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3-7

「初心者向けのダンジョンはこの地域にいくつかあるけど、今日向かうのはそこから一段分、難易度を上げたダンジョンだ」

 ダンジョンに向かう道中、ネアが私たちに説明をしてくれる。
六人乗りの大きなボックスカー。運転するのは大久保雄大。

「私たちが入れるダンジョンを初心者向けばかりにしなかったのって、何か意図が?」
「恐らく、初心者向けばかりに潜られていると、一部ダンジョン内の混雑やトラブルが絶えないから。それと、納品される品が初心者向けにばかり偏るのを恐れているんじゃないか」

 ネアが考察を入れると、結衣ちゃんが感心したように頷いている。

「ネアさんって物知りなんですねっ」
「いや、これはそこにいる雄大の入れ知恵だ。物知りだとしたら雄大だよ」
「ゆうにい! 物知り!」

 きゃぴきゃぴとはしゃぐ結衣ちゃんの姿が、遠い昔の誰かに重なる。
記憶の中にいる誰かは、無邪気な顔をして、誰かを『にい』と呼んでいる。

(あれは、だれだった……?)

「あ、そろそろ到着みたいよ。ふたりとも、準備して」
「はい」
「はーい!」

 瀬名さんの促しで、私はリュックを背負い直す。
ダンジョンには、入口近くに更衣室のようなものがあると聞く。
そこで装備を変えたり、コインロッカーに持ち込まない荷物をしまったりできるのだそう。
たまに、そういった設備がないダンジョンがあるらしいが、そういうところには個人車の中に持ち込まない大荷物等をしまって、しっかりロックをかけて向かうことになるようだ。
だから稀に、車上荒らしに遭うこともあるらしい。

(まあ、高校生の内はそんなダンジョンには、そもそも制限がかかって行けないけど)

 今のところ、私には関係の無いこととして、頭に留めておくだけにする。

「じゃ、男連中はあっち。わたしたちはこっちよぉ」

 更衣室は性別別に分かれ、壁とカーテンで仕切られている。
更衣室の奥にはコインロッカーがあり、その大半が既に使われている。

「コインロッカーは基本的に一パーティーでひとつ使うのがマナーだから、覚えておいてねぇ」

 どうしても入りきらない場合は、仕方なく二つ以上使う場合もあるらしいが、そんな大荷物は基本、車の中に置いておくのもマナーのひとつだとか。

「例えば荷物が全部純金で入りきらないから安全のために二つ使うとか。でも使ったとして、そんなレアケースだけだから、基本は貴重品はロッカー、盗まれても特に痛手の無いものは車ねぇ。全部入るなら、全部入れちゃえば安心よぉ」

 鍵はダンジョンの受付で預かってもらう。
あらかじめ、ダンジョンに潜る日数を申請し、その日数からプラス二週間で戻らなければ死亡したものとみなし、コインロッカーの中身はすべて処分されることになるのだとか。
危険物を除いて、基本は中古市場に流される。

「あ、恵美さんそのポーチ可愛いぃ!」
「これね、見た目以上に物が入るポーチなんだって」
「あらぁ、これ、マジックポーチじゃないのぉ」
「マジックポーチ?」
「魔道具のひとつねぇ。特殊な加工や付与がしてあって、見た目の質量保存の法則を無視して物が入るのよぉ。例えばポーチひとつで、リュック五個分のものが入ったりとかぁ」
「え、すご」

 買った本人だが、思わず呟いてしまう。
改めて、とんでもない品をとんでもない値段で売ってくれたものだと、河野さんに感謝する。
脳内のイメージ河野さんが、『絶対領域(ユートピア)ー』と言って消えていった。

「結衣ちゃんの武器、なんかすごい重そうだね」
「えー? 持ってみますー?」

 そんな河野さんを頭から消去すべく、首を振りながら結衣ちゃんの方へ向けば。
彼女が長袋から取り出したのは、鞘と持ち手を一体化させるようにぐるぐる巻きにされた長剣。
装飾もそれなりに付いていて、見ているだけで重そうだ。
片手で軽く手渡されたものだから、同じく片手で受け取ると、見た目通りにすごく重い。
慌てて両手に持ち替える。

「結衣ちゃん?! これすっごい重いんだけど?!」
「えへへー。あたしのジョブって剣士なんですけど、剣士だと長剣の重みってそんな関係ないみたいなんですよねぇ。それ、ゆうにいも重いって言ってましたもん」

 ここにきて結衣ちゃんのジョブが判明した。
ジョブは武器の装備に関して補正が付くということなのだろうか。
質問しようと瀬名さんの方を見ると、彼女はいつの間にか、身の丈ほどもある大きなハンマーを持ち上げていた。

「せ、瀬名さん!?」
「はぁいぃ?」
「うわぁ、それ、どこから出したんですかっ!」

 どこにしまっていたのか分からないそれ。
それを軽々と持ち上げている瀬名さんは、結衣ちゃんの質問におっとり答えている。

「実はわたしもマジックポーチを持ってるのよぉ。ダンジョンの宝箱に入ってたやつなんだけどぉ、トラック一台分くらいは入ることが判明してるわぁ」

 ものすごい代物だ。
そう思うと同時に、どうやってそんなハンマーを持ち上げているのだろうか。
そのことが気になった。

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