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協力

フランカの問いに、先頭に立っているギリーが答えた。

「はい。様々な世界を渡ってきて得た私たちの知恵を生かし、微力ながらも力添えをしたいと思いまして」

 その答えにフランカは難色を示す。

「捕らえておいてこのようなことを聞くのは不躾だと承知の上で質問させてほしい。なぜ我々に力を貸してくれるのだ?異世界を渡るそなたらにとっては我々なぞただの一種族に過ぎないのでは?」

 確かに有無を言わさずに捕まえられた者が、その捕縛者であるエルフたちに協力するというのは傍から見ればおかしな状況なのかもしれない。だが。

「困っている者がいれば助ける。それが私たちの旅における信条です。もちろんそちらにとって迷惑でなければ…ですが」

 フランカは目を閉じ、少しの時間を置いたのち、再び口を開いた。

「そうか。感謝する。どうか、このエルピアンタに力を貸してくれ」

 三人は皆、口元に笑みを浮かべて頷いた。

「それでは、その間の住居についてだが…」
「その点についてなんですが、一つ、提案をしてもよろしいでしょうか?」
「聞こう」
「私たちがさっきまでいた、あの部屋を使わせてもらうというのはどうでしょう?」
「…よいのか?」
「ええ。他の住民の方の住まいを借りるのは申し訳ないですし」
「分かった。ではあの部屋の鍵はそなたらに預けることとしよう」

 そうして、三人はこのエルフの住まう世界にて、住居を手に入れたのだった。



 三人はフランカとの謁見を終え、アルフィオの案内でエルピアンタにおける様々な場所を見て回っていた。

「ここが食堂だ」

 そう言って案内されたのは、同じくらいの大きさをした3本の大木。ここは周囲の樹上の部屋とは違い、地上にある。が、やはり作り出したというよりは木そのものがそういう形を取っているように見える。
 アルフィオはそのうちの1本の元へ向かい、扉を開ける。人が50人は軽く入りそうなほどに大きな広間に、テーブルと椅子が配置されている。ただ、ここは木がその形をとっているのではなく、これまでの世界で見てきたものと相違のない人工物だ。この違いは一体何なのだろうか。

「広い!みんなで食べられるようになってるんだ」

 ルーチャが食堂の内装を見渡しながら言った。

「ああ。毎日三度決まった時間に笛の音を鳴らし、ここに集まって食事をとるんだ」

 カウンターへ歩いていくと、食事の準備をしているおばちゃんと目があう。長い黒髪に黄色味のかかった肌。エルフと言ってもなかなかに特徴が多彩で、切れ長の目ととがった耳以外は異っている場合がほとんどだ。身に着けているのは割烹着で、葉の軽鎧やドレスとの緩急が大きいが、こちらが本来の生活様式なのだろうか。
三人が会釈しようとするよりも前におばちゃんが口を開く。

「へえ、この子たちが新しく来た子かい。あんた達の分も作るから、また時間になった時にここにいらっしゃい!」
「はーい。ありがとう!」
「いいのよ!今日も腕を振るってごちそうするからね。楽しみにしてらっしゃい!」

 おばちゃんがこちらに笑いかける。思わずこちらの顔もほころんだ。どんな料理が出てくるのか、楽しみだ。そうして、軽くあいさつを交わした後、食堂を出た。

「ここにある三本の木ってどれも食堂になってるの?」
「ああ。場合によっては出す料理の種類を変えたり、祭りの時なんかはそれぞれの場所で異なる料理を作ってバイキング形式で食べたりなんかもするな」
「ば、バイキング!ねえねえ、その祭りっていつ行われるの?」
「そうだな。一週間後に妖精祭があるが、現状のままでいくと中止か延期か…」
「妖精祭?」

 ルーチャが質問する。ギリーとレストリーも、聞いたことの無いその祭りに興味を向けた。

「ああ。我々の生活に欠かすことのできない植物は、妖精たちによって作り出されてきたと言われているんだ。その妖精たちに感謝を込めて様々な音楽や舞、料理を奉納するという祭りなのだが…もし祭りの最中にバームルなんかが現れてしまえば一巻の終わりだ。感謝を伝えるために、命を懸けてしまうようなことがあっては元も子もない」
「そういうもんなのか…」

 レストリーが呟く。そのつぶやきを聞いて、ギリーが尋ねた。

「レストリー、どうしたんだ?」
「いや、オレが本で見た祭りのは大体『生贄』とか『供物』とか言って命を差し出すようなものが多かったんだ。だから、祭りってのはもっと恐ろしいものだし、それをやる奴らってのはもっと頭がぶっ飛んでるもんだと思ってた」

 なかなかに素直な感想だ。世界ごとにおける文化の違いというものだろうか。ギリーの島でも祭りというものはあったが、どちらかと言えばここの世界の方式に近く、どんちゃん騒ぎをやったりするものだと思っていた。レストリーの世界の祭りというものは随分と物騒なものなのだろうかと想像していると、アルフィオが興味深そうに尋ねる。

「生贄、とはなんなんだ?」
「祭りでの対象への供物として、生きた動物を供えることだ。その供物を人間にして行うって書かれていたものがあって、怖気がさした」

 本を読んでいた中で身に着けた知識との齟齬を感じながらも、苦虫をかみつぶしたような顔をして話す少年を見て、アルフィオは笑った。

「はっはっは。私たちの世界ではそんなことはしないよ。価値観の違いがあるのかもしれないな。私たちが祭りで重視しているのは『感謝を伝える』こと。だが、君の世界では『供物をささげること』に重きを置いたのかもしれないね」

 顎に手を当てながらアルフィオは自身の推測を話す。

「感謝を伝えるという行為は命あっての物種だ。それに対して供物をささげるというのはまた違う。命を軽んじているわけではないのだろう。逆に命が最も価値あるものだと思うからこそ、それを捧げればより恩恵が受けられると考えたのかもしれないな」

 エルフたちには「命あってこそ」という考えが根底にあるのだと感じながらも、三人はその話を聞いていたのだった。

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