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潜み行く

3人を隠す森は、次第に闇が深まっていく…
 ルーチャが言った。

「だけど頭を倒す前に、収容所をどうにかしないと人質が危ないね」
「ああ、まずはそこからだ」
「敵の情報が欲しいな。偵察して情報を集めたいところだけど…」
「無理だろうな。時間がない。約束が守られない以上、明日の建国祭が終わった後は収容所の島民の命が危ない」

ギリーの意見に対し、レザフも賛同する。

「もし建国祭の終わりと島民の『処分』に時間差があるとしても、明日の建国祭が終われば翌日は兵士の交代がある。村跡の2人の兵士を縛ったのがばれてワシら脱走者の捜索が行われて、大勢に見つかって、となるのが関の山だな」
「なら2人の数年前の記憶を頼りに考えるしかないか」

ルーチャが不安そうに言った。ギリーが答える。

「だが、兵士の動きにそう大きな変化があった様子はない。年を経ても兵士の配備は変わってないと考えていいだろう」
「そうだな。はて、何人だったか…」

二人が話し合い、ルーチャが地図に人数を記していく。

村跡には2人、収容所は12人、町は24人、港は10人と記された。

「ずいぶんと少ないね…島民は数百人いるんだろう?」
「島に来たばかりの頃は兵士が随分いたんだ。だが、奴らは銃を持っていることに加えて、収容所の増築、それと『自身ではなくほかの島民が殺される』という脅しが効いて、島民が大人しくしていたというのがあるんだろうな。そうして兵士の数が減っていった」
「だけどあの町、もう少し人がいるんじゃない?」

ルーチャは東に見える巨大な石壁からいまだ漏れる明かりを見ながら、ギリーに聞く。

「確かにいるが、そいつらは皆銃を持っていないし、戦えそうななりではなかった」
「旅行客のようなものかな。ならカウントはしなくて大丈夫そうだ」

そうして知識を共有し、島の奪還計画を立て始めた。
暗がりで話し合う3人をよそに、
東にたたずむ石壁の中は煌々と明かりを放っていたーーー

3人は森を北上し、収容所の見える位置にたどり着いた。
大きな小屋があり、その周りは四角形の形に石で囲われ、その上に有刺鉄線が張り巡らされている。四つの角にはそれぞれ見張り台が立っており、1つ角に対し兵士は一人。情報通りだ。
3人は皆、兵士から見えない位置に隠れる。ルーチャが持っていた黒い鞄を開け、黒く長い物体を取り出す。ルーチャ曰く「狙撃銃」というらしい。兵士たちの持つマスケット銃というものに比べ、はるか遠くの敵を狙うことが出来るそうだ。

消音器を銃の先につけ、静かに狙いを定める。
ルーチャは静かに引き金を引いた。
音もなく命中。見張り塔の上に立つ兵士が倒れる。
他の兵士が気付いた様子はない。

「次、行くよ」

こうして3人は暗闇の森を渡り歩き、収容所の四方にいる見張り兵を一人一人狙撃していった。

四方の兵士をすべて片付け、3人は収容所の外壁から入口をのぞく。

「入り口には2人、これも情報通り」

ルーチャは一人を狙撃、食らった兵士がばたりと倒れる。
ルーチャとギリーは気づかれないように森の中へ逃げ込む。
残ったもう一人の兵士が隣の兵士の異変に気づいたタイミングで、レザフがガサガサと音を立てる。

「な、なんだ?」

ザッザッと音を立てゆっくりと歩いてくる。失敗は許されない。
心臓が跳ねる。
角に兵士の体が見えた。
レザフはすぐにスタンガンを突き付ける。
兵士の腹に白い閃光が上がり、たちまちその場に倒れ伏した。

「よし!」

3人はすぐさま入口へ向かう。入口からのぞくと、兵士が二人見えた。
ルーチャが二人を狙撃を行う。命中。
倒れたのを確認し、入口にルーチャを残して二人で収容所内部に入っていく。
前方に大きな動物小屋が見え、右方向に少し大きな小屋を確認した。
動物小屋では、皆がぎゅうぎゅうに押しこめられた状態で眠っている。見知った顔がいくつもあるが、今起こすのは得策でない。

収容所内部に他の兵士がいないことを確認し、ギリーとレザフがスタンガンを持って小屋に入っていく。
小屋の中では兵士が二人、いびきをかいて寝ていた。念のためスタンガンを打ち込み、身ぐるみをはいで縄で縛る。
入口でほかの兵士が来ないか見張っていたルーチャに脱がした兵士の服を掲げて合図を送る。
石壁の中はまだ、光を放っているーーー

身ぐるみをはがし、縛って小屋に詰め込んだ兵士たちを眺め、ギリーはため息をつく。

「何とかいったな」

ルーチャが首をかしげ、不安そうにつぶやく。

「ただ、情報に対して2人足りないね」
「前夜祭に行ってるんだろうな。あと少しすれば祭りが終わって帰ってくるはずだ」
「なら気は抜けないね。でももうひと踏ん張りだ」
「ああ、あと少しでみんなを解放できるんだ」

ギリーとレザフが軍服に身を包み、マスケット銃を持つ。正面からは見えないよう、腰からスタンガンを携えた。
ルーチャは二人が入口に立った後、兵士を下ろし、だれもいなくなった見張り台の一つに上り、狙撃銃を構える。
3人は石壁の明かりが消えるのを、ただじっと待っていた。

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