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ルーチャという少女

一日が終わり、皆各々の部屋へと帰っていった。
 ルーチャとギリーはそれぞれのベッドに座っている。
 ギリーが口を開いた。
「なあルーチャ」
「ん?」
ずっと聞きたかったことがある。ちょうどいい機会だ。
「気になってたんだが、ルーチャは一体何者なんだ?」
「そっか、まだ話したことがなかったね。」
「ああ、なかなか聞く機会がなかったからな」

ルーチャは話し始める。
「ボクはジークネフトっていう国で生まれた普通の人間だよ。ここの鳥籠とかギリーの島と比べることが出来ないくらい大きいんだけど、世界の端が分厚い壁で阻まれてる」
「だからここに来た時、安心するって言ってたのはそういうことか」
「そうだね」
「あのスタンガンと狙撃銃はそのジークネフトのものなのか?あんなものがあふれてる世界ってのは随分と恐ろしそうだが」
ギリーはベッドのすぐ近くにあるテーブルに立てかけられた、黒い鞄を見ながら言った。
「ううん。そういうのを持ってる人はほとんどいないんだ。銃なんかは許可なく持ってたら捕まるし。むしろ平和な方だよ」
「てことはルーチャは…」
「『許可をもらった方』だよ!ちゃんと合法で持ってるの!父さんに取らされてね…」

「父さん?」
「そう。銃が大好きで、趣味で改造したりしてた」
少女が狙撃銃を鞄から取り出す。
「これはボクが誕生日の時にくれたんだ」
ギリーの方に持ってきて、手渡した。なかなかに重い。
ルーチャが撃った時のように構え、スコープを覗くと様々な数値が見える。
「狙撃銃ってこんなに数値が書いてあるのか?」
「いや。これは父さんが作った特別製だね。世界に一つって豪語してたけど、実際そうかも。風速、距離とか数字の意味さえ分かれば、誰でも当てられるようになってるんだ」
ルーチャが続ける。
「ギリーの島でボクが撃った時百発百中だったのは、その銃だったからこそだ。他の狙撃銃じゃ、ああは上手くいかないよ」
「へえ、ルーチャの父さんはすごい人だな」
「変人って言葉の方が似合うかな…」
そうは言いながらも、ルーチャは少し嬉しそうだ。

狙撃銃をルーチャに返す。鞄の中には、撃ちだすため弾となる注射器が複数個とスタンガンが2つ入っている。注射器の中にはベーゼの根の液。彼女は『マスイ』と呼んでいた。
「あのベーゼの根のことも父さんが?」
「ううん。お母さんがそういうのを扱ってたから知ってたの。因みに持ち出すのはアウトだから、ジークネフトにあったときは何も入ってなかったよ。父さんは何度か持ち出そうとしたらしいけど…」
「ルーチャの国はいろいろと制限が多いんだな」
「そうかもしれないね。でも、そうやって多くの制限を付けていったからこそ、平和が保たれてるんだ。不自由を感じない程度にね」
「不自由を感じない、か」

ギリーは島での出来事を思い出す。兵士たちからの扱いは不自由そのものだった。奴らが銃さえ持っていなければ、人質を取られたりしなければ、きっとルーチャが来なくても逆らっていただろう。制限というのは毒にも薬にもなる。

「そのスタンガンは?」
「こっちはボクが作ったので、こっちが父さんの作ったやつ」
二つとも手にもってボクの、父さんのと示したが見分けがつかない。
「ボクがこれを作ったのを見て、父さんがこの鞄に入れられる場所を作ったんだ。そしてもう一つ同じのを作った」
「同じのを?」
少しの間があったのち、返事が返ってくる
「…二つあったほうが良いってね」
 「ルーチャの親父さんって何者なんだ?」
 「エンジニアって言ってね。そうだな、ネロが作ったような機械があるだろう?ああいうものを作る職業と思ってもらっていいかな」
 そういう職業があるのか。ルーチャの世界というのはきっと便利なものであふれているのだろう。ギリーにとっては、この世界で見たようなトースターやスプリンクラーといった装置を想像するまでが限界だ。

 話はルーチャの父親についてから彼女自身の話に戻った。
「ボクはそんな家族の元に生まれて、普通に楽しく過ごしてた。機械いじりに興味があったから、ボクも父さんと同じようにエンジニアになろうとしてたんだ。でもある日、余命を宣告された」
青年は目を見開いた。
「病にかかっている。治る見込みはない。あと一年だってね。絶望したさ。そこからは怒涛の日々だった。あれは間違いだった、治す方法が見つかったといって手術が成功したかと思えば、病気が再発して再び闘病生活に逆戻り。そして次第にボクの体は言うことを聞かなくなっていった」
少女が続ける。
「寝たきりになった。食べる気なんてさらさら起きない、体はだるい、呼吸をすることすら苦しい。そんな日々が続いていたある日、ふとすごく穏やかな気持ちになったんだ。ああ、ボクの人生は終わるんだな。そう思って意識が消えていった」

俯き、話していた少女は顔を上げる。ギリーの顔をまっすぐ見据える少女の目は、生きている。
「そしてボクは、異世界にいたんだ」

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