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114章 約束

 店を出た直後、若い女性が声をかけてきた。

「アカネさん、すみません」

 ミライと違うことから、新しいアルバイトを雇ったと思われる。彼女は絵描きで忙しいため、店番をするのは難しくなっている。

「・・・・・・・」

 精神的にダメージを受けているからか、すぐに言葉を発することができなかった。

 女性店員は落ち込んでいる、女性の背中をさすった。柔らかさを伴っていたことで、アカネの心の傷が緩和することとなった。

「ありがとう・・・・・・」

「アカネさんだけが、利用できる日を作ります。そのときに、店に来ていただけますか?」

 一人だけでいられるのであれば、たくさんの人から迫られることはなくなる。「なごみや」の中で、楽しいひとときを過ごすことができる。

 一人ゆえに、静かであることもメリット。動物の癒しを感じるためには、ゆったりとした空間がベストだと思っている。 

「うん。一人で利用したい」

「明日を貸し切り日にしますので、来ていただけますか?」

「もうちょっと後でいいけど・・・・・・」

 全ての客を1日でキャンセルするのは、さすがに無理ではなかろうか。そんなことをしたら、店は大ブーイングを浴びせられることになる。

「明日は定休日なんです。それゆえ、他の客はやってきません」

「従業員は休みを取らなくてもいいの?」

「アカネさんのために、店を開けさせていただきます」

「そこまでしなくても・・・・・・」

「一人だけなので、休みと同じようなものです。店員はのんびりさせていただきますので、自由にやってください」

「ありがとう・・・・・・」

「自己紹介が遅れました。ミライの妹のハルキといいます。2ヵ月前から、店番をするようにな
りました」

 年齢は20くらいといったところ。ミライとは少しだけ、年齢が離れている。

「ハルキさん、はじめまして」 

「姉からいろいろと話を伺っております。アカネさんのおかげで、笑顔を取り戻すことができま
した」

「ミライさんはいないの?」

「納期の迫っている絵を描くために、フタバの家にいっています。今日は帰ってくることはないでしょう」

「ミライさんの絵はすごいね」

「そうですね。あのレベルに達するのは、普通の人にはできません」

 色使い、ペンのタッチ、細かいところの描写のどれをとっても、達人クラスに達している。絵に関しては、非の打ちどころがないレベルである。

 話は続くのかなと思っていると、ミライの母親の声が聞こえた。

「ハルキ、仕事をお願い・・・・・・」

「わかった。すぐに戻る・・・・・・」

 ハルキは頭を下げた。

「私は仕事に戻りますので、これで失礼いたします」

 ハルキは店内に戻っていく。その様子を見ていると、イキイキとしているように感じられた。彼女もペットを愛しているのかなと思った。

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