バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

パーティー

再開を祝して、バーディらの鳥籠もとい部屋で集まり、食べることとなった。
 今後どうするかは後々考えようとなり、ギリーもルーチャもパーティーの手伝いに参加する。
 魔女の一族が部屋にどんどんやってくる。老人から子供まで、傍から見れば親戚が集まってパーティーを開くようなものだ。実際、そうなのか?
 「ははは、それはないですよ」
 パーティーの準備をするバーディが答えた。何がとは言わないが少しややこしい。

 魔女たちは自身らを閉じ込めた人間であるはずのルーチャとギリーをすんなりと受け入れた。ギリーが転生者であることを含めて、だ。
魔女とは言っているが「全員女性」というわけではない。人間と同じように老若男女が存在し、傍から見ればただの人間だ。違うのは魔法を使うということだけ。だが、魔法を使う人間だから「魔人」という言葉をあてはめるのもまた違和感がある。銃で脅され、やむを得ず条件をのむという形を取りながら安寧の地を獲得した彼らのしたたかさ、そして過去に迫害を受けたにもかかわらず人間の相手を「人間」ではなく「一人の人」として見ることのできる優しさ、強さこそ「魔女」の名が示すものだと思ってる、そうルーチャが言っていた。

食事やテーブルをそろえ、皆庭に出そろう。
「私たちの開放に、乾杯!」
音頭を取ったのはマドリーだ。みなが持ってきたグラスを鳴らし、がやがやと話しながら食事をとり始める。食卓に並ぶのは皆がもってきた植物を調理したもので、食べ応えのあるものからみずみずしいものまで色とりどりにそろっている。

ギリーは辺りにいる魔女たちを見る。これは魔女の特徴なのだろうか、基本的に皆、顔が整っておりスタイルが良い。だが、皆似たような、という意味でもない。10人集めてそれぞれに自身の理想のルックスを想像して描かせるぐらいなら、彼らの似顔絵を描いた方が早い。それほどまでに人間の好みに合った身体的特徴を持っている。そしてバーディの言っていたような、赤、紫、青の髪が揃う。

遠くの方で歓声が上がる。歩いて近づくと、ルーチャが小さな火の玉を作り出すところが見えた。
「えへへ、みんなのに比べたら小さいけど…」
「いいや、人間で使えるってのがすごいんだ!」
「それにその若さでってのは天才かもな!」
「ぎ、ギリーに教えてもらえたからね」
陽気なおっさんやおばさんにべた褒めされ、照れている。
ルーチャの言う通り、魔女の皆が作り出す火の最大は人の顔ほどの大きさを誇る。不得意とされている青髪の魔女でも、こぶし大程度のものが作れるのに対し、ルーチャが作れるのは人差し指と親指で作る輪っか程度。この辺りは人間と魔女との差なのだろうか。

ちなみに火の玉を飛ばして相手に攻撃、なんてのは無理だ。立てた長いぼうっきれを手に乗せて落ちないようにするがごとく、一度作り出した火は不安定で、その場から動かそうとすればすぐに消えてしまう。そのため、地下通路を歩いていたときは何度もつけては消してを繰り返していた。松明でもあるものなら、そっちを持った方がよほど楽だ。
他にもいくつか魔法について分かったことがある。掌か指先につくるかは人それぞれだが、いずれも上に向けて放つのが最も作り出しやすく、手のひらや指先を下に向けて生み出すことはできない。横に向けたとしても、所詮指先にちろっと出るだけなので銃などを向けられればひとたまりもない。

魔女たちと話しながら、水の魔法も試みてみる。こちらも火の玉と同様、水の球が出来る。大きさも変わらない。人間の体であるルーチャも同様だった。やはり魔女よりも小さなものが出来る。ただ、生み出される水はいずれも澄んでおり、そのまま飲んでみても十分いける。彼らが植物を育てたり、飲んだりしていた水はこれなのだろう。
ルーチャは「ファム!」「ウォル!」と言いながら魔法を使ってるが、大きさが変化するわけではない。効果は特にない。しいて言うなら集中しやすくなる、とかだろうか。証拠に、というわけではないが魔女の一族が魔法を使う際はそのようにして「言葉とともに」使うことはない。

ふと思いついたかのような顔をしたルーチャは、突然皆にちょっとあっち行くね、と言って歩いていく。皆、次の出し物はと盛り上がっているのを尻目に、周りの目を窺いながらそそくさと人のいない場所に向かっていく少女。気になったギリーは、さりげなく彼女の元へ歩いていく。

ルーチャは誰もいないのを確認したのちうずくまる。静かに近づいたギリーはぼそぼそとつぶやく少女の声を聞いた。
「暗澹たる闇の帳を払うは清き焦熱の業火、焼き尽くせ、ファム!」
ぽっと小さな火が出る。やはり言葉とともに放っても大きさは変わらない。
並べ立てた言葉に魔法がついてくることはなく、なんとも言えない空気が流れている。
ギリーはそっと回れ右をし、歩いていく。なにか、声をかけてはならない何かを感じる。こちらが聞いていたことをに感づかれては…
「ね、ねえ」
肩にポンと手が置かれる。
 「お、オレは何も聞いてないぞ。ルーチャ」
早口で答える、が。
「な、なんで声を出してたことが分かるの?」
しまった。なら。
「あの言葉、かっこよくてよかったと思うぞ」
「違うんだ。ボクはただ…」
ルーチャは弁解を始めた。とても、早口だった。

しおり