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テトテ集落にて

 魔王ビナスさんの出産に続くようにして、テトテ集落がすごいことになっております。

 テトテ集落に、最初の頃にお嫁にこられた魔法使いの皆さんが、ここに来て一斉に出産なさりはじめたんです。

 そのため、コンビニおもてなしテトテ集落出張所に、赤ちゃん用品をお求めになられるお客様が毎日殺到なさっているんです。

 一番売れているのは、抱っこ紐と粉ミルクです。
 特に、粉ミルクの売れ行きがすごいんです。

 これはスアに教えてもらったのですが……

「……魔法使い集落の魔法使いはね、エルフ族が多い、の」
「ふうん、そうなんだ」
「……でね、エルフ族はね……こんな人が多い、の」
 スアはそう言いながら、自分の胸の前で右手を上下させていきました。

 そう

 そのちっぱいといいますか、真っ平らな胸の前で右手を上下……

 スアにそう言われて、僕はある意味納得しました。
 確かに、魔法使いでエルフ族な若奥様達は、慎ましやかな胸をなさっている方が多かったんです。

 そのためか、総じて皆さん、母乳の出がいまいちらしく、そのためコンビニおもてなし特製の粉ミルクこと「リョータミルク」をこぞってお買い求めくださっているようなんです。

 そういえば、スアもリョータが産まれた時は母乳で育てようとして頑張っていたんですけど、かなり出が悪くて……リョータに目一杯お乳を吸い出そうとされては、
「……ひぃ!?」
 って、悲鳴を上げていたのが、なんだか懐かしく思い出されます。

 で、このリョータミルクですが……
 コンビニおもてなしの在庫として、倉庫の中に残っていた粉ミルクをスアが研究し、栄養素をより豊富にし、その上でカロリー控えめに、と、あれこれ創意工夫を凝らして完成させた究極の粉ミルクと言える代物なんです。

 そのおかげで、コンビニおもてなし本支店だけでなく、ドンタコスゥコも多く仕入れて王都の方へ行商しに行っていたりするんです。
「コンビニおもてなしさんの、このリョータミルクは向こうでも大人気なんですよねぇ」
 ドンタコスゥコはそう言いながら笑っていました。

 ……しかしあれですよね
 コンビニおもてなしの倉庫ってば、ホントに何でもありなんですよね……
 本店の奥にあるこの倉庫なんですけど……その中に死蔵されている在庫の山の大半は、僕の爺ちゃん……コンビニおもてなしの創業社長が主に仕入れた物なんです。

 宝くじに当たって、そのお金を元手にコンビニおもてなしを創業した爺ちゃん。

 僕が元いた世界で住んでいた地域は、結構な田舎町だったせいで、爺ちゃんの時代にはコンビニは他にありませんでした。
 ですので、創業当初のコンビニおもてなしは、すごく繁盛してそうなんです。
 その勢いにのって、あれこれ仕入れては販売していった爺ちゃん。
 ……ですが、まぁ、それが全部売れるほど世の中甘くないといいますか……

 当時、仕入れた物の半分以上は不良在庫化して、倉庫の肥やしになったと聞いています。

 それでも爺ちゃんの代は、他にコンビニがなかったおかげでコンビニおもてなしは黒字経営だった次第です。

 その後、父さんの代になるとコンビニエンスストアの全国チェーン店が数多く出店してきまして……この頃からコンビニおもてなしの斜陽がはじまり、僕の代ではもうどうにもならないところまで……

 しかしあれですね……

 そんな爺ちゃんの代の遺産といいますか、倉庫の中で眠っていた不良在庫が、今、こうしてコンビニおもてなしの商品開発の役にたっているのですから……ホント、何が幸いするかわかったもんじゃありません。

◇◇

 そんなわけで、スア監修によりますリョータミルクが大人気になっているコンビニおもてなしテトテ集落出張所ですが、同時に抱っこ紐も大人気になっています。

 これ、最初なんでここまでこの抱っこ紐が人気になっているのか、僕もさっぱりわかりませんでした。

 と、いいますのも……
 テトテ集落のママさん達は魔法使いなわけです。
 魔法を使って赤ちゃんを宙に浮かせた状態で移動することも可能なわけでして、別に抱っこ紐なんてなくても大丈夫なはずなんですよ……

 そんな事を考えていた僕なのですが、その謎はある日、唐突に解けました。

 その日のお昼過ぎ。
 テトテ集落出張所を切り盛りしてくださっているリンボアさんから
「店長さん、抱っこ紐の在庫が切れためぇ」
 との連絡を受けた僕は、早速抱っこ紐の予備が入っている木箱を抱えてテトテ集落へ向かいました。

 こういうとき、スア製の転移ドアがあるのはホントに助かります。

 品切れの連絡をすぐに聞けますし、追加をすぐに持っていけますからね。

 で、僕が
「リンボアさん、抱っこ紐の追加を持って来ました」
 そう言いながら転移ドアをくぐるとですね、それを店内で待ちわびておられたらしい、魔法使いのママさんが
「スア様の抱っこ紐が届きましたか!」
 そう言いながら、満面の笑顔を浮かべていたんです。

 ここで僕は、ようやく抱っこ紐がなぜこんなに人気なのか理解しました。

 いえね……

 この抱っこ紐なんですが……基本的にはテトテ集落の皆さんに製作してもらっています。
 で、それをコンビニおもてなしに納品してもらってから各支店などへ配布しているのですが、その商品紹介用のポスターに、スアを起用しているんです。
 リョータが産まれた時にデジカメで撮影した画像なのですが、スアが赤ちゃんのリョータを抱っこ紐でおぶっている画像をポスターに加工しているんです。
 で、抱っこ紐の木箱1つに、このポスターが1枚入っているんですよ。
 このポスターが、抱っこ紐の使用方法の説明も兼ねているわけです。

 で、

 テトテ集落出張所の壁にも、このスアのポスターが貼られていまして、その前にこの抱っこ紐が並べられているんです。

 そのせいで、テトテ集落では、この抱っこ紐が
『スア様の抱っこ紐』
 として珍重されていたんです。

 曰く、
「この抱っこ紐を魔法使いが使用して子育てをすると、スア様のように幸せになれる」
 とか言う、ジンクスがまことしやかに語られまくっているんだとか……

 でもこれ……否定は出来ません。

 何しろ、スアは実際にこの抱っこ紐を使用して、リョータ・アルト・ムツキの3人の子育てをしてきたんです。
 そして、みんな幸せになっているんです。

 これは紛れもない事実なわけです、はい。

 そんなわけで……今日もテトテ集落では、粉ミルクと一緒に抱っこ紐が大人気です。

 これを受けまして、この抱っこ紐を『スアの抱っこ紐』と改名しました。

 すると……なんということでしょう。
「スア様の抱っこ紐をください!」
「こっちにもですわ!」
「私にも!」
 と、改名したばかりの抱っこ紐を求めて、以前にも増してすごい数のお客様がテトテ集落出張所に殺到してこられた次第なんです。

 そのお客様の大半が、魔法使いの奥様方でした。

 中には、以前にも購入されていた方が、
「名前に『スア様』が入ったおかげで、なんだか御利益がありそう」
 と、言われながら購入していかれる方も少なくありませんでした。

 ちなみに……この御利益云々なのですが……実は気のせいじゃないんです。

 スアがですね、この抱っこ紐を出荷するまえに
「……みんなに、幸多からんこと、を」
 そう、魔法で祝福を与えてくれているんです。

 これは、抱っこ紐を「スアの抱っこ紐」と改名して以後行っている内緒のサービスだったりします。

 このスアの祝福の効能ですが、スアによりますと、
「……この抱っこ紐を使用された赤ちゃんが病気にかかりにくくなるし、母子ともに健康になる、よ」
 とのことでした。

 そんなスアの抱っこ紐は、今日もテトテ集落で飛ぶように売れています。
「しょうがないわね。追加の配達が必要なら、このアタシが運んであげるから、遠慮なくお願いしてもいいのよ!」
 本店では、ハニワ馬のヴィヴィランテスがそう言いながら常時スタンバってくれてもいます。

「ヴィヴィランテス、いつもありがとう。ホントに助かるよ」
 僕がそう言うと、ヴィヴィランテスは
「勘違いしないでよね。アタシはあくまでもスア様のためにやってるんだから……まぁ、あんたとも腐れ縁だしね、少しくらいはお願い聞いてあげなくもないけどさ」
 そう言ってくれました。

 ホントに、良い奴なんですよねヴィヴィランテスってば。

 そんなみんなのおかげで、今日もコンビニおもてなしは元気に営業出来ている次第です、はい。

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