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2-7

 宮野さんの合図で昼食作りという名の魔物カプセル狩りが始まったはいいのだけれど。

「あーもう、コイツちょこまかとー!!」
「うわーん! お願いですから捕まってくださーい!」
「あっ、結衣ちゃんそっち行った!」

 このカプセル、非常にすばしっこい。
掴んだと思ったら手をすり抜けていく。まるでウナギ。
しかも色はそれぞれ違うとはいえ、みんな同じカプセル型なのに、動きはてんでバラバラ。規則性を掴みにくい。

「……よし。やってみるか」

 このままだと捕まえることができないと判断し、考えた末に思いついた答えは。

「陽夏、結衣ちゃん。ちょっと協力してほしいんだけど……」

 ふたりに耳打ちをする。
幸い、私の作戦にふたりは乗ってくれた。

「じゃあ、どれを狙うかってことだけど……」

 足元を緑色のカプセルが転がっていく。
それは一度止まり、向かう先を視線で追った私たちの方に振り返る。

「(ヘッ)」

 物言わぬカプセルのはずなのに、それは私たちを嘲笑した。
表情なんて何も無いはずなのに、嘲笑したことがありありと分かった。

「……」
「アイツでよくね?」
「賛成です。ムカつきます」
「お昼ご飯、決定」

 それじゃあ、作戦通りに。
私はそう言い残し、まっすぐにそのカプセルを追う。
それは意外と素早く、他の参加者の足元を一直線に逃げていく。

 そう、それでいい。
私はひたすらに直線でそれを追う。
やがて、中庭と室内を隔てる壁に、それを追い詰める。

「つかまえ、たっ!」

 捕獲しようと跳びかかるも、それは器用に腕の間をすり抜け、左側の壁伝いに逃げていく。
しかしそこには。

「待ってましたよーっ! 捕まってくださいっ」

 大きく手を広げ、待ち構えている結衣ちゃんが。
カプセルは慌てたように方向転換し、直角に逃げていく。
大きく口を広げている、陽夏の立てたテントへと。

「よーこそっ、ウチのテントへっ!」

 勢いを殺しきれずに陽夏のテントへとダイブしていったカプセルは、待ち構えていた陽夏のリュックの中に飛び込んでいく。

「確保ーっ!!」
「やった!」
「やったやった! とりました!」

 陽夏のテント内に集まった私たちは、揃ってへたり込む。
リュックの中ではまだ暴れているのか、ぽこぽこ、ぽこぽこ動いているのがよくわかる。

「よし……ボタン、押すぜ?」
「よろしく……!」

 陽夏がリュックの中に手を入れる。私たちは万が一逃げてもいいように、両方の入口を固める。
逃げ回るカプセルに手が触れたらしい。
彼女の喉が上下する。

「押し……たっ!」

 ぽこぽこ動いていたカプセルの気配が止まる。
テントの中は、ほっとした空気で満たされた。

「恵美さんの作戦勝ちですね!」
「うまくいってよかったよ……」
「てか、敷いてた魔法陣外すの何気に大変だったし」

 陽夏が肩をぐるぐる回す。
その横で、結衣ちゃんが動かなくなったカプセルを開けている。

「えっ、うわぁっ!」
「結衣ちゃんどうしたの?!」
「お、お肉があぁぁ」

 そう言ってこちらに見せてくる彼女の膝には、笹の葉らしきもので包まれているステーキ肉。占めて四枚。
どうやら、手の平に収まるサイズのカプセルから、厚めのステーキ肉が四枚も入っていたことに驚いたらしい。
摩訶不思議カプセル。
 カプセルの中にはもうひとつ、長く細い帯のような紙が入っていた。

「これあれじゃん。ガチャに入っている種類が書かれてる紙」
「もう本当にそれだよ。これガチャガチャだよ」

 帯には多くの食材が印刷されている。
笹の葉に包まれているお肉は一種類、『カク・ボア』という魔物のお肉らしい。
他にも、ホーンラビットの肉とか、『モアレバッファロー』の肉。野菜の欄で目を惹いた、『マンドラゴラ』などもあった。

「カク・ボアって真っ直ぐか直角にしか動けない魔物らしいですよ。その分追突された時の衝撃がものすごいとか」
「ほーん。なになに、肉はイノシシ肉に似ているが、調理は牛肉と同じでいい、レアでも食べられる便利な魔物……」
「ステーキ、かな」

 私たちのお昼ご飯はステーキになった。素敵。



「はー、もうお腹いっぱいです……」
「そりゃ、あれだけデカい肉をひとりで二枚も食ったらそうなるわ」

 なんとなく打ち解け始めているふたりを横目に、私は使ったクッカーを片付けに向かう。

「クッカー片付けに来ました」
「はーい。そこに置いておいてくださいー」

 私たちと同じようなテントの中でパソコンを弄っている宮野さん。
彼女に示された場所には、既に昼食を食べ終えた人が何人かいるようで、クッカーが山と積まれている。
私が同じ場所に置いたことを見届けると、彼女は紙を三枚程束ねた薄い冊子を渡してくれる。

「これがあなたたちの班の総評ですー。皆さんで見てくださいー」

 いつの間に作っていたのだろう。
内心驚いている私の手に、その冊子は握らされる。

「注意事項などはそこに書かれていますがー。とてもいい作戦でしたぁ。次も頑張ってくださいねー」
「ありがとうございます。……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんでしょうー」
「ダンジョン理論では、敬語は無駄だって言われたのですが……」
「ああー。たしかに、戦闘している間は敬語なんて使ってられませんねー。ですが、ここはお昼ご飯をのんびり食べられる、安全地帯の想定ですのでー」

 ゆっくり休憩するためには、下手に敵を作らない方がいいですよー。
そう言って、彼女は悪戯気に笑った。

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