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2-15

 台所には、いつも作っている低級ポーションの材料。治癒薬草と水、それを煮る鍋と漏斗、フィルター紙が並べられている。
それよりも一段と目を惹くのは。

「果物?」
「しかも籠盛り……」
「あ、それね、集荷のお兄さんがくれたのよ。おすそ分けだって」
「果物籠盛りをおすそ分けできる集荷のお兄さん、何者」

 昨日はミノタウロスのお肉をおすそ分けしてくれた集荷のお兄さん。
牛さんのステーキ美味しかったです、ほんと。

「まず、いつもだったら薬草と水を煮詰めて濾せば低級回復ポーションができるのだけど、それだと味はそのままなのよねぇ」
「おねえちゃんの余裕があれば、色々試してみる?」
「そうね。色々試させてもらうわ。ふたりは薬草を刻むの、手伝ってね」
「合点承知ぃ。……切るだけでいーの?」
「うん。私もできるなら全部お手伝いしたいけど。煮詰めるのと濾すのと、物によってはすり潰すのがあるんだけど、それは調合師のおねえちゃんがやらないと、私たちだとただの薬草汁になっちゃうから」

 ポーションは、調合師か調薬師、あるいは錬金術師のジョブが出た人しか作ることができない。
それ以外の人が作ると、同じ作り方をしていても、なぜかポーションではなく薬草汁。飲めば疲労回復などの効果を得られる、とてもまずい栄養ドリンクが出来上がってしまう。
 おそらく、これもジョブの技術の使い方は身体が知っているってことだと、そう思い始めてきた。

「それじゃあまず、混ぜるものを変えてみようかしら」

 そう言いながら、姉が手に取ったのは籠の中のオレンジ。
果物ナイフで器用に皮を剝いている姉を横目に、私はいつも通り、薬草を刻んでいく。

「め、メグ! なんか大きさバラバラになったんだけど?!」
「うん、大丈夫。あとでまとめてみじん切りにしちゃえば変わんないよ」

 いっしょに薬草を刻んでいると、意外にも、陽夏は不器用だったことが分かった。

「切ろうかしら、それとも絞ろうかしら……。ふたつ作ってみようかしら」

 姉は姉で、真っ二つに割ったオレンジを、ひとつは角切り、ひとつは絞り器で果汁を絞っている。

「薬草、切れた?」
「ばっちり」

 姉はコンロに鍋をふたつ並べ、薬草を等分にして入れていく。
そこにそれぞれ、果肉と果汁を加え、水で浸している。

「うまくいくといいわね……」

 祈るような姉の呟きと共に、コンロに火がかけられた。



「コーヒーって美味しいね」
「どうしたメグ。味見しすぎて味覚壊れた?」

 本日何杯目かの試飲の後、口直しのためにインスタントのブラックコーヒーを飲む。
チープな風味が今は癒し。

「うーん、バナナもダメねぇ」
「おねえちゃん、次は何ができたの?」
「薬草スムージーバナナ味。効果は栄養ドリンク並み」

 姉は出来上がったポーションの失敗作を見て溜息を吐く。
調合師などの生産職は、自分が作ったものに限り、どんなものができたのか判別できる能力を持つ。
それは使えば使うだけ洗練されていくもので、使い始めの頃であっても、どんな名称で呼ばれているものかは判別できるのだという。
俗に言う、鑑定スキル。ただし自作のものに限る。

「恵美も鑑定はできるようになるわよ。盗賊(シーフ)だもの」
「でも、修得は大変だって言うでしょ」
「そうね。同じものを何回も観察して、名前を覚える。それを繰り返してようやく使えるようになるって話だしね」
「おねえちゃん、やけに詳しいじゃん」
「昔付き合いのあった人たちの中に、盗賊がいたのよ」

 注がれたスムージーを舌に乗せる。
苦めの野菜ジュースとバナナを合わせた、人を選びそうなお味。

「中々うまくいかないね……」
「新しいものを作ろうって言うのだもの。失敗は当然あるわ」

 姉は伸びをする。
背骨からぽきぽき音が鳴っている。

「少し休憩にしましょう。今日はクッキーを焼いたから、陽夏ちゃんも是非食べていって」
「ありがとうございます! いただきまっす!」

 使った道具を洗っている姉の隣で、私はやかんを火にかける。

「クッキー、棚の上の菓子缶?」
「ううん、暑いから、冷蔵庫の中よ」
「分かった」

 冷蔵庫の中を見る。
いつも通りアイスティーが常備されていて、奥には大皿に冷えたクッキーが乗っている。
それを取り出し、あらかた片付いている机の上に置いた。

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