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2. ゆるやかな朝


 東の国イシュタリア王都近くの街、その為か少々人の通りが多い様にも見えるが瞳を輝かせ辺りをキョロキョロ見渡す姿。
 今にも飛び出してしまいそうな様子にソッと裾を掴みつつも同じく目的の物を探す為に辺りを見渡して行く。

「あー、あれも美味しそ…あ、あっちも。うーん、あ!あれも美味しそ……って、イヴァンどうした?」
「……いや」
「…もしかして食い意地張ってる、って思ったか?」
「……」
「その顔は図星だな!?いや、確かに全部美味しそうだなーとは思ったし食べたいと思ったけどそこまで食い意地張ってないと……思うし!」
「すまない、そんな顔をしたつもりはないんだが。…楽しそうで良かった、と思ってな」
「?そりゃ楽しいだろ、イヴァンも一緒なんだから」

 突然の疑問、投げ掛けられた言葉の真意がわからず首を傾げつつも気にするなと首を横に振る姿に益々疑問は膨らむばかり。
 いつも楽しい筈、と少々考え込む様に頭を悩ませつつも鼻腔を擽る美味しそうな香りに思考はあっという間に持っていかれる。

 先程食い意地は張っていないと否定した側からこれだが彼女はどうやら気にしていない様だ。寧ろそんな事は既に忘れているのか、するりと側を離れ出店の前に立ち止まり美味しそうな商品を眺め始める。

 肉肉しい物から、みずみずしい野菜まで、ずらりと並ぶそれらを包んで焼いたパイに彼女は釘付けの様だ。

「美味しそ……」
「よぉ、良かったら味見していくかい?」
「え、いいのか?」
「そんな顔で見られちゃなぁ、そこの兄ちゃんも一緒にどうだ?」
「……貰おう」
「じゃあ俺これ、これ食べてみたい!」

 じぃ、と食い入る様に眺めていた姿に店主から声がかかる。
 嬉しい申し出に更に瞳を輝かせながら先程から見ていた人気商品、と札が書かれている物を指差し店主にお願いすれば手慣れた手つきがカットしていく。

 はしゃぐ様子を横目に確かに美味しそうだな、と一人ごとの様に小さく呟きながら同じく店主の様子を観察する様に視線向ける。

 それぞれに差し出された小さなカットパイ。
 仄かに湯気が出ている様からどうやら先程焼き上がった物の様だ。

「ありがとう。……んー!美味しい…!これ中に入ってるのジャムか?甘酸っぱくて美味しい!」
「……ん、美味いな」
「嬢ちゃん旨そうに食うなぁ、其奴は此処いらで取れるベリーで作ったパイさ。他じゃお目にかかれねぇ美味い奴だぜ?」
「ベリー?」
「嬢ちゃん他所から来たのか?ほら、此処からでも見えるだろ。桃色の果実が」

 桃色、キョロキョロと辺りを見渡し道の向こう側に生えている木からは店主の言う通り桃色の果実が。
 此処では桃色なのか、と一人考えつつも美味しいパイはぺろりと無くなってしまう。

 空いていたお腹に少々入れてしまったせいか益々お腹が空いた気がしてならない。
 先程のパイに思いを馳せつつも、他のも気になってしまう、目移りする様にそろりと他のパイにも目を通しながら唸る様に両腕を組む。

「ならこのパイを丸ごと一つ貰えるか?」
「お、兄ちゃん気前がいいねぇ。おまけだ、こっちのスコーンも入れといてやるよ」
「嗚呼、すまない」
「あ、ありがとう!あ、じゃあ俺こっちも一切れ…欲しいなー……いいか?」
「…それも一つ追加だ」
「ガハハハッ!!嬢ちゃんは良く食うじゃねぇか!若い奴はそれぐれぇがいい、一緒に包んじまってもいいか?」
「問題ない」

 丸ごと包まれるパイに、更に一切れプラスする様子にやはり食い意地が張っているのか。
 少々気恥ずかしさを覚えつつも、先程のパイに加えクリームが少々多めに入ったパイを選択しつつデザートの様になってしまった事に後悔はない様だ。

 おまけで包まれるスコーンを眺めつつも、これをどこで食べようか考えてしまう。
 このまま戻って食べてもいいのだが、折角だから外で食べたい気分でもある彼女は再び唸り始める。

 考え事ばかり、そんな様子を尻目に懐からお金を取り出しつつ計算する様に指折りに数え銀貨3枚をチャラ…と置く。

「銀貨3枚で足りるか?」
「スコーンはおまけだからな、足りるぜ兄ちゃん。ほい、銅貨7枚の釣りだ」
「……なぁ、此処で静かでこれが食べられる場所はあるか?」
「なんだ兄ちゃん達外で食うのか?そうさなー…此処いらだとその奥に行けば多少静かだと思うぜ?」

 店主の指差す方向は路地、その奥という事は少々物がごった返しているのか。
 出来ればもう少し綺麗な所で食べたいのだが。

「ちげぇちげぇ、その奥に噴水があんだよ。その辺りならベンチとか沢山あるからな、そこでなら食えるだろ兄ちゃん」
「……声に出していたか?」
「兄ちゃんの顔が顰めっ面になったからなぁ」

「……すまない」

 どうやら店主に見られていた様だ。
 罰が悪そうな顔をしながらも流石に申し訳ないと思ったのか素直に謝罪すれば再び豪快に笑われる始末。
 店主はあまり気にしない性格の様なのか、その姿はいっそ清々しい感じもしつつ。

 お金と共に商品を受け取ろうとすれば先程まで唸っていた彼女は先に商品を手に取る。
 大事そうに胸に抱え、目的の物を買えたからなのか嬉しそうに頬を緩ませていた。

「ありがとう、おっちゃん。また来てもいいか?」
「また来いまた来い、嬢ちゃん。そん時はもっといっぱい買ってけよ、ガハハハッ!」

「…それは俺が食い意地張ってるって事なのかやっぱ。なぁ、イヴァンどう思う?」
「……沢山食べるのは悪い事じゃないだろう」

 認めたくないのか、それとも恥ずかしいだけなのか、問いかけれた言葉にどう返事を返していいのか分からずに結局言葉を濁してしまう。
 けれどいい店を見つけた、と互いに思いつつひらりと手を振りながら購入した朝食に浮き足立ってしまう。

 早く食べたい、と少しだけ早足になる彼女を追う様に歩きながら転ばない様に…と視線はしっかりと彼女へと。
 店主が言う静かな所へと向かい、そこでゆっくりと食事をしよう…そこがお気に入りになるといいのだが。


 そういえばパイは彼女の好物だったな。

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