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3-6

「どうした、メグ」
「……ううん、なんでも」

 ネアを見つけ近寄って来る二人組が二組。
全く知らない人が一組と……。

「……どうも、大久保サン」

 固い調子で挨拶をすれば、途端に見開かれる男の目。

「恵、美」

 大久保(おおくぼ) 雄大(ゆうだい)
私は彼が大嫌いだ。

 彼がなぜここにいるのか、どうしてこんなところで会うのか。
たしかにネアが同行者がいるって言った時に了承したのは私。だけど彼が来るなんて聞いていない。

 思考が頭の中をぐるぐる巡る。
マイナスな考えに傾きそうになった私を、現実に引き戻してくれたのは、彼の背後からひょっこり顔を出したひとりの女の子。

「あ、恵美さん!」
「結衣、ちゃん?」
「はい、結衣ですー! わぁ、嬉しい。ここで恵美さんに会えるとは思わなかった!」

 後藤結衣ちゃん。
以前探索者試験で同じ班になった時には、少し幼く見えるツインテールをぶら下げていた彼女。
今はさっぱりと、ショートカットまで切り揃えられていた。

「知っている子か?」
「うん。探索者試験で同じ班になった子」
「そうか。メグ、俺は少し引率者同士で打ち合わせをしてくる。ここで待っていてくれ」
「わかった」

 ネアは私の返事を聞いて、大久保雄大、他二人と一緒に、少し離れたところまで歩いて行った。

「どうしたの、その髪」

 必然的に二人きりになった私たち。
私はここぞとばかりに、彼女の髪の理由を聞いた。
彼女は紙を指先で弄びながら、あっけらかんとした様子で語る。

「これですか? これ、あたしがどうでもよくなって切っちゃったんです」
「どうでもよくなった?」
「はい! 実はあのグループの中で、探索者試験に落ちちゃった子がいたんですよ」

 からっと太陽のように言うものだから、あまり深刻に受け止めることができない。

「それで、グループの仲が気まずくなっちゃいまして。それなら、もう、いいかなって思って。キャラ付けしていたあの髪も、バッサリ切っちゃいました」
「それは……思い切ったね」
「でも、そんなに悪いことじゃなかったんですよ。グループを離れて必要以上に気を遣う必要もなくなって。屋上で風に当たりながらお弁当を食べている時の、空の綺麗さも分かりましたし」

 彼女の顔色は明るい。
本当に、気にしなくなったようだ。

「うん、すごくいい変化だと思うよ」
「え?! そうですかぁ? えへへ、なんか嬉しいです」

 照れたように笑う彼女は、もう心配ない。
そう思わせてくれた。

「あ、そうだ! 再開の記念に写真撮りましょうよ!」
「それは変わらずなんだね……」

 ふたりでツーショットを撮る。
私の顔は隠すという条件付きで、SNSの投稿を認めた。

「……結衣ちゃんの学校って、まだ夏休みじゃなかったんだね」
「補講があったんですよー。全員参加の」
「なるほど」

 結衣ちゃんが写真を加工している最中に、打ち合わせが終わったのかネアたちが戻ってきた。

「今日向かうダンジョンと、階層を決めてきた」

 向かうダンジョンは、ここから車で一時間の所にある山の中。
私達でも入れるダンジョンの、地下五階まで向かうという。

「そこの掲示板に、『凍結イチゴ』の納品があったんだ。ちょうど二人が入ることのできる場所だから、向かうことになった」
「うん。ネア、よろしくお願いします」
「ああ。承った」

 ネアは、クールな第一印象とは裏腹に、実によく笑う青年であったことが分かってきた。
今も笑みを浮かべ、穏やかに私を見下ろしている。

「今日はお忙しい中、引率を引き受けてくれてありがとうございます。よろしくお願いします」
「あ、お願いします!」

 ネアを含めた先輩探索者の人たちに再度頭を下げると、倣うように結衣ちゃんも頭を下げた。

「よろしくねぇ。えぇっと、恵美ちゃんと、結衣ちゃん?」
「はい、私が恵美です」
「結衣はあたしです!」

 もう一組の、顔も名前も知らない二人組は、女の人が瀬名《せな》さん、男の人が由人《よしと》さんと名乗ってくれる。
ふたりは夫婦らしい。
一時流行った、ダンジョン婚というもので結婚したと言っていた。
 先輩探索者の面々はみんな面識があるらしく、お互いの自己紹介はしていなかった。

「オレは大久保雄大。結衣とは従兄だ。その、よろしく」

 大久保雄大、彼は主に私の顔色を窺いながら自己紹介をする。
それがなんとなく気に入らなかった。

「どうぞよろしく」

 手短に挨拶をし、ふい、と視線を外す。
視線の先に不安そうな表情を浮かべた結衣ちゃんがいて、苦笑いを返した。

「ちょっと大久保さん、少し話したいことがあるんですが」

 そう言って手招きし、結衣ちゃんやネア、瀬名さんにも由人さんにも話し声が聞こえないところまで移動する。

「……久しぶりだな」
「ええ」
「カナタは、元気か?」
「おねえちゃんを守ってくれなかった元カレに言うことはありません」

 またもそっぽを向きそうになる首を抑えて、だけど。と続ける。

「今日は引率をしてもらうので、チームとしてよろしくお願いします。私もできるだけ、確執の無いように過ごすので」
「そうか。それは助かる」
「あくまでチームとしてです。結衣ちゃんのためでもあるので」

 それじゃあ。と軽く会釈をしてみんなの元へ戻る。
結衣ちゃんに何があったのかと聞かれたけれど、何もないよと誤魔化しておいた。

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