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赤ちゃんががが その2

 コンビニおもてなし4号店のバイトのチュンチュが妊娠したとの連絡に思わず笑顔になった僕だったのですが……

 このときの僕は知るよしもありませんでした。

 これが、これから始まる大騒動の第一報に過ぎなかったことを……

◇◇

「店長さん、大変なんですめぇ」
 そう言いながら転移ドアをくぐってコンビニおもてなし本店に姿を現したのはリンボアさんでした。

 テトテ集落で、おもてなし商会テトテ集落店ならびにコンビニおもてなしテトテ集落出張所を管理してくださっている人羊族のおばあさんです。

「それがですねぇ、赤ちゃん用品をお求めの皆様が殺到なさっておられますめぇ……」
「え?」

 その言葉に、最初反応出来なかった僕。

「なんでまた赤ちゃん用品が……」
 テトテ集落にあるコンビニおもてなしは、簡易店舗である出張所です。
 そのため、扱っている商品が少ないんですよね。
 元々お年寄り人口がほぼ100%だったこともありまして、テトテ集落の出張所には赤ちゃん用品を置いていなかったのですが……

「それがですねぇ……お嫁さんに来てくださった魔法使いの皆様が、ここに来て次々に妊娠なさっておられましてぇ」
 リンボアさんは、うれしさと困惑が入り交じった表情をその顔に浮かべておられました。

 ……そうでした

 このテトテ集落には、少し前からコンビニおもてなし3号店があります魔法使いの森にお住まいの魔法使いの皆さんがお嫁さんとして結構な数、移住なさっていたんです。
 テトテ集落の皆さんって、平均年齢が70を越えているんですけど、一方の魔法使いの皆様も長命なエルフ族の皆様が大半ということもありまして、見た目は2,30代の皆様ですが、平均年齢で言うと100才を軽く越えておられるわけですはい。

 と、いうわけなので
「皆さんお若いですしぃ」
「農作業で逞しいですしぃ」
 との評価になっていた次第でして……

 で、その嫁(とつ)がれた皆さんがここに来てどんどん妊娠なさり、事前準備のために、と、赤ちゃん用品を購入するために出張所に大挙して訪れておられるのだとか。

「そりゃ確かにめでたいことだし、うん、すぐになんとかしないと」
 そう考えた僕は、本店の倉庫に置いていた赤ちゃん商品を全部魔法袋に詰めまして、それをリンボアさんにお渡ししました。
「とりあえず、これを販売してください。追加は出来次第お持ちしますので」
「はいわかりました、助かりますめぇ」
 リンボアさんはそう言うと、そそくさとテトテ集落へ戻って行かれました。

 しかし……僕もあんまりのんびりはしておれません。

 コンビニおもてなしで販売している赤ちゃん関連の商品ですが……
 この世界に、赤ちゃん用の商品があまり出回っていなかったのもありまして、とにかくよく売れているんです。

 哺乳瓶
 粉ミルク
 知育玩具
 衣類

 僕が元いた世界のコンビニエンスストアでは滅多に扱っていないであろうこれらの品を販売しているだけでなく、どの本支店でも、結構なスペースをこの赤ちゃん商品のために使っていたりするんです。

 ここで、新たにテトテ集落でも赤ちゃん用品を扱う必要が出て来たわけです。

「今後は、テトテ集落の出張所用の赤ちゃん用品を準備しないといけないな……ガラス工房のペリクドさんと、ルア工房のルアに早速連絡しないと……」
 
 ペリクドさんのガラス工房では、赤ちゃん用の哺乳瓶などを

 ルアのルア工房では、抱っこ紐やベビーカー、離乳食の入れ物などを

 それぞれ製造・納品してもらっていますからね。
 その納品量の増加をお願いしないといけません。

◇◇

「……え?」
 
 最初に出向いた、ブラコンベにありますペリクドさんのガラス工房を訪れた僕は目を丸くしてしまいました。

 ペリクドさんが留守だったので、そのお弟子さん筆頭のゴブリンのホクホクトンさんが僕を出迎えてくれたのですが
「ペリクド師匠はしばらく工房に顔をだせないと思いますなぁ」
「な、何かあったのかい?」
 ホクホクトンさんの言葉に、僕は思わず目を丸くしてしまったのですが、そんな僕にホクホクトンさんは
「いやぁ、ペリクド師匠の家にまたお子さんが出来ましてな。今度はなんでも6つ子だとか」
 そう言いながら嬉しそうに笑っておられます。

 ……いや、めでたいです

 めでたいんですよ……ですが、僕の記憶に間違いがなければ、ペリクドさんのお宅って確かすでに20人近いお子さんがいたはずじゃあ……

「そんなわけで、奥さんが動けるようになるまで小さいお子さん達の面倒をみないといけないとかで……」
「あ、あぁ、そりゃそうだよね」
 ホクホクトンさんの言葉に、僕は頷くことしか出来ませんでした。

 とはいえ、めでたいことに代わりはありません。
 折を見て、ペリクドさんの家にお祝いをお持ちしようと思います。

 で、一応ホクホクトンさんに事情をご説明しまして、赤ちゃん関連商品の納品増をお願いしたのですが
「いつも大変お世話になっているコンビニおもてなしさんからのお願いですんで、なるべく善処させてもらいます」
 ホクホクトンさんはそう言って胸を叩かれました。

 その言葉に、少し安堵しながら、僕はナカンコンベへ移動していきました。

◇◇

 「……え?」
 
 ナカンコンベにありますルアのルア工房ナカンコンベ支店を訪れた僕は再び目を丸くしてしまいました。

 ルアが留守だったので、その二番弟子の猫人のベルリーナが僕を出迎えてくれたのですが
「ルア師匠はしばらくお店に顔を出せないと思いますにゃあ」

 その言葉に、どこかデジャブーといいますか、嫌な予感を感じている僕……

「な、何かあったのかい?」
 ベルリーナの言葉に、僕は嫌な感じを覚えながら声をかけたのですが、そんな僕にベルリーナは
「いやぁ、ルア師匠、2人目を妊娠なさったそうなんですにゃあ。いやぁ、めでたいめでたいにゃ」
 そう言いながら嬉しそうに笑っています。

 なんといいますか……思いっきり予感通りの展開を前にして、僕は苦笑することしか出来ませんでした。

 とはいえ、やはりめでたいことに代わりはありません。
 あとで、ルアの家でもありますガタコンベのルア工房へお祝いを言いに行こうと思います。

 そんなわけで、ここでもペリクドさんのガラス工房の際と同じように事情を説明して商品の増産をお願いしたところ、
「はいにゃ。いつもすっごくお世話になっているコンビニおもてなしさんからのお願いにゃし、目一杯頑張らせてもらいますにゃ」
 ベルリーナはそう言いながら胸をドンと叩いてくれました。
「悪いけど、よろしく頼むね」
 そんなベルリーナに手を合わせた後、僕はガタコンベにありますコンビニおもてなし本店へ戻りました。

 いやぁ……しかしあれですね。

 テトテ集落の皆さん

 ペリクドさん

 ルア

 おめでたい話がこうして続くのは、なんだか嬉しくなりますね。

 コンビニおもてなし的には、商品の増産に関して少々不安を感じなくもないのですが、めでたいことには代わりありません。
 それに、ホクホクトンさんもベルリーナも、増産を出来る限り頑張ってくれると言ってくれてますし。

 いや、しかしあれです。

 これが、コンビニおもてなしの店長クラスの誰かが
「妊娠したので産休をもらえますか」
 なんて言って来ていたら、今の僕ももっと慌てふためいていたと思います。

 チュ木人形達を増産したとはいえ、彼女達が対応出来るのは単純作業が中心ですからね。
 店長・副店長クラスの人材は今の不足してますので……

 そんな事を考えていた僕の元に、
「あの店長様、少々よろしいでしょうか?」
 そう言って、本店の副店長を務めておられます魔王ビナスさんがやってこられました。

「はい? ビナスさんどうかしましたか?」
「実はですね、私2人目を妊娠してしまいまして……つきましては少し早めの産休を……」

「……え?」

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