バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

バレン広場

鬱蒼と茂る森の中を歩き続けていくと、次第に木の高さが低くなっていき、ギリーやルーチャの見慣れた高さになっていく。そのまま歩いていくと、大きく開けた場所に出た。
 半径10メートルはあるその円状の地にはなぜか植物が見られず、濃褐色の地面が露わになっている。

「ここは?」
「ここが今朝、ワシらの言っていた場所だ」

 辺りを囲うように木が生えており、この世界ではあまり見ることの無い大きな岩がたくさん転がっている。自然にも不自然にも見えるその円の中央部を小さく囲うように岩の柱が並んでいる。

「この広間の中心に怪物をおびき寄せて、一斉に攻撃を仕掛けようという算段だ」
「たしかにこれだけ開けたところなら、見晴らしもいいし多人数で動けそうだな」

 辺りを見渡しているギリーとルーチャを他所に、レストリーが尋ねる。

「ここっていったい何なんだ?ほかの場所と違って木が生えてないし、周りが岩に囲まれてて、明らかに雰囲気が違うな」
「バレン広場と言われててな。ここら一帯はなぜか植物が育たない場所なんだ。実験として、これまで様々な植物を植えてみたが、どれもこの辺りでは育つことがなかった。不思議だろ?」
「へえ、そりゃ気になるな」
「そう、気になってここでいろいろと実験しようとしてたやつは何人もいた。だが、未だになぜここで植物が育たないのかは明らかになってないんだ。異世界から来たという君たちなら何か分かるかもしれないな」
「そうだな。また時間のある時に見てみよう」

レストリーは後でと言いながらも、興味津々で土を手で掬ってにおいを嗅いだり、眺めたりしている。気になって仕方がないのが一目でわかる。

「植物が育たないから実験に使ってたとはいっても、結局は単なる開けた場所だ。あの化け物が現れる前は子供たちの遊び場として使われたり、祭事での会場なんかにも使われたりするんだ」
「へえ!ここでお祭りとかするの?」

 ルーチャがすかさず祭りという言葉に食いつく。彼女にとっては祭りというものが魅力的に聞こえるのだろう。それを見ていてギリーはなんとも言えない気分になる。
ルーチャの気持ちは分からないでもない。小さなころ、ギリーのいた島で行われていた祭りは大好きだった。しかし、真っ先にギリーの頭の中に浮かぶ「祭り」はアルジャフでの建国記念日だ。飲み食いをしていたのはギリーやほかの島民たちを支配していた兵士たちや島を往来する船の乗組員、それと観光客らしき人物たちであって、ギリーを含めた島の者たちではない。労働から解放されるというものであって、あればうれしいが、ルーチャ程に目を輝かせて喜ぶほどのものではなくなっていった。祭り。何をするんだっけ。
嫌な記憶に子供心からくる祭りへの楽しみが上塗りされているということを思うと、少し悲しくなる。
 そんな複雑な思いを浮かべるギリーなど知るよしのないエリゼオが笑いながらルーチャに答える。

「ああ!祭りじゃみんなで踊ったり、屋台を出したりするな。ご馳走も出るから、みんな楽しみにしてたんだが…」
「ご馳走?!」
「そうだ。祭りのときにしか出ない料理がたくさん出るぞ」
「いいね!ねえ、怪物を倒せたら、祭りとかって…」
「勿論やるさ。君らもぜひ見ていってほしいもんだな」

 そのことばを聞いてルーチャは上機嫌だ。いったいどんな料理が出てくるのか。ギリーも気になる。早くここでの問題を解決して、そんな料理にありついてみたいものだ。

「しかし、攻撃を仕掛けるってのは実際どうするんだ?弓撃部隊と近接部隊に分かれるのは聞いたが、俺とルーチャはあの木の上から狙えばいいのか?」
「ああ、そうだな。出来るのであればそうしてもらいたい。出来なければ後方で待機していてくれ。近接部隊の負傷者を助ける立ち回りを取ってもらう」
「ルーチャ、弓使えるのか?」
「ううん。でもボクはほかの武器を使うから大丈夫かな。レストリーは?」
「狙撃銃とかいうやつか。弓はまったく使ったことがないな」

レストリーは残念そうに首を振る。レストリーのいた世界では武器は見なかった。トルスパイツに着くまではレストリーの祖父たちが護身のためと武器を所持していたらしいが、あの場所を見つけてからはそう言ったものを捨てたらしい。
トルスパイツは閉鎖された土地であったために、パニックが起こることを恐れたようだ。幸いあの場に住んでいた人々が精神に異常をきたすようなことは起こらなかった。その代わり、理不尽な悪意がレストリーに降りかかることになったが…

「練習すれば出来るかもしれないが…」
「支援に徹してもらった方が得策だろうな。確かにこいつのセンスならすぐに身に付くかもしれんが、近接部隊との連携もあるから下手な真似が出来ん。失敗=死につながる以上は…」
「そうだな。ただ、支援に徹するとはいっても何か出来ることってあるのか?」

 なにか遠距離からそれなりの攻撃をすればいいのだろうか。枝とか石でも投げてみるか?
 そんなことを考えているレストリーにエリゼオが答える。

「しっかり怪物との接近戦をする奴らを見といてくれれば十分だな。特にこの少年はエフィーニの技術が卓越してる。人を担いだ後にそれで逃げてくれれば十分仕事になる」
「人を担いで?人を担ぐのって結構きついぞ。その上にエフィーニで逃げるなんて…」
「ははは。それに関しては問題ない。こういうものを知ってるか?」

 エリゼオが笑いながら、懐から小さな布袋を取り出した。
 袋の口を開けると、中には真っ赤な木の実がぎっしりと詰まっていた。

「なんだこれ…」

 それを見た三人は首をかしげたのだった。

しおり