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地下迷宮の狼さん その1

 週末の休日。
 コンビニおもてなし本店もお休みの今日、僕はスアの魔法の絨毯に乗って上空を移動していました。

 ヒローカ詣で聞いた、漆黒狼がいるっていう地下迷宮へと向かっているんです。

「スア、その地下迷宮っていうのはどれくらい遠いんだい?」
「……そうね……王都をはさんで……向こう側?」
 自分の前に地図を投影したスアは、水晶樹の杖でその一角を指し示しました。

 その地図の真ん中には王都らしい場所がかき込まれていまして、その遙か東に僕達が住んでいる辺境都市ガタコンベがあります。

 王都の西、ちょうどガタコンベ……というよりも、辺境都市ララコンベの位置を王都を中心にして西側へと移動させたあたりの場所をスアは指し示しています。

 そういえば、ララコンベには、かつて魔法界っていう別の世界に通じていた門があったんだっけ。
 で、今回向かう地下迷宮のあたりにも門があったはずだってスアが言っていましたので……ひょっとしたら今から向かう場所って、ララコンベの門と東西で対になっているのかもしれませんね。

 ……しかし

 スアが前方の空間に投影している地図の中には、僕達が乗っている魔法の絨毯らしき光点も表示されているのですが……その光点がすごい速度で西へ向かって移動しているんです。

 定期魔道船でも数十分かかる辺境都市ナカンコンベを、1分かかるかかからないかで通過してしまいましたので相当速いなとは思っていたのですが……

 その光点は、あっというまに地図のど真ん中にある王都らしき場所をかすめていきました。

「パパ! なんだかすごく大きな町が見えました!」
 同時に、パラナミオが歓声をあげました。

 多分、王都でしょう。
 今までは、スアの転移ドアでしか行ったことが無かったもんですから、どんな感じなのか見てみようと思って振り返ったのですが……

「……ん?」
 周辺には森しか見えません。

 改めてよくよく見てみますと、はるか後方に町らしき姿が……
「……パラナミオ、さっき言ってた大きな町って、あれかい?」
「はい、あっという間に過ぎ去ってしまいました」
 僕の言葉に頷くパラナミオ。

 その言葉を聞いた僕は、苦笑することしか出来ませんでした。

 ……この魔法の絨毯ってば、今、いったい時速何キロで飛行してるんでしょうね……音速くらい軽く超えているような気がしてなりません。

 まぁ、そんな高速飛行をしていても、魔法の絨毯の周囲はスアの防壁魔法で覆われていますので風圧とか圧力は一切感じません。
 また、すっごい上空を飛行しているんですけど、寒さもまったく感じていないんですよね。

 ちなみに

 この魔法の絨毯の上には、僕とスア、そして子供達の他に、イエロ・セーテン・ルアの3人が乗っています。

「いやぁ、ルア殿と一緒に狩りというのも久々でござるな」
「ほんとだねぇ、いやぁ腕がなるよ」
「まぁ、イエロやアタシがしっかりサポートするキ、思う存分暴れるキ」
 3人は肩をたたき合いながら笑いあっています。

 そうなんですよね、ルアが本格的に狩りに参加するのって本当に久しぶりなんですよ。
 ルアの工房がナカンコンベに支店を出したり、ルア本人が妊娠出産したりした関係で結構長いこと離れていましたからね。久しぶりに3人揃って狩りに出かけられるってことで嬉しくて仕方ないって感じです。

 ……ただ、ルアの旦那さんのオデン6世さんからは

『くれぐれも妻が無理しないようにしっかり見張っておいてください』
 ってな感じで無言の圧力をすっごくかけられまくった身としては、ルアには今回は慣らし運転くらいにとどめておいてほしいと心から思っているんですけど……あのルアだからなぁ……

 
 とまぁ、そんなことを考えている僕をのせた魔法の絨毯は、すさまじいスピードで移動し続けていました。

◇◇

 目的地についたのは、時間にして30分かかったかかからなかったかってくらいでした。
 えぇ、もう、とにかく速かった。

「ママの魔法の絨毯すごかったです」
「……ありがと、パラナミオ」
 パラナミオの言葉に、スアも笑顔です。

 で

 その魔法の絨毯は、現在森の中に着陸しています。
 そのすぐ前方には丘のような場所が広がっているのですが、その中程に何やら洞窟のようなものが見えます。

「スア、ひょっとしてあの洞窟が……」
 洞窟を指さした僕。
 そんな僕に、スアがコクコクと頷きました。

 と、いうことは……あの洞窟が、例の漆黒狼が巣くっているという地下迷宮の入り口ってことなんでしょう。

 すぐに僕達は、その洞窟目指して歩き始めました。
 スアが、魔法の絨毯をかなり近くに着陸させてくれたので、すぐに到着出来そうです。

「……ほう」
 その途中……何やら言葉を発したイエロ。
 すぐに、腰の刀を手にとりました。

 よく見ると、セーテンも猿人特有の爪を伸ばしながら猿化させた背中の毛を逆立てていますし、ルアも棍棒を構えています。

 スアはというと……僕を含めた子供達に向かって防壁魔法を展開しているではありませんか。

「スア、どうかしたのかい?」
「……うん、来た」
 僕の言葉に、スアは短くそう言いました。

 ガサガサガサガサ……

「……お父様、草むらの中に何かいますわ……」
 その異変に最初に気がついたアルトが、僕に腕にそっと抱きついてきました。
 続いてムツキもその後ろに続きます。

 パラナミオとリョータは、僕の前に立っています。
「パパも、アルト達もそこにいてください……パラナミオがお守りします!」
「パラナミオお姉ちゃん、僕も手伝います」
 2人はそう言いながら、周囲を見回しています。

 で

 リョータの背後にはぴったりとアルカちゃんがくっついています。
「りりりリョータ様……こここ怖いアル……」
「大丈夫だよアルカちゃん、僕の後ろにいてください」
「ははははいですリョータ様」
 そう言うと、アルカちゃんはリョータの背中にさらにくっついていきました。

 と、まぁ、そんな僕達の周囲を覆っている草むらや木の陰から、ゆっくりと狼の群れが現れました。

「うむ……草原狼でござるな」
「これだけの群れがいるとは、いきなり楽しめそうじゃん」
「準備運動には十分キ」
 そんな群れに対して、イエロ・ルア・セーテンの三人が不適な笑みを浮かべながら前に進んでいきます。

 スアも、周囲に気を配りながら、手に水晶樹の杖を持っています。

 ……なんといいますか、いきなりクライマックスになってしまった僕達だったのですが……

◇◇

 で……時間にして……そうですね、2分……は、かかっていないかと思います。


「先手必勝でござる!」
 そう言って突っ込んだイエロを合図に、ルアとセーテンも草原狼に向かって突っ込んでいきました。


 3人対おおよそ30匹


 いくら3人が強いとはいえ、この人数はちょっと厳しいんじゃ……そう思った次の瞬間、

「ちぇすとでござる!」
「おらおらおらぁ!」
「うききー!」
 3人が草原狼の中に突っ込んでいく度に、草原狼が何匹も宙に舞っていきました。

 それはもう、みんな見事な放物線を描きながら……


 一方的でした

 
 30匹近い草原狼を、イエロ達は2分少々で壊滅させてしまったのです。

 開始10秒くらいで、スアも、
「……私は、何もしなくてよさそう」
 と言って、水晶樹の杖を魔法で収納してしまったくらいでした。

「まぁ、草原狼ごときであればこんなものでござる」
 倒した草原狼をまとめながら、イエロは『まだ暴れたりないでござる』とばかりに腕を回しています。

 ……なんといいますか、相変わらず強さが半端ない3人です、はい。

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