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エリゼオ

「決行は明日の夜だ。今日は道具や仕掛けの準備、明日は現地に赴き、実行における段取りの確認を行う。君達三人には十分な把握をしてもらうため、今日は準備ではなく私たちについて来てもらうこととなっている。異論はあるか?」

 皆、首を振る。場合によっては今日すぐに行われるのかと思っていたが、ある程度猶予があるようだ。ひとまず今日は彼らについてこの周辺を歩いて見て回ることになるのだろう。

「では、解散」

 その声と共に、皆ががやがやと話しながら出ていく。張り詰めた空気が一気に緩んだ。

「よし、それじゃあ行くか」

 さっきまで会議で話していたエルフの男だ。すらっとしているアルフィオとは対照的にガタイが良く、気難しそうな雰囲気を放っている。

「まさか、ここで出会うとは…」
「全くだな!昨日ぶりだな。エリゼオだ。よろしく頼む」
「ギリーです。こっちはルーチャ、それとレストリー」
「よろしくお願いします」

 ギリーがぺこりと頭を下げる。ギリーの後ろにいる二人もそれとなく頭を下げた。

「そんなにかしこまらなくたって大丈夫だぜ。あんたらのしゃべりやすい話し方でいい」

 親父が笑いながら言っている。アルフィオにも同じことを言われたが、ここで普段話す際は砕けて話すほうが良いのかもしれない。

 そうして会議室の外に出て、住居区を出ようと歩いていると…

ぐるるる

 腹の音が響く。音の主は言うまでもない。

「えへへ…」
「嬢ちゃん、朝はまだなのか」
「う、うん」
「なら、食堂に行くぞ。言ってくれりゃあよかったのに!」

 そう言いながら行く先を変え、食堂の方へとずかずか歩いていく。

「あ、ありがとう。ボク達、もらってばっかりで申し訳ないし…」
「そう遠慮するな!お互い助け合って生きてくもんだ。あんたらが困ってたら俺たちが助ける。その代わり俺たちが困ってたらあんたらが助ける。そういうもんだろ?」
「そう、だな」

 ギリーが詰まりながらもエリゼオの話に答える。すぐにそうだと言えなかったのは、隣でレストリーが気難しそうな顔をしていたからだ。
 レストリーの村ではそうではなかった。助け合いなどではなく、その真反対。

 ここまでエルフという種族に接してきて感じたのは、彼らは穏やかで、優しさを持った種族だということ。食堂の配給制然り店のシステム然り、悪意を持って介入してしまえばあっという間に成り立たなくなる。その割にバームルによる襲撃にあっても、赤の他人であるここ三人へと何らかの施しをしても余裕がある程度にはこのエルピアンテは成り立っている。人にとっては理想の生き方に近い場が形成されているように感じられる。

 そんなことを考えているギリーを他所に、ルーチャが質問をする。

「ここって一日に何度食事をとったりとかって決まってるの?」
「いや、とくには決まってないな。日の暮れる前に一度の会食がある以外は、皆自由に食事を取ってる。その場で食うやつもたまにいるが、大体は食堂にもっていって、一部を預けて一部を食べるって感じだな」
「その食材ってどうしてるの?野菜が一瞬で生えてくる、みたいなのがあったりとか?」

 一瞬三人の期待を孕んだ目がエリゼオに向くが、

「はは、そんなに便利なもんがあったら見てみたいもんだな!」

 エリゼオが声をあげて笑う。さすがにそこまで便利なものはないらしい。

「野生にいる虫や動物を狩ったり、野菜の採取を行ったりするな。ある程度採集したら、他は大体各々やりたいことをやってる感じだな」
「それって何もやらない人とか出てきたりしないの?」
「いや?というより、人間は何もしない奴がいたりするのか?」
「まあ、そうだね…それもいるし、ボクのいた世界じゃ、むしろ食料調達とは別のことをやって生きてる人が多かったかな」
「ほう、人間の文化ってのはワシらエルフとは随分と違うんだな」

 エリゼオが興味深そうに呟いていると、不意にルーチャが言った。

「ね、ねえ。今何食べてるって言った?」
「ん?動物とか虫…」
「虫?!虫食べるの?」
「なんだ?人間ってのは虫を食ったりはしないのか?」
「う、うーん。ボクのいたところじゃ食べなかったけど…二人はどう?」

 そう言いながらルーチャはほかの二人の顔を見る。レストリーは首を振り、ギリーは首をかしげている。

「ギリー、もしかして…」
「ああ、ごくたまにな」

 島での生活において食べられるものは基本大体食べる。それが植物だろうが虫だろうが、些細な違いだ。ルーチャが来ているときはその時期が来ていなかったり、兵士たちの持ち込んできていた食料を食べたりしていたため、食事として出てくることはなかったが。

「へえ、いいじゃないか。貴重な体験だぜ。ルーチャ」
「ボクはいい!」

 興味津々なレストリーとは真逆に、顔を真っ青にしたルーチャが反対する。そんな二人を見ながら、エリゼオが笑っている。

「アンタら、面白いな!同じ別世界から来たんじゃないのか?」
「はは、実はそれぞれ別の世界から来てるんだ。話すと長くなるから、また機会があれば話そう」
「そりゃあ楽しみだな。因みに嬢ちゃん、これからもらいに行くのは虫じゃないから安心しな」
「あ、いや、貰ってる分際で好きも嫌いもないので…なんでも食べます。もし虫が出たとしても、美味しくイタダキマス」

 慌てて答えるルーチャの言葉は、少しカタコトだった。

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