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木の感触

そうして、三日目、四日目と過ぎていき、一週間を過ぎる頃。

 食料は無くなり、水だけで耐えしのぐ日々。皆疲れが蓄積し、口数も少なくなっていっていた。景色も変わることがないために、こっちでいいのかという迷いを何とか振り払いながらも進んでいる。足を止めて休んでもよいが、空腹が歩けと訴える。
日が沈み、なんとか歩ききることが出来たと三人は腰を下ろして休息をとる。テントの設営もここまでくれば慣れたものだ。魔法で作り出した水を喉に流し込みながら、皆テントに寄りかかって話をする。今日は異世界から来た二人についてレストリーが質問をしている。

「ギリーの転生とルーチャの転移についてはどこまで分かってるんだ?」
「オレの転生については2つ。オレが何らかの理由で命を落としたときに、命を落としかけている人間の体に転生するってことと、異世界に移動したときにその世界に応じた体になっていることだな。現状一世界につき一回きりで他人の体へと転生する」
「その世界に応じた、ってのは前言ってた魔女の姿とか今の姿とかか」

 道中、レストリーに過去の話を教えていたため、魔法を修得した経緯や魔女という存在がいたことは既に伝わっている。

「そうだな。ただ『異世界移動での転生』はともかく、『俺が死んで転生する』ってのは可能な限り引き起こしたくない現象だ。それをオレの能力だとするにしても、転生先が選べるわけではないし、その転生した体の主には必ず家族がいるはずだ。傍から見ればオレが体を乗っ取ったように見えるし、身近な人であればあるほどその家族に合わせる顔なんてない。この現象が起こることにおけるメリットが自己中心的すぎる」

 これまでは敵兵の長や魔法を使いこなす魔女といった体に移っていたため、状況に対して有利にはたらいたりしたが結局この力のメリットは「他者の死の淵を踏んで自身を延命する」というところに終始する。喜んでこの力を受け入れるのは正気の沙汰ではない。

「それにそもそも『死ぬ』ことがトリガーになってるってのも失敗を考えた時のリスクが高すぎる。いろんな意味で試すことが出来ないってのが嫌な点だな」

 ギリーの正直な感想だ。
三人で話し、まとめた結果、彼の転生は「世界間転生」と「世界内転生」の二種類あり、世界間転生はルーチャの転移に伴って、世界内転生はギリーの死に際して起こる。世界間転生の回数に現状制限は見られないが、世界内転生の回数はギリーのいた島で一回しか起こらなかったことから、一世界につき一回という結論となった。

そして三人の話題はルーチャの異世界転移についての話に移った。

「ボクの異世界転移についてはトリガーが『ボクの命が消える』のと『この世界から出たいと思う』ことかな。少しわかってきたのは、転移前に見てたり話してたりしたことが異世界の特徴に反映されてる気がするってことかな」
「そうなのか?」

ギリーが尋ねる。彼は二度ルーチャと異世界に来ているが、転移前と転移後にどちらも生きていたという状況は一回しかない。

「うん、魔女の世界に行ったときは転移前に鳥籠を見ていた。この世界に来る前は山の話をしてた。もしかしたら転移前のイメージでどんな異世界に行けるのかある程度決められるのかも」

 その話を聞いていたレストリーが目を輝かせる。

「へえ、そうなのか!もし俺が行くんだったら…ジャングルとか行ってみたいな。いろんな植物が生えてるんだよな」

 少年があこがれを口にした。レストリーの描いていた岩の絵の中に植物の絵が多かったのは、緑の無い村で育ったが故なのかもしれない。ルーチャがそんな少年に答える。

「そうだね。こことは真反対みたいなとこかな。虫がいっぱいいるだろうからボクはあんまり…」
「なら『虫のいないジャングル』とか想像してみればいいんじゃないか?」

 だんだんと皆の意識が空想に寄っている。もしかするとこれがトリガーなのか?
ギリーはそう思ったが、実行しようというのも気が引ける。水を生み出せるギリーやルーチャが残るならともかく、未だ魔法が使えないレストリーを一人置き去りにする可能性があるからだ。この砂漠のど真ん中、この疲労度で置き去りになった場合は最悪だろう。

「ともかく、今日は寝よう。明日に備えるぞ」

 そう言ったギリーの声に応じ、それぞれテントに入り、眠りにつく。肌寒さを感じながらも皆疲れに負け、眠りに落ちていったのだった。



 そして、目は覚める。

 突然漂う木の香り。砂漠では決して感じることのできない、生命力あふれる緑のにおいだ。

異世界転移が起こった。そう理解したギリーは勢いよく体を起こす。目に映るのは木の天井に壁。それも人が作り上げた板張りのものでなく、木そのものが部屋の形をとっている。こんな木は見たことがない。

そしてここは歓迎のための場所なんかじゃない。木の幹が幾重にも重なりあって瓢箪型の部屋を二つに分断している。その様相はまるで牢屋。

辺りを見渡すと、間もなく男の声が聞こえる。

「起きたか」

 新たな世界はオレ達を歓迎してはくれないようだ。

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