バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

4. 二人から三人と一匹に


 掲示板、正確には依頼板と言うらしい。様々な依頼内容とそれに見合った報酬金額載っており、届け物や魔物討伐など振り幅が広い。

 稼ぎたい者、実力を見せたい者、様々な思いを抱いている者達何此処を利用しておりタグを持っている人達の殆どはギルドにお世話になる者達ばかりだ。基本的に依頼板に貼られている物をこなすが、稀に受付嬢から特別に依頼される物もあるが残念ながら無名の彼女達には無縁の話だろう。

「最初だから簡単そうなのがいいよなぁ」
「討伐系の方が報酬はいいがどうする?」
「討伐か、体動かせるしその方がいいかも。あ、これとかどうだ?」
「ゴブリン討伐か。彼奴らは群れで行動する、キリが無い気がするが」

「あ、じゃあこっちのオーク討伐とかは…」

 ゴブリン討伐は無理か、と諦め近くにあったオーク討伐の方に手を伸ばせば同時に伸びる手。
 ピタリ、と止まる互いの手、しかしこれは隣にいる青年の手では無く知らない手だ。チラリと身を乗り出す様に覗き込めば知らない男の姿、容姿から想像して同じくらいだろうか…と考えていれば急に振り向かれ視線が混じり合う。

 少しだけ気まずさを覚え、たじろぎつつも見つめ返せば見知らぬ男はそのままオークの依頼書を取り此方に差し出してくる。

「悪りぃ、被ったな。お前らこれ行くんだろ?」
「でもそっちも行く気…だったんだよな、それ取ろうとしてたし」
「報酬が良かったからな。でも被ったんなら譲るぜ、オレら他の奴行くし」
「……俺ら?」

 差し出された依頼書を受け取らず、互いにどこか譲り合う様子を真ん中で眺めていれば溜息が漏れそうになる。
 一体何を言い争っているんだ、そんな顔を浮かべながらも「俺ら」と言う言葉が引っかかる。

 見た所一人しか居ないようだが他にも誰かいるのだろうか、そんな事を思っていれば首元のバンダナがもぞもぞと膨らみ動き始める。
 急な出来事に目を丸くして視線を集中させていれば、ニョキ、と生える、なにか。

 ビクッと同時に肩を揺らす様に驚けば、生えて来た何かはどうやらぬいぐるみ…いやぬいぐるみの様な見た目をした何かであるようだ。

「………」
「お、珍しいなロード。お前人見知りすんのに」
「…ロード?」
「オレの友達の名前。ロードっつーんだ」
「キュッ!」

 もぞもぞとバンダナから抜け出したロードと呼ばれるぬいぐるみの様な手乗りサイズの生き物。
 ちょろり、と生える尻尾とぱたぱたと揺れる小さな羽、連想するとしたらまるでてるてる坊主の様な生き物である。

 その証拠にどうやらぬいぐるみと思ったのは布の様なものを被っていたから。

 小さな鳴き声と共に胸を張っているのか、友達と言われ嬉しそうに頬擦りしながらふわふわと近くに寄ってくる。
 ぴこぴこと動く可愛らしい耳は本物の様で、ちょこんと肩に乗りながらそのまますりすりと懐く様に頭を擦り付ける様子に愛らしさを覚える。

 見た事のない生き物、なんだこの生き物は。

「妖精か」
「お、知ってんのか。オレも詳しくは知らねーけど妖精の種族らしいんだ」
「妖精?へぇ、実物初めて見た。こんなに可愛いんだな」

 キュッと鳴きながら擦り寄るロードを人差し指で撫でながら妖精と言われまじまじと見つめる。撫でられ嬉しそうなのか益々擦り寄る様子に可愛い以外の感想が浮かばない様だ。

「ロード初めての奴にはビビって出て来ねぇんだけど珍しい事もあんだな」
「くすぐったいロード、ロードって名前はお前が付けたのか?」
「おう!よく迷子になるからな!」
「……?」

 迷子になるからロード、どう言う意味だろうか。
 名前の由来が気になる所でもあるがそれよりも気になるのが初対面の筈なのに懐ききっているロードの様子、初めての事なのか驚いた表情を浮かべている。

 すっかり仲良くなったのか嬉しそうにロードを撫でながら、同じくロードも嬉しそうに鳴き声を上げ掌に収まっている。
 しかし彼女には懐いている様だが、もう一人の方には一切振り向かない姿から懐いてるのは彼女だけらしい。

 完全に取り残された様子で不服そうに眺めている様子から一体どちらにやきもちを妬いているのか、一目瞭然ではあるが。

「ロードそろそろ戻って来いよ。依頼受けなきゃ飯食えなくなるぞー」
「キュ、キュー!」
「ダメだって。それ其奴らが受けるんだからオレら別の依頼受けなきゃ」
「キュキュー!!」
「我儘言うなー!」

 キュ、と鳴いている様にしか聞こえないがどうやら彼には何を言っているのかわかる様で、嫌々と首を振りながら彼女の周りをチョロチョロする様子にぷくぅ、と不満そうに頬を膨らませ彼女を挟んでの口喧嘩。
 一体どういう状況なのか、戸惑う様な表情を浮かべ完全に巻き込まれてしまった様子。

 今すぐにでも引き剥がしてしまい表情を浮かべながらも流石に首根っこを掴む訳にも行かないがこのままでは終わらない。
 どうするべきかと悩んでいれば、彼女との視線がぶつかりやり取りの間に思いついたのか持っていたであろう依頼書を手に取り間に挟む様に見せる。

「なぁ、もし良かったらなんだけどさ…一緒に行かないかこの依頼」
「え?」
「は?」
「報酬良いみたいだし、それに俺ロードともっと居たいし。それにお前とも仲良くしたい」
「オレ…と?」
「勿論。仲良くしたいんだけど、だめか?」

 突然の提案に二人は固まってしまう。
片方は目を丸くし、片方は少々想定外と言わんばかりな表情を浮かべている。

 彼女の提案だ、不服はないがそれでも二人でも良かった…と表情に丸分かりの様子を視界に納めれば謝る様に眉を下げる。
 そんな様子を見てしまえばこのまま断るわけにも行かず、腕を組み事の成り行きを見守る事しか出来ない。
 そしてそんな様子を尻目に誘われた張本人はというと、きょとん、とした表情を浮かべた後嬉しそうな顔をする。

 依頼書と共に彼女の手を握ればずいっと近寄る顔、つい後退りしてしまうがそんな事を気にせずキラキラとした瞳を向ける。

「いいのか!?」
「俺はいいよ、イヴァンも…いいか?」
「……嗚呼」
「よっしゃあ!!やったなロード!友達、友達が出来たぞ!」
「キュー!」

 今度は言葉にして確認を取りつつ、両手を上げはしゃげば嬉しいのかくるくる回り始める。ロードもロードで男が嬉しそうにしているからなのか同じくくるくる回っている。
 あまり嬉しそうにしている為どうしようか、と互いに目を合わせつつもこのままにして置こうとはしゃぎ終わるのを待つ事に。

 友達、そう呟く男の表情は子供の様に笑顔でそんなに嬉しい事なのだろうか…と思ってしまう。

 数分はしゃぎ、我に帰った様にピタリと止まれば再び握られる手に青年の眉間に皺が寄る。流石に2度目となれば驚きもせず見つめ返す様に首を傾げ覗き込めばニコニコと笑う楽しそうな姿が。

「オレ人の友達初めてなんだ!スッゲェ嬉しい!オレはアグニ!改めてよろしくな、…えーっと、名前聞いてもいいか?」
「俺はファイ。よろしくなアグニ、こっちはイヴァンだ」
「そっか、よろしくなファイ、イヴァン!」

 初めて。ロードを友達と呼ぶ彼、アグニは人との交流をあまりして来なかったのだろうか。人懐っこく明るい様子からしてそんな風には見えないが、けれど流石にそんな事を聞くのは野暮な事なので聞かない方を選択する。

 けれどまぁ、こうして友達が出来たのはとても嬉しい事だ。
 はしゃぐアグニと共に彼女もまた嬉しくてたまらないのだ、彼女も青年以外とまともに交流した事がなくそして青年もまた彼女以外の友達はいないのだから。

 そして三人と、妖精一匹は同意の元オーク討伐へと向かう。
 場所はここから更に東に行った辺境の地に生茂る森林、ノークスの森だ。

しおり