バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

復帰した人と、引き続きの人と……

 魔王ビナスさんが職場復帰してくださったおかげで、コンビニおもてなしの厨房が一気に賑やかになりました。

 まぁ、魔王ビナスさんはその名前のとおりこの世界とは違う世界の魔王さんなんですよ。
 さらに、内縁の旦那さんは、これまたこの世界とは違う世界の勇者さんなんですよね。

 そんなすごいカップルから産まれた子供さんなもんですから、成長がすこぶる早いんです。
 産まれてまだ数日しか経っていないのですが、首がすわるどころかすでに二本足で歩き回っているというのですから……いやはや末恐ろしいことこの上ありません。

 前回の子供さんの時は、赤ちゃんを抱っこ紐でおぶって仕事に復帰した魔王ビナスさんなんですけど、今回は赤ちゃんは他の内縁の奥さんにお任せしているんだそうです。
「えぇ、あの方々も、あやかりたいとのことで、「ぜひ赤ちゃんの相手をさせてください」と申し出てくださっておりまして」
 魔王ビナスさんは楽しそうに笑いながらそう教えてくれました。

 ……なんといいますか、3人も内縁の奥さんがいたら、もっとこうドロドロといいますか、火曜サ○ペンス劇場とまではいいませんが、昼ドラ的な展開があってもおかしくないのでは、と思ったりしてしまうんですけど、魔王ビナスさんのところは、内縁の奥さん達がたまにお店にこられたりもしているのですが、みんなとっても仲良しなんですよね。

 ちなみに、魔法使いの奥さんなんかは、3号店の書籍コーナーによく入り浸っておられるそうです。

 ただ

 内縁の旦那さんである勇者ウインダさんがいると、
「ちょっと、ウインダから離れなさいよ」
「そっちが離れるっぱ!」
「では、私、強引に寄らせていただきますわ」

 といった感じで、結構視線バチバチモードだったりするんですけどね。

 まぁ、だからと言って、僕はスアがいれば十分なので、なんの参考にもならないわけですが……

◇◇

 とまぁ、魔王ビナスさんはいろんな意味で規格外なので、こんなに早期に職場復帰出来たわけですが……

 先に出産を終えているヤルメキスの職場復帰はもう少し先になりそうです。
 何しろ12つ子ですからね、ヤルメキスのところは。

 ベビーベッド変わり兼乳母車代わりにもなるゴーレムをプレゼントしたおかげで、かなり楽にはなっているみたいなのですが……やはり数が数ですので、
「て、て、て、店長さん、申し訳ないのでごじゃりまするが、もうしばらくお時間を……」
 先日、ヤルメキスが、申し訳なさそうにそう言ってきたんですけど
「気にしなくていいよ。今は仕事よりも子供さん達を第一に、ね」
 僕は笑顔でそう言いました。

 その言葉を受けて、ヤルメキスは
「ありがとうごじゃりまするぅぅ」
 と、感涙を流しまくっていた次第です。

 そんなわけで、ヤルメキスの復帰にはもうしばらくかかりそうです、はい。

◇◇

 ちなみに……

 オルモーリのおばちゃまの家も、オール人工魔石化したんです。
 個人のお宅では初だったのですが、
「うちのお屋敷はね、ちょっとかなり広いのでね、ぜひこのオール人工魔石化したいとね、おばちゃま思ったの」
 そう言って、このオール人工魔石化を申し込んでくださったオルモーリのおばちゃまですが、スアによる人工魔石の設置と、その人工魔石と屋敷内の魔石端末との接続作業が終わってからしばらくすると、
「店長ちゃん、あのオール人工魔石化ね、おばちゃま最高によかったと思うの。もうね、思い切ってお願いしてみて大正解だったわ」
 感謝感激といった感じで、僕の両手を握りしめながらすごく嬉しそうにお礼を言ってくださったんです。

 で

 そんなばちゃまがですね……また、どこかの舞踏会か何かに出向いた際に
「あのね、コンビニおもてなしのオール人工魔石化がね、とってもよかったの……」
 そんな感じで宣伝してくださったみたいでして……ナカンコンベや、遠く王都からも、個人によるオール人工魔石化の問い合わせが来ている次第なんですよ。

 今、この事業は基本的に魔法使い集落に新たに設立したオール人工魔石化の会社「魔女のパーティ会場」が全面的に請け負ってくれていますので、そちらに話を回して現在あれこれ調整してもらっているのですが、その設置や接続作業はまだまだスア頼りなところが大きい次第でして、新しくオール人工魔石化する際には、いつもスアがかり出されているんです。

 でも、

 スアは、魔女のパーティ会場のメンバーから派遣申請が寄せられると、いつも嫌な顔ひとつしないで
「……行ってくる」
 そう行って、出向いていっている次第です。

 そして、行った先で作業を終えると、
「……コンビニおもてなしもよろしく、ね。お近くに来たらぜひ……」
 そう言って、コンビニおもてなしの本支店の位置を示したチラシを配ってくれているそうなんです。

 そんな感じで宣伝までしてくれているなんて、スアは一言も言わないんですよ。
 
 オール人工魔石化の作業をした際に宣伝していることも、同行していた魔法使いの人達から聞いて始めて知ったくらいですので……

 で、そのことをスアに聞いてみると、スアは
「……奥さんとして、当たり前のことをしているだけ、よ」
 そう言いながら、照れり照れりと体を左右に振っていた次第です。
 
 まさにあれですね……こういうのを良妻賢母って言うんでしょうね。

 体を左右に揺すっているスアを見つめながら、僕は
「なんて素敵な奥さんをもらうことが出来たんだろう」
 と、心の中で感謝した次第です。

 そんな事を考えていると、スアがさらに真っ赤になったのですが……

「……旦那様……全部口に出してる……」
 そう言ってきた次第でして……

 そうなんです……
『なんて素敵な奥さんをもらうことが出来たんだろう』
 この台詞を、僕は思いっきり口に出して言っていたみたいでして……

 その結果、この日の夜のスアはとっても積極的だったとだけお伝えさせていただきます。

◇◇

 そんな一夜を終えた翌朝……

 今日も僕は夜明け前から弁当作成作業に勤しんでいるのですが、魔王ビナスさんがそこにいるおかげですごく楽になっている次第です。

 魔王ビナスさん復帰までは、いつもラテスさんとヨーコさんに手伝ってもらっていたのですが、そのお手伝いがまったくいらなくなった次第です、

 で、その時間をですね、ラテスさんとヨーコさんにはパルマ生誕祭ケーキ作りにあててもらっているんです。
 そのおかげで1日のパルマ生誕祭ケーキの製造数が3割増しくらいになっているんですよ。

 この調子でいけば、どうにか今年のパルマ生誕祭ケーキは乗り切れそうですね。

 ただ、今年のパルマ生誕祭では、ケーキ以外にもオードブルのセットなども予約販売していますので、そっちの準備も平行して進めないといけません。

 こちらは、今年からはじめたサービスなんですけど、こっちも結構好評なんです。

 もともとこちらの世界のパルマ生誕祭は、パルマの建国を祝ってみんなで家で美味しい物を食べる日なわけです。
 ですので、ケーキだけでなく、コンビニおもてなしのオードブルセットも一緒に頼んで、この日の美味しい物にあてようとされている方が結構おられるんですよ。

「と、言うわけでビナスさん、このオードブルセットも一緒によろしくお願いします」
「えぇ、これなら得意なものばかりだから任せてくださいな」
 魔王ビナスさんは満面の笑顔でそう言ってくださいました。

 そんなわけで、コンビニおもてなしの厨房では、いつもの弁当作成作業が終わりましたら、即座にオードブルセット作成作業を行っている次第です。

 商売繁盛は嬉しいのですが……やはりちょっと忙しすぎるかな、と、思わなくもありません。

 今、イエロ達のところで狩り用の人材をテスト雇用しているところですが、そのうち調理人の募集もかけた方がいいかもしれませんね。

 そんなことを考えながら、僕は今朝も魔王ビナスさんと並んで鍋を振るっていました。

しおり