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1. 彼女と青年



 早朝から何やら騒がしい音がする、慌ただしい騒音と共に急ぎ足で階段を降りる様子に特に気にする様子も無く紅茶を嗜む青年が。

 そんな落ち着いた青年とは裏腹に酷く慌てた様子で現れた女性は乱れた髪を気にせず相手へ謝罪の言葉を口にする。

「ごめん!寝坊した!今から朝ご飯作るからもう少しだけ待っててくれ!」
「すまない、起こせば良かったな。慌てるな怪我をする、朝食は外で取ろう…天気もいいしな」
「うぅ、本当に悪い…」
「大丈夫だ。昨日は引っ越ししたてで忙しかった、ほら髪を整えるから座れ」
「ありがとう…」

 両手を合わせ申し訳なさそうに謝る相手にゆっくりと首を横に振りながら小さな笑みを浮かべる。
 大丈夫、と肩をポン…と軽く叩きながら代わりに彼女を座らせれば手慣れた手つきで髪を梳かし始める。

 しょんもり、と身を小さくしながら大人しく髪が整えられるのを待ちながらそろそろと視線を上目に向け眉を下げてしまう。
 そんな表情に気にしなくてもいい、と考えつつもそんな所が彼女らしい、と仄かに笑いながら長めの左サイドの髪を結えトレードマークと言わんばかりの赤のスカーフを添える。

 見慣れた姿に満足そうにしながら優しく頭部を撫でれば、先程までボサボサだった髪が整えられ嬉しそうな表情を浮かべる。

「いつもありがとう、一人で出来たらいいんだけどな…」
「お前は料理以外の手先は不器用だからな、昔と何も変わらないな」
「な!料理以外も出来るぞ、えっと…ほらあれ、髪の毛一括りくらいなら…」
「それは…出来ないに等しくないか?」

「いやそうなんだけど…ごめん、見栄張った、出来ない」
「……ふ、っ……くく」
「わ、笑うなよ!」

 コロコロと変わる表情、胸を張る姿に横槍を入れてしまえばシュンとすぐさま落ち込む様子に耐えきれず顔を背けてしまう。
 ムキになった様に仄かに頬を染め抗議をしながらもそれすらも最早面白くなってしまう様についつい笑い声が漏れてしまう。

 髪の毛くらい、と思いつつもそろそろ腰よりも長くなっている姿にそろそろ切るべきか…とそっと流れる髪の束を掬いながら考えてしまう。
 けれどやはり長い方が似合う、と毎回結論付けてしまう為言えずにいる様子を彼女は知らない。

 彼女もまたこのままの方がいいと密かに思っているからである。

「ふ、っ…すまない揶揄うつもりはなかった。ほら、朝食を取るんだろ…そろそろ行こうまだ俺達はこの街に馴れてないんだ、散策しよう」
「なんか誤魔化された気がするけど、そうだなそうしよう…!何食べたい?」
「お前が食べたい物でいいが、…朝からあまり重たい物は遠慮したい」
「流石に朝からステーキとかそんな豪勢な事はしないって、…………多分」

 きゅるるー…

 衣服を整えつつ共に玄関に向かいながらそんな事はない、とハッキリ否定しない姿とタイミング良く鳴ってしまったお腹の音に互いに目を丸くする。
 なんて空気の読めないお腹なのか、これでは食いしん坊と言わんばかりではないか。

 誤魔化す様に顔をそろりと逸らしつうとばっちり互いに聞こえている為誤魔化し様が無く本日3回目の笑い声が彼女の耳に届く。

 熱くなる顔と、それ以上になんだが悔しい気持ちが混ざり合い拗ねた様に頬を膨らませ少々強引に急かす様に袖を引っ張る。

「…お前は、相変わらず面白いな」
「それは褒め言葉としてしょーがないから受け取っとく。ほら、行くぞ!もういい、この際だからガッツリ食べる」
「お手柔らかに頼みたいんだが…」
「お前も食べろよ、細いんだから。…というかなんでそっちはお腹鳴らないんだよ」
「紅茶を飲んだからな。…多少なりとも俺も空いているさ」

 此方ばかり恥ずかしい思いをしている、と言わんばかりに視線を向けつつもそんな様子を甘んじて受けつつ外に出れば陽の光に互いに少々眩しそうに瞳を細める。

 見慣れない景色に嗚呼引っ越してきたんだった、と改めて実感しつつレンガの階段を降りる。
 真新しい階段、そよそよと涼しい風に嬉しそうに口元を緩めながら先程までの気持ちはさっぱりなくなる。

「よっし!今日はあっち、あっちの方に行こうぜ!」
「分かった、分かったからそんなに引っ張るな。転んだら危ない」
「大丈夫!転んだらイヴァンが助けてくれるだろ?」
「そうじゃないんだが、…まぁ、そうだな。お前が転ぶ時は俺が支えてやるさ」
「ほらな、なら大丈夫だって。あ、イヴァンが転びそうな時は俺が支えるな!」

「そうならない様に気をつける。…ほら、転ばない様に行くぞファイ」
「うん!」

 朝からの少々慌ただしい様子から一転、落ち着いた様子で歩き出しながら二人は見慣れぬ道へと歩いて行く。

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