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75章 展示会

 式典の日がやってきた。
 
 懸命になって書き続けたものの、上手な絵を完成させることはできなかった。絵については、根本的に才能がないのかもしれない。

 アカネが完成させた絵は、母親が子供にメロンを食べさせている場面である。自分なりに悩んで、こういう絵を描こうと思った。

 母親、メロン以外にはリンゴ、ミカンなどもあった。子供がどれを選ぶのかという、ストーリー性を絵に組み込むためである。子供が選んでいるところを強調したかった。

 子供の頬の部分にも力を入れる。ほっぺた一つで、おいしそうに食べているのか、まずそうに食べているのかが大きく変わる。

 アカネの10メートルほど先に、ミライの絵が展示されている。こちらは、10歳くらいの女の子がペットと戯れている様子が描かれていた。彼女のペット好きな一面をうかがわせる。

 誰の作品なのかは明かしていない。それゆえ、ほとんどの住民は作者が誰なのかわからない状態となっている。

 作品を見るために、多くの人が集まっていた。どのような絵を描くのか、大いに興味を持っているようだ。

 アカネは超能力を使って、住民の心の声を盗むことにした。自分の描いた絵に対する、まっとうな評価を知りたい。

 住民の心の声は、辛辣なものが多かった。

「下手というわけではないけど、誰にも書けるレベルかな」

「中の中の中の中といった感じだね」

「細部に雑な部分がみられる」

「色の使い方をわかっていないのかな」

「立体を描くのが得意ではないのかな」

 大人の評価がマシに思えるほど、子供は辛辣な評価を下していた。

「下手」

「駄作」

「展示するレベルではない」

「俺の方がうまいくらいだ」

「才能のかけらもない」

「失敗作」

 自分ではわかっていたものの、人からいわれるのは訳が違う。アカネの心に大きな釘が撃ち込まれることとなった。

 一部の住民からは肯定的な意見も寄せられた。

「アカネさんの優しさを感じる」

「心を和らぐような気がする」

「素人らしさが、親近感を感じさせる」

「ストーリー性があっていい」

「絵のモチーフが輝いている」

「温かさがある」

 ある程度の評価をきければ充分である。アカネは心を読む力をストップさせることにした。

 ミライの作品の前には、たくさんの人が集まっていた。彼女の描いた世界観は人を惹きつけることができる。絵の才能については、アカネの数段上にいる。どんなに手を伸ばしたとしても、届くことはないと思われる。

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