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「いやぁ、世話かけたねぇ」
「ほんとだよ。サイモンさんと医務室員さんにもう一回お礼を言ってきていいレベルだよ」

 青汁がバターの海で泳ぎながら、私の口内に後味として残ったあの後。
メインホールには私だけ戻った。
陽夏は起きたら合流させるから。ということで。

 戦闘実践では、陽夏の時のようなトラブルも起こることなく、平穏無事に試験が終了する。
一度だけ、陽夏が水浸しにした床で滑って転びそうになった受験者がいたが、彼は合格していたから些細なことだろう。

 一日かかった試験は残すところ合格発表だけとなる。
発表をするためにサブホールへと戻れと号令がかかり、戻れば陽夏は既にそこに座っていた。

「魔力切れだって。陽夏、魔力ヤバいって自覚あった?」
「んー、なんか力が抜けてってる感覚はあったけどさ……。なんか、水玉がデカくなってんの見て、楽しくなっちゃって」
「もー。魔力限界超えたら、死ぬかもしれないって言われて怖かったんだからね」
「メンゴ。次から気を付ける」

 陽夏は反省してると言うが、態度は軽い。
それに私がもーもー言っていれば、それよりさ、と彼女は杖を取り出す。

「見てよこれ。なんか、いー感じに出来てきてね?」

 見せてくれた杖は、戦闘実勢で取り出したときの生木の印象は消え、全体的に薄く空色のグラデーションがかかっている。
それに加え、ツタを模した模様が巻き付くように登ってきている。
その先端には蕾が固く閉ざされている。

「何が咲くんかね? めっちゃ楽しみ」

 陽夏はうきうきとその杖を撫で、大切そうにしまい込む。
杖を入れていた袋の口を閉じると同時、サイモンさんが入室する。

「では、合格者発表に移る。だがまあ、ここで読み上げることはしないので安心してほしい」

 彼がそう言いながら掲げたのは、袋綴じになっている紙。

「これがそれぞれの合格、あるいは不合格通知だ。合格と書かれているやつも、但し書きで指定講習を受けなければダンジョン入りを認めないと書かれている場合もある。その場合は、それに従うように」

 合格だった場合は、探索者証明書の発行についても書かれているとサイモンさんが教えてくれる。

「これはここでは開けるなよ。受け取ったやつから解散しろ」

 こうして、私たちの探索者試験は幕を引いた。

「じゃ、帰ろか」
「そうだね」
「今日、寄ってっていい? カナタさんに頼みたいことあるんだ」
「いいよ。電話しておくね」

 携帯電話を取り出しながら、試験会場を出る。
圏外になっていた電波は、その瞬間三本しっかりと立つ。

「陽夏さーん、恵美さーん!」

 その声が背後から聞こえてきたのは、姉に電話をしようと、連絡先一覧を開いたところ。
振り向けば、結衣ちゃんが息を切らせて携帯を出していた。

「連絡先、交換しませんか?!」

 思わず陽夏と顔を見合わせる。
陽夏のどこか驚いた表情が目に入る。

「私はいいけど、どうしてって聞いてもいい?」
「これも縁ですし。その、あたし、お二人に助けてもらって、すごくうれしかったんです。もっと仲良くなりたいって、思っちゃったんです」

 私は携帯の個人連絡SNSのQRコードが描かれた画面を向ける。
結衣ちゃんは躊躇いなくそれを読み取る。
陽夏はほんの少し唸る。

「言っとくけどウチ、連絡無精だから。緊急の連絡でも返事しないことザラだから」
「全然問題ないです!」

 結衣ちゃんはとても嬉しそうに、陽夏の連絡先を追加した。

「ありがとうございました! ちょっと、グループの子たち待たせているんで、あたしもう行きますね」
「はいよ。……ま、気が向いたら連絡するし」
「気を付けてね」

 結衣ちゃんは満面の笑みを浮かべ、元来た道を戻っていく。
遠くに、彼女のいるグループが談笑しているのが見えた。

「……ウチらも行くか」
「うん。あ、おねえちゃんに電話」
「おー、しなしな。待ってるからさ」

 私は陽夏にありがとうと言い、姉の連絡先をタップした。

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