、フク集落のリーダー的存在の女の子で、今はファラさんの元で働いているんです。
で、そのピラミがですね、僕にしゃがむように急かしてきたものですから半身になったところ、耳元に口を寄せて来ました。
「あのですコン、ファラ様は私達を遊ばせてくださるのと同じくらい、ゲレンデ温泉宿のクマタンゴさんに会えるのを楽しみにしてるコン」
両手で言葉が漏れないようにしながら、僕にそう語りかけてきたピラミ。
……え?
っていうか……え?
クマタンゴさんって、あの宿にいるクリッタちゃんのお爺ちゃんだよね?
ファラさんとじゃ、年齢差が……って思った僕だったのですが……よく考えたらファラさんって百年以上生きてる龍人さんなので、年齢的に言えばクマタンゴさんよりも年上なんでしたね。
クマタンゴさんって、孫のクリッタちゃんを溺愛している上に、今年から一緒に暮らし始めた娘のクマンコさんとその子供達のことも溺愛してやまない様子なのを、宿の様子を見に行く度に拝見していたんですけど……そういった意味で言うと、2人とも「子供好き」っていう共通点が確かにありますね。
それに、クマタンゴさんは奥さんを亡くしてかなりになるそうですし……
僕の横で、ピラミは
「……私やみんなも、あのおじいさんならファラ様にお似合いだなって思っているコン。だからゲレンデに連れてってほしいって言ってるコン」
そう言って、嬉しそうに笑っていました。
なんと言いますか……ピラミ達にも公認なんだったら、まぁ何の問題も無いといいますか……温かく見守ってあげることにしたいと思います。
……となると……あとはクローコさんかぁ……
◇◇
そんな中、コンビニおもてなしでは新たな問題が発生していました。
イエロが率いている狩猟部門なのですが……
狩猟部門のみんなは、
・ガタコンベが所属しているブラコンベ辺境都市連合加盟都市周辺のタテガミライオンを中心にした魔獣討伐
・辺境都市ナカンコンベの周辺のデラマウントボアなどの魔獣討伐
・チウヤゲレンデ周辺のデラマウントパオン討伐
・ガウリーナ集落周辺の漆黒狼などの魔獣討伐
と、まぁ、これだけの地域を手分けして狩りして回ってくれているんですけど
「主殿……もう少し人手があると助かるでござる」
イエロが苦笑しながらそう申し出てきた次第なんですよ。
さもありなんといいますか……
この狩猟部門の人員って、
コンビニおもてなし本店のイエロとセーテンに加えて、助っ人的に参加してくれているルアとオデン6世さん。
これに、5号店のグリアーナとおもてなし出張所テトテ集落店のミミィを加えた6名に、先日研修の末に新規契約した 鳥人族のコルミナ・豹人族のチハヤス・ゴーレム族のドナーラの新人3名を加えた合計9名体制なんです。
単純計算で、9名で4箇所を常時回ろうとすると、1箇所に2名しか人員を割けないわけです。
「戦力的にはそれでも問題ないキ」
「ただなぁ、1箇所3名体制で回れると楽なんだよね」
と、セーテンとルアも言っていまして……
今後、狩猟して回る場所が増えるかもだし、確かに人員を増員しておいた方がいいかもな、と思うのですが……
昨年の秋頃に行った新人研修の際も、10名以上が参加して、残ったのが3名だったわけですし……果たしていI人材がうまく集まるかなぁ、という懸念はあるわけです。
これが、王都やその近隣の都市であればそれなりに質の高い冒険者が集まってくると思うんですけど、辺境都市ガタコンベは王都から相当はなれたド田舎にありますからね……なかなか優秀な人材が集まらないといいますか……
そんな感じで頭を悩ましつつも、各地の冒険者組合と商店街組合に求人募集を出した次第だったのですが……
そんなある日、ゴルアとメルアが僕の元を尋ねてきました。
ゴルアとメルアは、ガタコンベの近くに本拠地を構えている辺境駐屯地の隊長と副隊長です。
「店長殿、今日はララコンベ温泉祭りの警備のことでちょっと相談に参った次第なのですが……」
ゴルアはそう言って話を切り出したのですが……
なんでも、最近辺境駐屯地に新たに人員が配属されたそうでして、この人達をララコンベ温泉祭りの警護任務にあてようと考えていたそうなのですが、
「……この者達、腕はそれなりなのです……そのせいで『警護のような軽微な任務ではなく、もっとやり甲斐のある任務につかせてほしい』と、盛んに言ってきておりまして……」
「辺境なら、魔獣討伐の任務を好きなだけやれると思っていたらしく……」
とまぁ、ゴルアもメルアもそんな事を口にしながら首をひねっていた次第なんですよね。
さもありなんといいますか……
辺境駐屯地っていうのは、辺境都市が王都に税金を納める代わりに辺境都市の平和が保たれるように、
害獣認定されている魔獣の討伐
山賊などの討伐
などを行うために設置されているわけなんです。
……ですが
このガタコンベの周辺、ゴルア達が担当している区域って、イエロ達が狩りをしている地区と完全に被っていまして……まぁ、ぶっちゃけてしまうと、その地区の害獣や山賊達は、イエロ達が全部狩ってくれているわけです、はい。
そんなわけで、ゴルア達の主な任務って、今回のように都市で祭りが開催される際に警護を行うことや、街道周辺を警らして回ることに限定されちゃってるんですよね。
「……確かに、普通の辺境駐屯地と思って来たら、そりゃ肩すかしになるよねぇ」
ゴルア達の言葉を聞いた僕も、思わず苦笑してしまったんですけど……
ここで、僕はあることを思いつきました。
「ゴルア、どうだろう。その新人さん達をイエロの元で狩りに参加させるっていうのは?」
「狩りに、ですか?」
「うん。ちょうど今、うちの狩猟部門が人手不足でね。そんなに狩りをしたいんだったら研修生扱いってことで加わってもらえたら、コンビニおもてなしとしても助かるんだけど」
「ふむ……確かにそれは、こちらとしてもありがたいのですが……ですが……」
「ん?……何か問題があるのかい?」
「いえ……と、いいますか……イエロお姉様と一緒に狩りを出来るとなりますと、私も参加したいといいますか……」
ゴルアは、そう言って頬を赤くしていました。
……そうなんですよねぇ
以前、イエロの元で剣の修行をしたことがあるゴルアなんですけど……その際にイエロにすっかり惚れ込んでしまったといいますか、あれ以降、イエロのことをお姉様と慕い続けているんですよねぇ。
「まぁ、気持ちはわからないでもないけどさ、ここは隊長として……」
「うむむ……」
僕の言葉に、ゴルアだけでなくメルアまで腕組みして考え込んでしまいまして……
最終的に、この件を2人が了承してくれるまでに、みっちり1時間近くかかった次第です、はい。