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ほっとけないイケメン その2

 気がつくと、いつものスアの使い魔の森と通じている転移ドアからではなく、ファニーが住んでいるティーケー海岸と通じている転移ドアからやってくることの方が多くなっているハニワ馬のヴィヴィランテス。

「まったく、あのファニーってばホント失礼しちゃうわ。このアタシがわざわざ出向いてあげて、わざわざ手をかけてあげてるっていうのに、生活態度がまったく改まらないんですからね……ホント嫌になっちゃうわよ」
 そんな文句をぶつぶつ言いながらも、いつものように各支店ならびに出張所用の荷物をつめている魔法袋を口にくわえては背にのせているヴィヴィランテス。

 ……そこまで文句を言うくらいなら、面倒みなきゃいいのに

 と、思わなくもない僕なのですが……これはもうヴィヴィランテスの性格でしょうね。
 少しでも気になることがあるとほっとけない性格なんですよ、ヴィヴィランテスってば。

 まぁでも……そんなヴィヴィランテスの影響でしょうかね……

「……ふぅ、店長さん、これ、今日の予約分ね」
 閉店後にやってくるファニーの様子が少し変わったといいますか……

 いつもでしたら、パルマ生誕祭ケーキとオードブルの予約票を手渡したら即座に戻っていくのが常のファニーなのですが……

 今日はどういう訳か本店の一角で足を止めていたんです。

 よく見てみると……そこはクキミ化粧品のコーナーでした。

 ファニーが担当してくれているティーケー海岸出張所は、メインはおもてなし商会の方でして、主にティーケー海岸にありますアルリズドグ商会から魚介類を仕入れているんです。
 コンビニおもてなし出張所は、今のところそのついでで営業しているんですよね。

 で、

 当然、出張所はコンビニおもてなしの支店に比べてスペースがとても狭く、扱っている商品の数も少ないんです。

 当然、クキミ化粧品も扱ってはいません。

 ちなみに、このクキミ化粧品ですが……
 製造を開始した際のメイン担当でした、コンビニおもてなし4号店の店長クローコさん。
 そして、コンビニおもてなしのバイト店い……じゃなかった、ゴージャスサポートメンバーをしてくださっているキョルンさんとミュカンさんの姉妹。
 その、それぞれの頭文字から命名されているんです。

 今のクキミ化粧品は、コンビニおもてなし5号店西店と同じ建物に入っています、マクローコ美容室を経営しているマクローコと、そこの店員をしているダークエルフの皆さんを中心にして製造されています。
 あ、キョルンさんとミュカンさんも、ここのスタッフとしてゴージャスにサポートしてくれているんですよ。

 で、話を戻しますが……

 そんなクキミ化粧品の前でジッとしているファニー。

 すると、そんなファニーの様子に、クローコが気がつきました。

 クローコも、ファニー同様に、自分が店長を務めていますコンビニおもてなし4号店に寄せられたパルマ生誕祭ケーキとオードブルの予約票を持って来てくれたところだったんですけど、
「なになに? ファニーちゃんもお化粧に興味ある? みたいな?」
 気さくに話しかけていきました。
 するとファニーは
「……ふぅ……いいのよ、私なんかいくら着飾っても……」
 自虐的にそう言いながら、その場から離れようとしたのですが、その体をクローコさんが抱きしめるようにして止めました。
「それはさぁ、やってみないとわかんないじゃん? それにさ、ファニーってば結構素材はいい、みたいな? さぁさぁ」
「……ふぅ? あの、ちょっと……」
「いいからいいから、みたいな」
 強引にクローコに連れられて、お店の奥にある応接室へと連れ込まれたファニー……

 ……そして1時間後

「……ふぅ……だ、だから似合わないって」
 応接室から出て来たファニーは、いつも以上に猫背になっています。
 両手で顔を隠し気味にしているのですが……

「あらあら、とっても美人さんになりましたねぇ」
 そんなファニーの姿を見た魔王ビナスさんが驚いた声をあげました。

 それには僕も同意見です。

 ファニーってば、クローコの化粧によって見違えていたんです。

 その時でした
「ちょっと店長ちゃん。ファニーいる? あの子ってば全然帰ってこないのよ」
 そう言いながら、ヴィヴィランテスが転移ドアをくぐってやってきたのですが、

「……何よ、そこにいたの? もう、帰りが遅いから心配したわよ」
 そう言うと、ヴィヴィランテスはファニーの袖を口でくわえて引っ張り始めたのですが。

「……お化粧したのね、似合ってるじゃない」
 そう、ぼそっと言いました。
 
 ヴィヴィランテス的にはファニーだけに聞こえるように言ったつもりだったみたいですけど、閉店後の店内だったもんですから、その言葉は、僕の耳にもしっかり聞こえた次第です。

 で

 その一言をうけましてファニーはですね
「……ふぅ……」
 と、いつものようにため息をつきながらも、その顔を真っ赤にしていた次第です。

 そのまま2人は、ファニーの家がありますティーケー海岸へ通じている転移ドアをくぐっていきました。

 その後ろ姿を見送ったクローコは
「なんかいい感じだねぇ、あの2人ってば
 そう言いながら笑っています。

 そんなクローコが、ファニーに施していたお化粧ですが……
 派手さは抑えめにしながらも、目のラインをぱっちりさせて、口紅も明るい色で際立たせて、と、とても素敵にしあげていたのです。

 ……が

 それでなんで自分の化粧が、僕が元いた世界でもすでに絶滅危惧種だったヤマンバ化粧なんでしょうね……
 
 そんな事を考えている僕の前で、クローコはいつものように舌出し横ピースをしながら
「私にもいい人こないかなぁ、みたいな」
 そんな事を言っていた次第です、はい。

◇◇

 で

 クキミ化粧品のコーナーにですね、翌日早速新しいポスターが張られていました。

 それは、ファニーをモデルにしたポスターでした。
 左側に化粧前、右側に化粧後のファニーの画像。
 その変化をこうして並べてみると、改めてその変化ぶりにびっくりしてしまいます。

 それぐらい化粧後のファニーは美人になっていた次第です。

 ちなみに、このポスターですが、昨日クローコがファニーに化粧をする際に本人の了承を得た上で撮影・ポスター化していた次第なんですよ。

 で

 その画像を、僕が貸したデジカメで撮影したクローコ。
 それを僕がビフォーアフター風のポスターに加工し、出来上がったデータを魔女魔法出版のダンダリンダに印刷してもらったものなんです。

 で、これをコンビニおもてなしの中で、クキミ化粧品を扱っている店舗すべてに配布し、掲示してもらったところ

「やだ、この化粧すごいわ!」
「この化粧品でここまでになれちゃうのね」
 
 と、まぁ、その宣伝効果が抜群でして、各店舗でのクキミ化粧品の売り上げが一気に増加した次第なんですよ。

 中には、
「こ、このポスターの人って、コンビニおもてなしの店員さんなんですか?」
「ど、どこに行ったら会えますか?」
 なんて質問をしてくる男性客の方も少なくなかったといいますか……

 そんな中……

「さ、今日もしっかり荷物を運んでくるわよ」
 そう言いながら、朝一でヴィヴィランテスがやってきました。
 その首には、見慣れないバンダナが巻かれていました。

 で

 その日の閉店後……
「……ふぅ……店長、これ、今日の予約分ね」
 そう言って、ファニーが書類の束を持って来てくれました。
 その首にもバンダナが巻かれていました。

 えぇ、朝、ヴィヴィランテスが巻いていたのと同じバンダナです。

 ちなみに、今日のファニーは、クキミ化粧品を数点購入して帰っていきました。
 いつもだるそうで、無感情・無表情なファニーですが、
「……店長さん、閉店後だけど、品物買わせてもらってもいいかな?」
 僕に向かってそう言ってきたファニーは、耳まで真っ赤にしていました。

 ヴィヴィランテスとファニー

 冬ですけど、春真っ盛りな感じですかね。

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