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異世界から来ました

異世界から来た、と伝える。その結果は…

「ど、どういうことだ?」

 まあ、そうなるよなと思いながらも三人はエルフの男が眉を顰めるのを見ていた。だがこれ以外の回答のしようがないというのもまた事実。たとえ作り話をしようといったって、そもそもこの「木の牢屋に閉じ込められている」「エルフがいる」「監禁されている」程度の情報では材料がなさすぎる。

「こことは違う世界というものがあるんです。そこには銃というものがあったり、魔女がいたり…皆さん、魔法というものはご存じですか?」

 そうして普段と異なる口調で話しながらはにかむギリーを見て、他の二人は黙ったままそちらを見ている。確かに大人しくしていてくれると助かるが「何か違う…」みたいな顔でこっちを見るのは止めてくれないだろうか。

「魔法?なんだそれは」

 エルフたちはいっせいに首をかしげる。ならば実践で示すのみだ。魔法はこうして異世界から来たという証明にもなる。なかなかに便利な技だ。
 燃え広がるのは危険なので水の魔法で。

「いきますよ…ウォル!」

 ギリーが唱えるとともに半身大の水球が…出なかった。

「ウォル!」

またしても出ない。この体だと難しいのか?と思ったギリーはルーチャに伝える。

「ルーチャ、やってみてくれないか」
「分かった」

 そう言って少女も同様に唱えてみるが、魔法は出ない。このままでは「魔法が使えると信じる悲しき一般人」になりつつあると判断したルーチャは話を切り替える。

「と、ともかくボクたちのいた世界は文化も技術もあなた方の世界とは違うんです。えと、砂漠とかって知ってますか?」
「さ、砂漠?伝承の産物ではないのか?」

 エルフたちが聞き返す。予想だにせず、彼らの反応が大きい。この世界にはそんな場所は存在していないのだろうか。ルーチャが話を続けていく。

「辺り一帯が砂で出来ていて、ここの立派な気のような初期う物なんて見当たらないんです。じりじりと太陽の照り付ける中、歩いて、歩いて…」

 そこまでいって少女はため息をつく。長い距離を歩いてきた記憶がよみがえり、げんなりしているようだ。確かにずっと歩きっぱなし、ゴールも見えないあの道中を思い出したくないのは分かる。そしてルーチャは自身の衣服についている砂粒を払ったり、靴を脱いで中に入っている砂を地面に落とし、手ですくって格子越しに示し、パラパラと振りまいた。

「これがそこで浴びていた砂です」

 恐る恐る手に取るエルフたち。ただの砂粒を目の前にかざし、宝石でも鑑定するかのようにしているその様は傍から見るとなかなかにシュールだ。捕まっている手前そんな素振りは一つも見せないが。そうして小さな砂に夢中になっているエルフたちを他所に、ギリー達はこそこそと話し合う。

「なんで銃を見せなかったんだ?」
「あれは使い方を変えれば人を殺められるものだ。使い方が分かっているのならあっちに武器を渡すことになるし、分からないならそれはそれで危険だ。よく分かんないまま暴発して、とか壊して、とかになったら洒落にならないからね」
「あれって音を出す道具じゃないのか?」

 レストリーにはそう言っていた。あの時は如何せん信用が得たかったがために嘘をついたということを二人が伝える。

「まあ何もかも正直な話をすればいいって話じゃないからな…」

 そう言いながらもレストリーはすんなりと飲み込んだ。

「ふむ、まあここにこのような砂粒のかかるような場所はない。ひとまず信じようか」

 そうして異世界人であることを証明した三人に、さらなる質問を投げかけようと男が口を開いた瞬間―――



 ズシンと地鳴りがあたりに響く。グラグラと地面が揺れ、部屋にいる皆がよろける。揺れが収まったと思うとまた地鳴り。揺れてバランスを崩す。

「な、何が起こって…」

 そう言いかけたギリーはエルフの男のしぐさを見て、口をふさぐ。男は口元に人差し指を立てている。文化の違いがないのであれば、これは「静かに」の合図。実際にエルフたちは声を挙げずに静かにしている。その様子を見るとこの判断は間違いなさそうだ。

 そうして静かに地鳴りが終わるのを待っていた。音も揺れも次第に小さなものとなっていく。

 完全に聞こえなくなったところで、ギリーがさっきの現象について尋ねる。

「あれはなんなんだ?」

 エルフの男は少し悩む素振りを見せたのち、隠しても意味がないだろうと周囲と話し、三人に向かって説明を始めた。

「奴はついぞ最近に現れた木の『変異種』だ」
「「木?」」

 二人は首をかしげる。木が変異した。だがそれだけで地響きが起きたりなんかはしない。ということは…

「歩くようになったとか?」
「そうだ」

 笑うところなのだろうか。いや、彼らは真剣な話をしている。それにここいらの木は大きいように見える。これほどまでの幹の頑丈さ、長さを持つ木をそのまま伸ばせば、天にも到達してしまいそうで。これが歩くと考えると、もし目の当たりにしたときは恐怖でしかないだろう。

ここは、なかなかにシビアな世界のようでーー

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