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伝説の魔法使いの霍乱 その3

 ……え~、とにもかくにもすごかったです。
 
 そうですね、その一言尽きると思います。

 僕とサラマンダー化したパラナミオが魔法風邪ウイルスの本体に向かって突っ込んでいったわけですが、その際に

 スアのお弟子さんの、ドラゴンの魔法使いことドラコさんと、その背にのって駆けつけてくださったバテアさん

 ナカンコンベから龍化して駆けつけてくれたファラさん

 ブラコンベからは、魔王ビナスさんとその内縁の旦那さんである勇者ウインダさん
 さらに、もう1人の内縁の奥さんである魔王ミラッパさん

 辺境駐屯地からはゴルアとメルアが騎士団を率いて駆けつけてくれました。

 と、まぁ、気がつけばすごい数の面々が、巨大化していた魔法風邪ウイルスに攻撃をくわえていた次第でして……

 下手に魔法を使用しようとすると、この魔法風邪ウイルスがその魔力を吸い取って自らを再び巨大化させてしまいますので、皆、物理攻撃に終始していました。

 その際、僕はコンビニおもてなし本店の倉庫から電池式のスピーカーを持ち出しまして、

『みなさーん! 魔法の使用はご遠慮ください! 魔法風邪ウイルスがでっかくなってしまいます!』
 そう声をあげました。

 これが功を奏したみたいでして、僕の拡声器以降、魔法風邪ウイルスの縮小化が加速していきました。

 ファラさんとドラコさんのドラゴンコンビのブレスが一番効果的な感じでしたけど、イエロ・セーテン、それにミラッパさんの問答無用の物理攻撃もすさまじかったです。

 腕をぐるんぐるん回しながら
「スーパー大車輪ミラッパパーンチ!」
 と叫びながら魔法風邪ウイルスに突っ込みまくっていくミラッパさん。
 
 ……ただ、彼女の場合、時折ゴルア達辺境駐屯地の面々まで巻き込んでいたのがちょっとあれだったのですが……

 そして、もちろんパラナミオも頑張ってくれました。
 ファラさんやドラコさんにはまだまだ見劣りしますけれども、かなり豪快な火炎を吐いて魔法風邪ウイルスを攻撃し続けていました。
 
 僕的には、今日のMVPをパラナミオにあげたいと思った次第です。

 過分に親馬鹿が混じっているのは、重々承知しております、はい。

◇◇

 そんなわけで、1時間……

 ようやく魔法風邪ウイルスがほぼ消え去りました。

 森の中ではみんなが、ある物体を取り囲んでいました。
「……こいつが、魔法風邪ウイルスの本体?」
 そう言った僕の前には、黒い球体が浮かんでいます。
 それは、先ほどまでここに存在していた魔法風邪ウイルスの小型版といった感じの物でした。
 
 拳大程度の大きさのそれは、みんなに取り囲まれてどこかビクビクしているようにも見えます。

「こいつは結構貴重なんだ。魔法風邪ウイルスの本体が捕縛されることは滅多になくてね、たいがいの場合はみんなで駆除している間に逃げられちまうもんだから」
 テリブルアは、そう言いながらフラスコのような入れ物を取り出し、その中にその魔法風邪ウイルスの本体を閉じ込めてしまいました。
 コルクの栓みたいなもので、最後蓋をしまして、
「……よし、これで魔法風邪ウイルスは完全駆逐だ」
 その顔に笑顔を浮かべました。

 同時に、周囲に集まっていた皆さんから歓声があがっていきました。

◇◇

 魔法風邪ウイルスが捕縛されるのと同時に、あちこちの魔法が正常に稼働し始めました。

 消えていた街道の魔法灯が灯り、コンビニおもてなしの中にある転移ドアも復活しました。
 これを受けて、ハニワ馬のヴィヴィランテスが、慌てて各地のコンビニおもてなし支店・出張所へ品物を届けに行ってくれた次第です。

 魔石コンロも使用出来るようになりましたし、魔法袋の中から品物を取り出すことが出来るようにもなりました。

 定期魔道船も、埋め込まれている魔石のパワーが蘇ったらしく、朝一から通常通りの運行を開始できた次第です。

 ……しかしあれですね。

 今回の一件で改めて実感したのですが……この世界における魔法っていうのは僕が元いた世界における電気並にあれこれ普及していたんですねぇ。

 魔法がないと電気はつかないし、コンロも仕えない。

 部屋の温度調節をおこなっている魔石も機能しなくなるので部屋の中も寒くなってしまっていました。

「……やっぱりここは異世界なんだなぁ」
 そのことを改めて実感した、今回の一件だったわけです、はい。

◇◇

 今回駆けつけてくださった皆さんを、僕はおもてなし酒場で接待させていただきました。
 不可抗力とはいえ、僕の妻のスアが風邪を引いたのが原因となって、そこを魔法風邪ウイルスにつけ込まれてしまったわけですしね。

「皆さん、今回は本当にお世話になりました」
 おもてなし酒場の厨房で、僕は皆さんに何度もお礼を言いながら、料理をドンドン作っていきました。
「いやぁ、当然のことをしたまでですよ」
 ゴルアが満面の笑顔でそう言いながらスアビールをグイグイ飲んでいます。

 ……まだお昼にもなっていないんですけどね。

 一番の功労者はなんと言ってもファラさんとドラコさんの、ドラゴンのお2人なのですが

 ファラさんは
「おもてなし商会の仕事があるから」
 と言って、魔法風邪ウイルスが捕縛されると同時にナカンコンベへ戻られまして。

 ドラコさんも
「私達も~、あれこれありますから~お気持ちだけいただきます~」
 そう言って、一緒にやってきていたバテアさんと一緒に帰っていかれました。

 お2人には、また機会があったら改めてお礼をいいたいと思っています。

 ちなみに、この感謝の宴の最中にスアが百年前に風邪を引いた際の話しを聞いたのですが……
 なんでも

「世界が崩壊寸前に陥ったとか、陥らなかったとか……何やらそんな記録が……」

 ゴルアが歴史書を確認しながら、その顔に強ばった笑みを浮かべていた次第です。
 ちなみに、その時具体的に何があったかまでは伝承されていませんでした。

 ……それがどういう意味なのか……少し考えてはみたものの、やはり僕の想像力では思いつきもしませんでした。

 これに関しては、いつかスアに直接聞いてみようと思います。

◇◇

 みなさんのお相手をあらかた終えたところで、僕は巨木の家へ戻りました。

 ベッドの上では、リョータ・アルト・ムツキの3人が、いつもの少年少女の姿に戻っていました。
 これも、魔法の力が戻ったからなんでしょう。

 一方、スアの頭上に巣くっていたあの魔法風邪ウイルスの分身みたいなヤツは、もういなくなっていました。

 そんな中……

 スアは、まだ風邪が治りきっていませんでした。
 ですが、すでに自分が作成した魔法の回復薬を服用していたそうでして、
「……一眠りしたらよくなる、わ」
 そう言いました。

 僕は、そんなスアの頭を撫でました。
「昨日はごめんね。配慮が足りなかった」
 そうなんですよね……いたした後、きちんと服を着るか、しっかり布団をかけて寝ていればこんなことにはならなかったかもしれなかったわけですから。

 今後のこともありますので、僕もこれからは重々気をつけたいと思っています。

 僕に頭を撫でられながら、スアは眠りに落ちていきました。

 こうしてみると、スアも普通の奥さんとなんら代わりがありません。
 
 そんなスアの頭を優しくなで続けていたのですが……そんな中、スアがカッと目を見開きました。
 ガバッと起き上がると、僕の額に手をあてがってきたのです。
「……旦那様、熱がある」
 そう言うや否や、スアは僕をベッドに引き込みました・

 ……言われて見ればそうですよね……同じ条件下で一緒に寝ていたわけですから、僕も風邪を引いていてもおかしくないといいますか……

 で

 スアは、慌てた様子で魔法を駆使し、置けに水を入れたものを取り寄せ、同時にタオルも取り寄せてきました。
 その水でタオルを濡らすと、それを絞って僕の額にのせてくれたスア。
 同時に、回復魔法を次々に使用してくれています。

 ……っていうか、なんかもうそれだけで十分元気になった気がするのですが、僕が起き上がろうとする度にスアは
「……治りかけが大事」
 そう言って、僕をベッドに寝かし続けた次第です。

 なんか……そんなわけで最後はスアと僕が入れ替わってしまったわけですが、

 スアの風邪はお昼までにはすっかり完治し、

 僕も、夜にはすっかり元気になっていた次第です。

 ……なんと言いますか、ホント健康が一番と言うことを改めて実感した出来事でした。

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