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2-17

「さて、やってみるわよー」

 クッキーを食べ終え、半ば掻きこむようにコーヒーを飲み干したすぐ後。
腕捲りをしてやる気に満ち溢れている姉を横目に、私は使ったお皿を濯いでいた。

「ちな、何を思いついたん?」

 背後からやる気の炎が見え隠れしている姉とは対照的に、陽夏は不思議そうな顔をしながら薬草をまな板に並べている。

「コーヒーに牛乳を入れるとカフェオレになります」
「は、はい?」
「だけど分類はコーヒーです」
「さっきウチが言ってたこと?」

 姉は陽夏がさっき言っていたことを復唱しながら、冷蔵庫に保管しているものを取り出しに向かう。
私は濯いだ皿を食洗器に放り込んだ。

「アイスティーにガムシロップを入れると、見た目は変わらないのに味は変わるの」

 姉が持ってきたのは、家に保管してあるいくつかのシロップ。
この間作っていたオレンジのシロップや、いつもお世話になっている集荷のお兄さんに、お礼として渡すのだと言っていたミントのシロップも入っている。

「だから、既にできているもの同士を混ぜたらどうなるのかなって」

 姉は家用に保管してある低級回復ポーションもいくつか並べていく。

「既に出来上がって出荷できる状態のポーションと、できたてのポーションとの違いも比べてみたいの」

 やってみる価値はあるわ。なんて言って、姉は好戦的に笑った。

「なんか、カナタさん戦闘民族みたいっすよ」
「あ、あら? そんな顔してたかしら?」

 照れたように頬を抑える姉。
私は手を拭きながら笑う。

「でもおねえちゃん、ポーションやシロップ作っているときは、戦闘職もびっくりの集中力とかたまに殺気も出ているよ」
「え?! ウソ、やだー、全然気が付かなかったわ!」

 忘れて、忘れて! そう言いながら手をぱたぱた振り回す姉に、笑い声が零れた。

「さて、私たちは薬草刻むね。おねえちゃんは?」

 赤くなった顔を誤魔化すように手で仰ぐ姉は、気を取り直してポーションの瓶を手に取った。

「わたしは既製品同士を合わせてみるわ。その後、新しくポーションを作ってみるから」

 言いながら、彼女はシロップの蓋を開けている。
陽夏は最初の頃よりも幾分か手慣れた手つきで薬草を刻んでいく。
私も彼女に倣い、まな板に薬草を取った。



「……うーん……。既製品同士はダメねぇ」

 姉が唸る。
家にあるシロップとポーションをそのまま合わせると、低級回復ポーションとシロップをただ混ぜた味になり、低級回復ポーションの失敗作となってしまう。
最早栄養ドリンク並みの効果さえ得られない。
どのシロップでもそうだったから、既に作り置きしてあるポーションと作り置きしてあるシロップでは、何かがダメだということなのだろう。

「ま、いいわ。次ね。ポーションを作っちゃうわ」
「はい、薬草」
「ありがとう、ふたりとも」

 姉はいつもしているように、低級回復ポーションを作っていく。
私たちはもういっちょ、薬草を刻んでいく。

 薬草を刻む小気味のいい音と、鍋から小さく沸騰する音が響いてしばらく。

「後は濾すだけね」
「時間置かなくっていいの?」

 いつもだったら時間を置いて寝かせるはずだが、姉はすぐに濾そうとしている。

「今回、時間を置くのとそのまま濾すの、ふたつやってみるの」

 そう言いながら姉は、フィルター紙をかけた漏斗に、鍋の半量を注いでいく。
糸を引くように流れていく濃い緑色の液体が、漏斗一杯に溜まれば一度注ぐ手を止め、濾過が始まり減ってこれば、また注ぎ。

 鍋の半量のため、いつもよりも早く終わったその濾過作業。
普段なら瓶に直接流し入れているその作業も、今回ばかりはビーカーに注ぎ入れている。

「このふたつでダメなら、シロップも作りたてのやつを使ってみるわ」
「また時間かかるね……。おねえちゃん、疲れてない?」

 姉はにっこり微笑む。

「実はちょっと疲れちゃった」
「マジか。ちょ、終わったらカナタさん休憩取った方がいいって」

 だから、これで決まってくれるといいわね。
姉は、ビーカーに入った濃い緑色の低級回復ポーションに、傍にあったシロップを流し入れた。

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