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コンビニおもてなしの売れ筋商品といいますか

 夜明け前に起きだした僕。

 子供達を起こさないように気をつけながらベッドを降りると、僕達が暮らしている巨木の家に隣接しているコンビニおもてなし本店へ、裏口から入っていきました。

 厨房へ向かうと、そこではすでに

 魔王ビナスさんが巨大な中華鍋をふるい
 ヤルメキスとケロリンがスイーツを作成

 と、早くもみんながフル稼働していた次第です。

「おはようみんな、今日も早くからご苦労さま」
 僕の声に、みんなは

「おはようございます店長さん。これもお仕事ですもの、お気になさらずに」
「おおおおはようでごじゃりまする店長様。ききき今日も頑張るでごじゃりまするぅ」
「おおおおはようございます店長様ぁ、わわわ私もヤルメキスちゃんと一緒に頑張りますわぁ」
 
 笑顔でそう言ってくれた次第です。

 ちなみに、魔王ビナスさんが先ほどからふるっている中華鍋ですが、僕がデザインしたものをルア工房のルアが以前作成してくれた特注品でして、とにかくでかくて重いんです……が、魔王ビナスさんってば、スアより少ししか大きくないというのに、その巨大な中華鍋を片手で軽々と振り回しているんです。

 なんと言いますか……そこはさすが、元とはいえ別の世界の魔王様ですね、と、思わず感心してしまう僕だったりします。

◇◇

 そんなこんなで、コンビニおもてなしの営業が開始になりました。

 今日も朝から多くのお客さんが来店くださっています。
 お正月休み……といっても週末の休日と年始の祝日の2日しかお休みしていないんですけど、それでも2日休むと、なんだかすごく長く休んだ感じがしてしまいます。

 僕が元いた世界では、

 コンビニ=24時間365日営業

 っていう固定観念があったといいますか、同業大手他社が軒並みそうしていましたからね、同業弱小のコンビニおもてなしが悠長に休んでいるわけにはいかなかったといいますか……それでも最後の頃は夜間の営業を取りやめざるをえなかったんですが……

 以外に、この深夜帯の営業って曲者なんですよね。

 立地などにもよりますけど、深夜帯ってあまりお客さんがこないんです。
 これがもっと都会なら多少事情が違ったかもしれないんですけど、コンビニおもてなし本店があったあたりって日本の中国地方のすっごい片田舎だったもんですから……

 実際、夜間営業をやめたら光熱水費や人件費が浮いて、むしろ収益が改善したくらいでしたからね。
 あ、これはあくまでもコンビニおもてなしの場合ですからね。

 まぁ、こちらの世界に転移してきてびっくりしたのは、日が暮れると酒場以外に開いている店がほとんどないってことですね。
 辺境都市ナカンコンベくらいの巨大都市になると、風俗街なんかもあって夜でも一部すごく賑やかなんですけど、辺境の中規模と小規模の間くらいの規模でしかないここガタコンベには風俗街なんてありませんからね。
 近くの辺境都市ブラコンベにはそういった店もありますけど、ナカンコンベの規模に比べれば雲泥といいますか……

 まぁ、この世界の一般的なお店の営業形態がそんな感じですので、コンビニおもてなしもそれにならっている次第です。

 それに、この営業形態で十分収益が上がっていますので、これからもこのペースで営業をしていこうと思っている次第です、はい。

◇◇

 新年の営業を再開したコンビニおもてなしの各支店ならびに出張所は、営業再開初日からどこも大入り満員状態でした。

 支店の店長が転移ドアをくぐって本店に駆け込んできては、

「タクラお兄様、弁当の追加を至急お願いいたしますわ! このペースだとあと1時間ももちませんことよ」

「店長ちゃん、4号店もマジやばい、みたいな? 弁当とパン、それにサンドイッチをプリーズだし!」

「クローコさん、パンはウチの所轄ですわ。戻り次第テンテンコウ♂に伝えますわよ」

「きゃは! シャルルン、ありがと~!」

「しゃ、シャルルンって!? 私はシャルンエッセンスですわ!」

「あ~、もめてる間を申し訳ございません~、6号店も弁当の追加をお願いいたします~、あとシャルンエッセンスさん、パンとサンドイッチの追加もお願いいたします」

「了解ですわチュパチャップさん、すぐに戻りまして追加を依頼いたしますわ」

「シャルルン、こっちもよろしく!きゃは」

「ですから、シャルルンではないと!」

 ……とまぁ、そんな感じで、賑やかなことこの上ない感じで弁当やパン、サンドイッチの追加注文が寄せられていた次第です。

 コンビニの売れ筋って、やっぱり食べ物なんですよね。
 元いた世界でも、こちらの世界でも、それは同じです。

 弁当とパン、サンドイッチ類は全本支店ならびに出張所で毎日完売が続いていますからね。

 数はすごく売れている食べ物類ですが……売り上げでいくと、スアの薬がダントツなんです。
 軽微な傷薬も、スア製だとこの世界の上級魔法使いが作成した傷薬並の効果があるもんですから店頭に並べるとあっという間に売り切れてしまいますが、それでも販売個数はしれています。
 ですが……スアの薬品には高額商品が存在します。
 ある程度条件がありますが、死者蘇生や、体の欠損を回復出来る薬なんかは、僕が元いた世界換算にしますとうん千万円だったりするんです……が、それを店頭にならべると2,3日もしないうちに売れちゃうんですからねぇ……

 スア的には、もっと安くしてもいいそうなんですけど、
「……それをしちゃうと、薬品の市場価格が破壊されちゃうから、ね」
 とのことなんですよ。

 と、いいますのも……普通の魔法使いが死者蘇生や欠損回復薬を作成しようとすると、何度も何度も失敗した上でやっと出来上がるといった具合なんです。
 その素材は当然といいますか、この世界ではなっかなか手に入らない超稀少なものばかりなうえに、何度も失敗を重ねてやって完成するわけですから、まぁ、確かに高くなるのも仕方ないといいますか……
 それを考慮して、王都にあります魔法使役者を管理しているところが魔法薬ごとの参考販売価格を設定しているわけなんです。
 そうしておかないと、スアのように、この世界では入手が困難な素材を異世界に採取に行ったり、魔法合成が難しいにもかかわらず毎回100%の確率で成功しちゃっている人が、
「……元手、あんまりかかってないから」
 と言って大盤振る舞いしちゃうとですね、
「もうやってられないわ!」
 と言って、みんな魔法薬を作らなくなってしまいかねないわけです、はい。

 スアも、そこのところは理解していて、その参考価格よりも少しだけ安くして販売しているんですよね。

 まぁ、そんなわけで、コンビニおもてなしは、

 販売数では弁当類

 売上額ではスアの薬

 といった感じなんです、はい。

 使用方法が特殊な薬に燗しましては、テリブルアが営業していますおもてなし診療所で使用上の注意説明を受けてから販売するのうにもしていますので、そういう意味での対策もしっかりしている次第なんですよ。

◇◇

 新年早々の営業だからなのか、ここ数日は弁当類やスアの薬品などが好調な売れ行きです。
 とはいえ、お客様がいっぱいお越しくださっているおかげですからね、
「ホントに、ありがたいな」
 僕は、今日最後のお客様をお見送りした後、そんなことを呟いていました。

 そんな僕の側にスアが転移魔法で現れました。

「……旦那様、お疲れ様」
「うん、スアもお疲れ様」
「……あの、この週末だけど……」
「あぁ、例の地下迷宮に行く件かい?」

 そうなんです。
 オネの1日に、ヒローカ詣に行った際にですね、知り合いから聞いたあの地下迷宮に、週末にみんなで行ってみようって話をしていたんです。
 そこでは、凶暴なんですけど美味しい肉をしている漆黒狼が群生しているそうなので、それを狩ることが出来るかな、と思ったりしていた次第なんですよ。

「……イエロ達もOK。いけそう、よ」
 スアはそう言うと、にっこり微笑みました。

 これで、この週末の僕達は、その地下迷宮へ向かうことになったわけです、はい。

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