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122章 男の子に抱き着かれる

 ハルキが子供を連れて、家に戻ってきた。

「ただいま・・・・・・」

 ハルキの子供は一人が男、一人は女の子だった。性別のバランスはよかった。

 ミライの母親が3人を出迎える。

「ハルキ、ユウ、ヒカリ、おかえりなさい」

 子供の年齢は5~6歳といったところ。ハルキは18歳なので、12~13歳くらいで出産したことになる。出産年齢については、ココアと同水準にあたる。

 旦那が地雷で死んだのは、5年前といっていた。ハルキは子育て、出産で忙しいため、仕事をするのは難しい。旦那はそのことを見越して、地雷処理に挑戦したと推測される。

 家族を助けるためとはいっても、地雷処理の仕事をするのは珍しい。人間は自分の命を犠牲にして、他者を守ろうとはしない。顔を合わせたことはないものの、家族のことを最優先にする男性なのかなと思った。

 優しい心を持っている男性には、生き続けてほしかった。家族全員が集合していたら、最高の家庭になっていたに違いない。

 旦那が死亡したとき、ハルキは13歳くらいだった。おかあさんになったとはいっても、心は成熟しきっていない。最愛の人の死と、どのように向き合ったのかな。

 二人の子供たちは、父親のことを知らない。父親と顔を合わせない生活に、不満を感じていないのだろうか。

「おばあちゃん、フリースクールは楽しかったよ」

「よかったね」

 子供たちにとって、ミライの母親はおばあちゃんにあたる。こちらは50くらいであるため、違和感はあまりないかな。日本と比べても、少し早いくらいのレベルだ。

 2代連続で、12~13歳で子供を出産した場合、25歳くらいでおばあちゃんになる。25歳でおばあちゃんというのは、若すぎるような気がする。

 理論上ではあるものの、アカネは18歳でおばあちゃんになれる。ひいおばあちゃんにも、ひい
ひいおばあちゃんにもなることができる。年を取らない人間の、特権事項といえる。

 子供たちの視線は、こちらに向けられることとなった。

「アカネおねえちゃんだ・・・・・・」

 男の子が身体を寄せてくる。突然のことだったので、放心状態になってしまった。

「ユ・・・・・・」

 ハルキが注意をしているものの、アカネの耳に届くことはなかった。男の子に抱き着かれたことによる、衝撃はあまりにも大きかったのである。地雷処理をしているときであっても、ダメー
ジはここまで大きくなかった。女性にとってのセクハラは、心を殺されたに等しい。

 数秒後、子供であることを思い出す。そのこともあって、心の傷は緩和されていくこととなった。

 心が現実世界に戻ったとき、必死に謝罪している、母親の姿を捉えた。

「アカネさん、本当にごめんなさい」

 頭の中で言葉を整理してから、口を開くことにした。咄嗟に話をしようとすると、よからぬことをいってしまいそうだった。

「子供のしたことだから、気にしなくてもいいよ・・・・・・」

 うまくごまかそうとしたものの、ハルキは感情を読み取っていた。

「そんなふうには見えませんでした。以後はしないように、いいきかせておきます」

 ハルキは頭を何度も下げていた。営業先で取引の失敗を謝っている、営業マンさながらに感じられた。

「子供のしたことは、親の責任でもあります。アカネさん、本当にすみませんでした」

 ミライの母親も頭を下げる。

「子供たちが失礼なことをしました。今後はしないように、厳しく教育します」

 身体を寄せてきた当人は、ことの重大さを分かっていなかった。子供ゆえにやっていいこと、やってはいけないこと、の区別がつけられないのかもしれない。大人の階段を上るにつれて、大切なことが分かっていくといいな。

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