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地下迷宮の狼さん その3

 その後

「ステルアム様ですよねガウ!?」
「……違います」
 のやり取りを散々繰り返したガウリーナさんとスアなんですが……そのやりとりがあまりにもエンドレスだったもんですから、

「……で、そのガウリーナさんはここで何をなさっておられたんです?」
 横から質問をしてみました。

 すると、ガウリーナさんは僕の方へ視線を向けました。
「あ、はいガウ。ボクはここで門の遺跡の番人をしながら森の亜人さん達を保護してるガウ」
「亜人さんを?」
「そうガウ」
 そう言うと、ガウリーナさんは僕達を空洞の奥へと案内してくれました。

 ガウリーナさんが向かって行った先、僕達が降りてきた穴のちょうど反対側にもう一つ穴がありました。
 で、その穴を少し進んでいきますと、そこは崖の中腹になっていました。

 どうやら、洞窟の入り口があった小高い丘の裏側が切り立った崖になっていたようですね。

 穴の出口の部分は結構広めな台地になっていまして、そこに集落が出来上がっていました。

「ここはガウリーナ村って、住人のみんなが言ってるガウ」
 ガウリーナはそう言いながら集落の中へ歩いていきます。

 すると、

「あ、ガウリーナ様!」
「ガウリーナ様!」
 周囲の家々から、そんな声が一斉に聞こえてきまして、同時に家からたくさんの亜人の人々が駆け出してきまして、あっという間に、ガウリーナさんの周囲は集落の人々でいっぱいになってきました。

「この亜人の人達は、元はみんなこの洞窟近くの森で暮らしてたガウ。それが増加した魔獣達に済む場所を侵害されてしまったガルよ」
 ガウリーナさんがそう言うと、集落の皆さんは、
「ガウリーナ様が、魔獣達をせき止めてくださっているおかげで、私達はここで安全に暮らせております」
「ガウリーナ様がいらっしゃらなかったら、私達は魔獣達の餌になっていたでしょう」
 ガウリーナさんに何度もお礼を言いながら、何度も頭をさげています。

 そんな皆さんに、ガウリーナさんは、
「ボクにもっと力があれば魔獣達を退治出来るガウけど……思念体のボクには、魔獣を地下4階に降りてこないようにせき止めることくらいしか……」

◇◇

 その後、ガウリーナさんに色々お話を聞いたのですが……

 この森、ガウリーナの森と言うそうなのですが、ここは元々地下にあるあの門を中心にして栄えていた亜人の街があったそうなんです。

 それから数百年……ガウリーナさんが思念体になり、その状態でこの一帯を守護していたそうなのですが、豊かな森の恵みに目をつけた魔獣の群れが移り住み始めたんだとか……

「最初は、思念体のボクや、街のみんなでも十分追い払えていたガウ……それが、どんどん数が増してきた
ガウ……そのせいで、徐々に追い込まれていって、今ではここで細々と暮らすのがやっとの状態ガウ……ボクにもっと力が残っていれば……」
 そう言って、両手を見つめるガウリーナさん。

 すると

「何をおっしゃいますかガウリーナ様」
「ガウリーナ様が門のところで魔獣を食い止めてくださっているからこそ、私達はここで平和に暮らせているのではありませんか」
 集落のみんなが、一斉にガウリーナに感謝の言葉を述べはじめました。

 ここで、ガウリーナさんは、

「……あれ?」
 首をかしげながら僕達の方へ視線を向けました。

「……そう言えば……皆さんは、どうやって地下四階まで降りて来られたガウ? 上の洞窟にはすごい数の漆黒狼達が住み着いててとてもじゃないけど通過は出来ないはずガウけど……」
 そう言って、首をかしげるガウリーナさん。

 そんなガウリーナさんに、僕は、

「え~……なんといいますか、その洞窟を通過して降りてきたと言いますか……」
「な、なんとガウ!?」
「途中にいた魔獣達も軒並み駆逐してきたといいますか……」
「は、はいぃガウぅ!?」
 僕の言葉に、ガウリーナさんだけでなく、その周囲に集まっていた集落の皆さんまで一斉にその目を丸くなさっていました。

 で

 そんなみんなの視線の先……僕の後方では、イエロ・ルア・セーテンの3人が、胸を張って立っていました。

◇◇

 その後。
 
 僕達はガウリーナさんや集落のみなさんと一緒に洞窟の中を回っていきました。

 先ほど、イエロ達がこれでもかってくらい執拗に魔獣を掃討した後ですからね、残っている魔獣は皆無でした。

「……す、すごいガウ……あれだけの魔獣を……」
 洞窟の内部をすべて確認し、その入り口へと出たガウリーナさんは、信じられないといった表情をその顔に浮かべていました。

 それは集落の皆さんも一緒でして、
「ほ、ホントに居なくなってる……あの魔獣達が……」
「嘘だろ……数百匹はいたんだぞ……」
 そんな感じで、ひそひそ話をしています。

 そんな中、僕の後方に隠れているスアがですね、
「……この森の中にも行けた方がいいんじゃない、の?」
 そう、ガウリーナさんに尋ねました。
「は、はいガウ……出来れば、この周囲一帯を安全に行き来出来るようになれば……森の恵みを収穫出来たり、畑を作れたりしますし、すごく助かるガウ……」
 ガウリーナの言葉に、集落のみんなも大きく頷いています。

 すると、スアは水晶樹の杖を取り出し、それを一振りしました。

 ……それと同時に……森の木々がですね、根っこから抜けて宙に浮いたかと思うと、それが空中でみるみるうちに棒状に加工されていきまして、そのまま森の奥に向かってとんでいきました。
 棒状に加工された木々は、そのまま地面に突き刺さって木の柵になっていきました。

 洞窟の入り口から直径5キロの円状に、その木の柵が出来上がっていった次第です……時間にして、わずか数分の間に……

「……木の抜けた後は、耕作して畑に出来る、わ。あと、防壁魔法もかけておいたから、柵の中に魔獣は入ってこれない、わ」
 スアはそう言って頷きました。
 
 その言葉を前にして、ガウリーナさんはしばらく無言のまま体を震わせていたのですが……

「さ、さすがは勇者マックス様のお仲間の魔法使い様ガウ! すごいガウ!!」
 その顔に満面の笑顔を浮かべながらスアに駆け寄って来ました。

 ですが、そのスアはと言いますと、

「……違う……私、そんな年齢じゃない……」
 その顔を真っ赤にしながら、僕の背に隠れ続けていた次第です。

 と、まぁ、そんなわけで、このガウリーナの森の中に、新しい集落が出来てしまったわけです、はい。

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